「Thinkstock」より

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 人材育成の専門家として企業などに出入りしていると、従業員の方々から何かと相談を受けることが多いものです。なかでも多いのは、「どうすれば出世できるか」「どうやって頭角を現せばよいのか」、別の言い方をすれば「どうすればブレイクできるのか」という相談です。彼らは社会人として経験を積み、努力しているものの、自分自身が過去に思い描いていたような華やかな成功のイメージには、なかなか近づいていないと感じています。

 真面目に働いているのですし、自分を成功へ導くきっかけが見つかってもいいはずだと思いながらも、何をどうすればいいのかわからず悩み、焦り始めているのです。

 これは私自身が若い頃から悩みに悩んできた事柄でもあります。一生懸命に働いていても、ビジネスパーソンとしての成功に近づいていないという不安や、成功への具体的な計画が立てられないことへの苛立ちは、よく理解できることです。

 そんなときに私が伝えるアドバイスは、「大きく成功したければ、小さな強みに磨きをかけろ」というものです。ありきたりな助言に聞こえるかもしれませんが、同じような悩みを抱える人がいれば、ぜひあらためて考えていただければと思います。

●どんな仕事の機会が与えられているのか

「どうすればブレイクできるのか」を考えるに当たっては、「どんなことに取り組むか」を熟考しなくてはなりません。何に注力するかによって、生み出される結果は異なってくるからです。

 私に相談に来る人たちのほとんどは、会社などの組織に所属して仕事をしています。皆が所属組織の業績を上げるために奮闘していますが、人材育成の専門家としてはじめに観察するのは、どんな人たちがその組織(たとえば、部、課、プロジェクトのチームなど)を構成しているか、ということです。

 話をわかりやすくするために、スポーツのチームを例に考えてみましょう。たとえば強豪といわれる大学駅伝チームでは、どんな選手がそのチームを構成しているのでしょうか。各区間を走るそれぞれの選手について、私が真っ先に考えるのは「駅伝の一区間(だけ)に使われることで、より大きな可能性がつぶされている選手はいないか」ということです。もしかすると彼らには、たとえばマラソンで記録に挑戦するような力があるかもしれないからです。そんな選手ばかりを集めて駅伝の一区間ずつを走らせれば、きっと強いチームをつくりやすくなるでしょう。

 あくまでも一般的な話ですが、私自身が昔は陸上競技の選手で、そんな選手を実際に見てきた経験もあることから、強いチームを見たときほど、そんなふうに考えてしまうわけです。

 会社などの組織でも、その人材の力を伸ばすような大きな仕事の機会は与えられず、組織の業績を上げることだけが考えられ、優秀な人材が小さな仕事だけに使われていることがあります。これは管理者が意図的にそうしているケースも、優秀な人材の能力を使いきる能力を持っていないケースも、あるいはなんらかのやむを得ない事情が存在するケースもありますが、自分の力を発揮したい人材からすれば、あまりに残念な話です。

 このような境遇にいるのならもちろん、そうでないにしても、自分の力を試したいと思っているビジネスパーソンは、自分からチャンスを奪ってしまうように見える小さな仕事よりも、無限に可能性を広げてくれそうな大きな仕事に携わりたいと考えるのが普通でしょう。

●何に取り組むとよいのか

 しかし、そう考えていながらも、なかなか頭角を現せないと悩んでいる人がいれば、あえて駅伝の一区間で優秀な成績を収めることについて考えてみましょう。

 ビジネスパーソンとしては、それは特定の小さな分野(あるいは業務)において強みを持ち、その強みに競争力をつけていくことを意味します。特定の分野における特技が、それだけできても仕方がないような小さなことに思えても構いません。私たちは、そうした強みに磨きをかけて、多くの人に認めてもらうことで、大きな仕事の機会も得られるようになっていくのです。これはやみくもに可能性を追いかけるよりも、ブレイクにつながりやすい方法です。

 以前、メーカーの海外事業部に勤務していた人物には、英文ビジネスレターやEメールを作成するスキルを磨くようアドバイスしたことがあります。その人物のセンスがよかったのはもちろんですが、その事業部全体のスキルがもっと強化されるべきだったからです。

 英文ビジネスレターやEメールのスキルを自分がブレイクするための強みにしたいのであれば、ただ漠然と書く練習をしているだけでは不十分です。他の事業部員に指導できるようにもなるべきですし、事業部全体のためのマニュアル作成も行い、会社を代表した英文レターの作成まで任せられるようになりたいところです。実際に、その人物は英文ライティングのスキルで役員からも重宝されるようになり、それを強みとして海外事業部のさまざまな業務で活躍するようになりました。

 筆者の私自身も語学を強みとして仕事を増やした経験があります。経営コンサルティングを行う団体に勤務していた頃、トヨタ自動車やその関係会社から出向してきた人たちと、トヨタ生産方式に関する研修やコンサルティングをする機会に恵まれ、その業務に深い関心を持ち、仕事に没頭していたことがあります。

 それでも私自身がトヨタ生産方式の仕事を受注しようとすると、うまくいきません。クライアントはどうしてもトヨタやグループ会社の人たちからの指導を受けたがり、自動車産業の出身でない私は敬遠されがちだったのです。

 そこで私は、トヨタ生産方式の英語表現などを詳しく調査して、英語で研修やコンサルティングを行えるよう取り組んでみました。そうすると海外での指導の機会や、国際機関を通じた仕事が増え、それをきっかけに、現在では日本語でもトヨタ生産方式に関連した研修などを受け持てるようになっています。

 知り合いの造園業者は、なかなか仕事を増やせず困っていた時期がありましたが、郊外のレストランやマッサージ店などの店舗周辺の草取りの受注を専門的に行い、受注を増やした結果、造園やエクステリア全般についての相談が増え、現在では土木工事の受注まで行っています。

 こんなふうに、一見、自分の可能性を限定してしまいそうな小さな分野(あるいは業務)で実績を上げ、それをきっかけに周囲の信頼を得てブレイクにつなげていくのは、ひとつの有益な方法です。決して簡単に成功できるとは限りませんが、取り組みがいがあるのではないでしょうか。

 スポーツ選手が現役で活躍する期間に比べて、ビジネスパーソンとして活動できる期間は長いですから、はじめからマラソンの記録を狙わなくても、まずは駅伝の一区間で活躍することについて考えてもよいのではないでしょうか。
 
 どんな強みを持って頭角を現すことになるのか、どんなスキルを強化すれば周囲を認めさせやすいのか、じっくり考えてみるのは楽しい作業のはずです。
(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)