一発勝負の現場が緊張感を生む 北野武監督
 - 写真:高野広美

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 最新作『アウトレイジ 最終章』が10月7日から公開される北野武監督の撮影現場は、ほかの現場と違って、ドライ(カメラ無しで芝居を通しでやるリハーサル)を1回やったらいきなり本番に入ることで知られ、俳優たちの緊張もハンパではないという。だが、なぜそのやり方を徹底させているのか? 監督は何をそこに求めているのか? それによる効果と弊害は? いまさら聞けないそんな質問を、北野監督と本作が3本目の北野作品への出演となった大森南朋にぶつけてみた。

 すると、大森が「説明が無いまま始まる恐怖がいつもあります」といきなり戦慄の告白。さらに「今回の作品でも当日現場でマシンガンが傘に刺さっているのを知ったので、そういうことなのかと思い、監督がいない間に傘越しに撃つ練習をしました」と最新のスリリングなエピソードを明かす。

 ところが、それを聞いていた北野監督は「おいらは漫才出身だからね」と涼しい顔をしている。「だから、テストを重ねた方が役者に芝居が入っていくという道理がわからない。それに漫才は一発目が勝負で、やればやるほどネタを知っている客は笑わなくなるから、北野組でもその新鮮さを求めるやり方を踏襲して、特に指示も出さずにいきなり『どうぞ(やってください)』って言うんですよ(笑)」

 最近ではその北野組の一発勝負の撮影も浸透し、北野監督も「役者もそれなりの覚悟と準備をしてくるから、現場に入ったときから気合が入っているし、そうすると撮影も早く終わるからいいんだよ」と手応えを感じているようだ。

 だが、北野監督は思いがけない弊害もたまにはあると言う。「『BROTHER』(2001)のときだったかな。大杉漣さんがセリフを言いながらぶっ倒れちゃったんだよね(笑)。それで、『どうした?』って聞いたら、『テンションを一気に上げて“なんだ、このヤロ〜!”って怒鳴りまくったから、貧血を起こしました』って。あのときはビックリしたよ(笑)」

 要は無理のないところで緊張感を保つのがいちばんいいのかもしれないが、そんな一般人の考えを打ち消すように、大森が「でも、北野組の緊張感のある現場に一度ハマると、ほかの現場に行ったときにあれ? となっちゃうときがあります(笑)。実際、テストをすごくたくさんやって、作り込んでいく組もあるので」とまたまた素直にカミングアウト。『アウトレイジ 最終章』には、そんな北野組ならではのハイテンションな現場でまんまと覚醒した、いままでに観たことのない「大森南朋」が焼きつけられている。(イソガイマサト)