食の「普通の欧米化」で生活習慣病を減らす(depositphotos.com)

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 「2型糖尿病や肥満を改善するのには糖質制限すべきだ」と言うと、次のような反論があります。

 「日本人は神代の時代から白米を食べて来たのだから、必ずご飯を食べるべきである。日本で糖尿病が増えたのは、第二次大戦後であり、食の欧米化が原因だから、和食に戻すべきである」

 さて、本当にそうなのでしょうか? そもそも「食の欧米化」って栄養面から見たらどのようなことを指しているのでしょうか?

動物由来のたんぱく質と脂質の摂取増加で日本人の平均寿命は延びた

 日本人の平均寿命は現在、世界でもトップクラスです。これ、実は第二次大戦後しばらくしてから劇的に伸びたのであり、戦前の日本人の平均寿命は60歳程度でした。その頃の欧米に比べれば15年から20年は短かったのです。結核や感染症での死亡者の数はかなり多い国でした(参考:主要先進国における平均寿命の推移)。

 これが1965年ころには男女ともに欧米などの先進国の仲間入りをします。医療の進歩もありましたが、それだけではなく、大きな変化をもたらす要因があったはずです。なんだったのでしょう?

 第二次大戦後、戦争で疲弊した日本人は必死で食料を作り食べました。それまでの米や魚だけでなく、アメリカの統治下で欧米式に肉や乳製品をたくさん食べる習慣も身につき、様々な食材を食べるようになりました。戦後の日本人の動物性のたんぱく質や脂質摂取量は一気に増えたのです。

 食生活の変化で栄養状態が良くなり、免疫力がアップ、感染症などに強くなったことが平均寿命の延びに大きく貢献していると考えられています。つまり、戦後から1960年代にかけての日本の食の欧米化は、歓迎すべき変化だったのです。良い欧米化です。

日本で糖尿病が増えたのとほぼ同じ頃から欧米でも糖尿病が増えている

 さて、その一方で、1980年前後から戦前の日本にはあまり見られなかった「肥満」や「生活習慣病」の患者が目立ってきます。この30〜40年の「2型糖尿病」患者数の激増は皆さん良くご存知のことでしょう。

 日本糖尿病学会もこれに警鐘を鳴らし、食生活を改善するように言いました。いわく、食の欧米化が日本人の脂質摂取量を増やし、これが血糖値を上げて糖尿病を始めとする生活習慣病の患者を増やしているのだ、と。

 さて、上述のごとく日本人の平均寿命を伸ばした動物性のたんぱく質や脂質の摂取ですが、本当にそれが生活習慣病の患者数を増やした原因なのでしょうか? 食の欧米化で生活習慣病が増えるのなら、欧米では戦前から現代に至るまで生活習慣病の患者数はたいして変わらないはずですよね?

 ところが、欧米でも肥満や生活習慣病の患者数は、日本より少し先行して、1960年後半くらいから増えてきて、1980年ごろからは爆増しているのです。世界平均の4倍の数になっているといわれています。

欧米で糖尿病が増え出したころ、スナック菓子の販売量が激増している

 欧米でその頃、何があったのでしょうか?

 こちらもライフスタイルの変化です。1950〜1960年代、日本人がアメリカのホームドラマをテレビで見て憧れたアメリカ人の豊かな暮らし。それは自動車や電化製品を取り揃えて、主婦も家事にかける時間が短くなり、みんなでソファーに腰かけてテレビを見ながらスナック菓子を食べ、ジュースを飲む生活です。

 そう、生活におけるエネルギー消費量が減り、間食での糖質摂取量が激増しています。たとえば、アメリカの子供たちの1970年代と2010年代を比較すると、1日の間食の回数は平均3回から6回に増え、摂取カロリーも570kcal増えているというのです。

 これ、日本でも1980年代から言えることではないでしょうか? エアコンがほとんどの家庭に普及して体温調節でエネルギーを使わなくなり、さらにはテレビの前でごろごろするカウチポテト族なんて言葉が出てきたのが1980年代です。

 のべつまくなしに食べるスナック菓子の習慣が、のべつまくなしのインスリンの放出を招き、太るだけでなくインスリンの抵抗性も上げているのです。肥満を増やし糖尿病を増やす「食の欧米化」という名の「間食(主に糖質)」の増加。悪い欧米化ですね。

「良い欧米化」「悪い欧米化」ではなく「普通の欧米化」に 期待を込めて

 さて、「良い欧米化」「悪い欧米化」とくれば、「普通の欧米化」があるのかどうか気になりませんか? 食の世界に「普通の欧米化」って言葉がもしもあるとすれば、多様性を認めるということではないでしょうか?

 糖質制限をひたすら否定して「お米は悪くない」と主張するのではなく、さまざまな食餌療法によって糖尿病をはじめとする生活習慣病を回避するのです。アメリカ糖尿病学会(ADA)の主張するような食生活の改善ですね。

 もちろん、糖質摂取量を減らすのが大正解ですが、それだけにこだわる必要はありません。

 たとえば、「カロリー制限+運動」でがんばる。「糖質摂取量は減らしたくない」という人は、それでいけばいいです。ベストではありませんが、糖尿病の悪化を緩やかにする程度の効果はあります。地中海式ダイエットや植物性のたんぱく質や脂質を摂取を中心に生活したければ、それも選択肢の一つでしょう。肉を食べることが怖い人に、強制はしません。

 日本もそういう懐の深い「食の欧米化」で生活習慣病を減らしていけたらいいな、そう思います。普通の欧米化ですね。

連載「肥満解読〜痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)
大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。