文章を書くうえで必須ですが、仕事の本質をとらえるうえでも役に立ちます

いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どうやって(How)――。

文章を書くうえでも大事な「5W1H」。「仕事のできない人は『5W1H』がわかっていない」(2017年7月28日配信)でもお伝えしたように、ビジネスの現場に当てはめてみても「課題提起」「アイデア発想」「戦略プラン策定」「説得ロジック構築」「問題解決」など、あらゆる場面で使える万能の思考ツールです。

実際に5W1Hに着目したビジネスの成功事例にはどのようなものがあるのでしょうか。拙著『シンプルに結果を出す人の 5W1H思考』でも触れている、5W1Hでどのように分解したらいいかを解説します。

「何を何に変えた(○○⇒○○)?」に着目

ここで紹介する2つの事例は、それぞれ、従来のものから何を変えた(転換した)のかを考えるのがポイントです。「何を何に変えた」=「○○ ⇒ ○○」と表現してみてください。単に「◯◯ができるようになった」ではなく、従来の本質的価値をどう変えたのか、を見つけてください。要素は1つとは限りません。

ヒントをお伝えすると、5W1Hでそれぞれの要素を見ていったとき、なるべく対極的な転換点に着目することです。

ケース.┘ナカ(駅構内)

エキナカ(駅中)とは、鉄道ターミナル駅などの構内にある商業施設のことです。JR東日本のecute(エキュート)など、いまや乗り換え駅の中にお店が立ち並ぶのは珍しいことではありません。おしゃれなフランス料理や日本料理の名店、高級ブランド店、リラクセーション・マッサージまで、いろいろなお店やサービスが展開されています。

エキナカは従来の“駅”の何を変えたのでしょうか?

単に「買い物や食事がより多くできるようになった」というだけでは、表面的な変化を指摘しているにすぎません。一昔前だって、駅にはキオスクや立ち食いそばなどはありました。では、何が本質的な転換なのか?

1つ目は、 「駅の利用時間(When)」の概念を、鉄道事業者が大きく変えたことです。エキナカは、駅を「通過拠点(短時間で済ませる)」から「滞在拠点(長時間滞在してもらう)」へと、大きくコンセプトの転換をしたわけです。

2つ目は、「駅の利用者(Who)」を変えたことです。「電車を利用して移動したい人」から「移動者に限らず、あらゆる人々」が集え、楽しめる空間と定義しました。これらの対極的な変更が非常に大きな事業の転換を導いたのです。


駅の滞在時間(When)と駅の利用者(Who)の概念を大きく変えたことで、さらには駅という場所(Where)のコンセプトも変化したといえます。

従来の駅構内のメイン施設(立ち食いそばなど)は、移動したい人が電車待ちや乗り換えの時間調整をする場所。いまや当たり前のものに感じるかもしれませんが、これまでの、「移動者が短時間で済ませたい時間調整の場所」という前提で駅や構内スペースをとらえていたら、駅構内(改札内)で展開する施設やサービスも現在のように大きく広がってはいなかったでしょう。

「(移動者のみならず)あらゆる人が、(改札内でも)長時間滞在してもらうところ」と、根本概念を変えたからこそ、“駅”は、今のように日常生活で利用できる非常に魅力的な場所になっているといえます。

このように考えると、スポーツ施設、医療・介護施設、アミューズメント施設、コミュニティ(交流)スペース、スキルアップのスペースなど、事業展開アイデアがまだまだ広がることが想像できると思います。

従来のファッションショーとの違いとは

ケース東京ガールズコレクション(ファッションショー)

東京ガールズコレクションは、2005年から年2回のペースで開催されている、主に若い女性向けのファッションショーです。多数の芸能人や有名人(最近は小池百合子東京都知事など)が出演し、テレビなど複数の媒体でも紹介されているので、すでにおなじみのものになっています。

これは従来のファッションショーと、どのような点が変わったのでしょうか?

「大規模な(数万人規模の)ファッションショー」「その場で洋服を買える」「ライブも行っている」「香里奈、ローラ、桐谷美玲など、ファッションモデルやタレント、女優なども出てくる」など、さまざまありますが、5W1Hの要素で考えてみると、従来のファッションショーとの違いがよりはっきりすると思います。

ここでの本質的な違いを生み出すドライバーは、ショーの関係者とその関係性です。「誰が誰に何のために提供するか」。パリコレなど従来のショーが、主に「一流の服飾ブランドのデザイナー」が、「特定少数のファッションのプロ(バイヤーやマスメディア)」に、「作品を(無料で)発表する」ために行うのに対し、東京ガールズコレクションでは、主に「カジュアルブランドのクリエーター」が、「不特定多数の素人(広く10代後半から20代の女性)」に、「服を(有料で)販売する」目的で実施しているのです。


つまり、目的(Why)は、「服を紹介する」ではなく「服を商売する」になりますし、そのために、場所(Where)は、小規模の会場ではなくて大規模なスタジアムやアリーナになります。そして、ショーのやり方(How)も、静かなBGMの中でモデルのウォーキング(歩き)を中心に行うのではなく、若い女性に人気のあるタレントやタレント系モデルがマイクパフォーマンスや歌などを披露するライブ形式になり、ショーの様子を広く配信し、携帯サイトなどを通しても服を購入できるというスタイルになるわけです。

このように、5W1Hのいずれかの切り口で対極概念を意識して整理すると、本質的な違いがよく見えてきます。

「会いにいける国民的アイドル」AKB48の原点

そして最後に総まとめとして、AKB48のビジネスモデルについて考えていきます。日本の女性アイドルグループのトップを走るAKB48。2005年のデビュー以来10余年にわたり、その活躍は留まるところを知りません。

毎日劇場で公演し、成長の過程が見えるアイドル。総合プロデューサーの秋元康氏はさまざまなメディアでコンセプトを明かしています。これにこそ、実は従来のアイドルとは異なるエッセンスが凝縮されているのです。

それまでの普通のアイドルは、テレビなどマスメディアへの露出度を上げること、全国行脚(コンサートなど)で各地にファンを増やすことに力点を置きます。特定の“ハレ”の日に照準を合わせ、不特定の場所で活動するのがベースです。

一方、AKB48の活動のベースは「毎日(When)、固定の劇場(Where)で公演すること」です。オタクの聖地、秋葉原に活動をフォーカスし、その駅前のドン・キホーテの8階に構える「AKB48劇場」という、自前の小さな劇場で、基本毎日パフォーマンスを行います。

つまり、「いつ、どんな過程をもって、活動するのか?(When)」「どこで、どんな場で、演じるのか?(Where)」。このシンプルな問いこそがユニークなコンセプトの発想起点と考えられます。

通常、新しくアイドルを世に送り出すときは、「キャラの中身や演じる楽曲、パフォーマンスなどの内容(What)」「宣伝手段や出演媒体などの方法(How)」で「売り」を作ることがほとんどですが、そこから大きく発想転換したことがAKB48の成功のカギといえるでしょう。


さらには、「誰が顧客ターゲットなのか?(Who)」についても、大きく差別化しています。AKB48も今でこそ幅広い層に支持されていますが、当初はアキバに集う若者から中年までのアイドルオタクがターゲットでした。彼らの要求水準は非常に高く、一方で伝播力が強いニッチ層です。この点も従来の一般的なアイドルとは異なるところです。

「目の肥えたアイドルオタクというニッチ層(Who)」を当初のターゲットに据え、「顧客の顔が見える自前の小劇場(Where)」を中心に、「365日毎日(When)」ライブ活動やさまざまなイベントを行う発展途上のアイドル。

ファンの至近距離での反応やニーズを日常的に収集し、斬新な振り付けや楽曲の改善・創出につなげ、その成果をまたファンと分かち合うという、Who-Where-When三位一体での力強いフィードバックサイクルを回すことでしだいに実力をつけ、全国区進出を果たしたのです。


思考の枠組み、発想のテコとしての「5W1H」

このように、5W1Hという、シンプルな問いのレベルに落とし込むことにより、思考が整理され、本質的な違いが比較しやすくなります。さらに、対極的なアイデアを考えやすくなり、発想や視野を広げることにつながります。単に“行動プラン”を作るときだけでなく、創造的なアイデア発想の場面でも役に立つのです。