Paris 2024 bid delegation members Paris 2024 Co-Chairman Tony Estanguet (L), Paris Mayor Anne Hidalgo (C) and IOC member Guy Drut cheer during the 131st International Olympic Committee (IOC) session in Lima on September 13, 2017./


 祭りの季節。何人かの人から神輿を担いだという話を聞く。私は神輿を担いだことはないが、話を聞いていると相当な重労働のようだ。

 担ぐ棒は肩に食い込み激痛が走る。とはいえ1人でも倒れたりすると神輿が倒れるため、倒れることは絶対に許されない。

 そんな苦痛と責任に耐えて神輿を最後まで担ぎ切った後の達成感は相当なものだという。そして、こんな話を聞いた。

 「嫌いな奴でも一緒に神輿を担いで最後まで担ぎ切った達成感を一緒に味わうと、仲良くなっちゃうんですよね」

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類似性の法則

 この言葉に私は強い関心を持った。類似性の法則という心理学の言葉がある。人は自分と近似している相手に親近感を覚えるという心理的傾向を表した言葉である。

 この近似しているという感覚は目標を共有し、その目標に対して同じ感情を共有する相手にも抱くものである。

 そのため、人は同じ目標に向かって苦楽を共にし、その上で目標を達成した時の達成感を分かち合えると、その相手に親近感を覚えるようになるという性質を持っている。

 あまり親密な関係ではない者同士でも、同じチームのメンバーとしてスポーツの試合をしたりすると、敵を倒すという共通の目標に対して緊張感を持ってプレーをするという苦楽を共にし、試合で勝ったりすると強い達成感を一緒に味わうことになる。

 そのため、チームメンバーは一気に打ち解けた関係になりやすい。

 発表会やイベントの出し物など、人前で披露するものを成功させるためにチームを組んで練習に取り組み、いざ本番を迎え、無事にやり遂げた後の達成感を味わうとそのメンバー同士の親密性はぐっと高まる。

 こういった性質を考えると、昔の人が祭りという風習を創ったのも生きていくための大事な知恵だったと感じる。

 田植えにしても稲刈りにしても、昔は今のような機械はなくすべて手作業だった。そのため、村の誰かが田植えや稲刈りをする際には、村人全員で手伝っていた。

 誰かのところを手伝って、自分のところも手伝ってもらう。そうやってお互いに協力し合うことで、何とか生活をし、生きていくことができた。

 そのため、村民同士で喧嘩して仲たがいし、その後もずっと険悪な状況が続くことは、そういった協力関係が崩れ、死活問題に発展しかねない。

 そうならないように、定期的に祭りを開き、神輿を一緒に担いで苦楽を共にする機会を設けることは、村人同士の和を保つための知恵であったといえるのかもしれない。

部下が心を開いてくれない

 私は公認会計士であるとともに、経営心理士として企業の経営を数字と心理的側面から分析して経営改善を行うコンサルティングを行っている。

 その中で様々なご相談を受けるが、とりわけ多いのが「部下が心を開いてくれない」といった部下との関係に関するものである。

 この悩みを解決するうえでは、先の類似性の法則は大いに効果を発揮する。上司と部下が一つの目標を共有して苦楽を共にし、一緒に達成感を味わう。

 こういった機会を設けることは、上司と部下との距離をぐっと近づける良いきっかけになる。最近、企業で運動会を導入するケースが増えているというが、これもまさに上司と部下との関係をぐっと近づける効果が期待できる。

 ただ、わざわざ運動会といった特別な機会を設けなくても、日常の現場でそういった機会を持てることが望ましい。そのためにはまず上司には部下と共有できる目標を掲げることが求められる。

 そして、その目標の達成に向けて現場を共にし、目標達成に至るまでのプロセスにおいて叱咤激励し、進捗が前に進んでいることをフィードバックし、成長の跡を褒める。

 目標を達成した際には、目標達成に対して部下がいかに貢献してくれたかを感謝の言葉と共に本人に伝える。そうすることで、部下も上司と達成感を共有することができるようになる。

 目標を達成しさえすれば部下と達成感を共有できると思ってはいけない。チームで何かの目標を達成しても、部下は謙遜して上司と同じレベルで達成感を共有しようとはしない。

 きちんと部下の仕事ぶり、貢献ぶりを具体的にフィードバックして、感謝の言葉を伝えてはじめて部下は心を開いて達成感を上司と共有できるようになる。もちろんすぐに調子に乗る部下にはそれなりの留意が必要だが・・・。

 そういった関わりができている上司は、例え定年退職した後でも現役の部下とプライベートの付き合いが続いたりするものである。

 ただ、こういった関わり方をするためには部下の仕事ぶりをしっかりと把握するための時間を確保することが必要となる。

厳しい環境下で管理職を悩ますジレンマ

 部下の仕事ぶりを把握できていない限り、部下の仕事の進捗が前に進んでいること、成長の跡、そして目標達成についての貢献ぶりを具体的にフィードバックすることはできない。

 しかし、そういった関わり方が大事だと分かっていても、物理的にそのための時間を確保できないという管理職の方も少なくない。

 仕事には大きく分けて2つの種類がある。1つは現場での作業や接客、営業といったプレイヤーとしての仕事。もう1つは人を育て、管理し、組織を成長に導くマネージャーとしての仕事である。

 管理職の人間には後者の仕事が求められる。しかし、売り上げが低迷し、利益を確保するためには人件費を抑えることが必要な状況においては、1人あたりの仕事量を増やさざるを得なくなる。

 そんな現場においては、管理職の人間にはプレイングマネージャーとしての動きが求められ、部下の育成・管理のみならず、自らもプレイヤーとしてノルマや作業を期限までにこなさなければならない。

 こういった状況にあっては、管理職の人間といえどもプレイヤーとしての仕事を優先させがちになる。

 その結果、部下の仕事ぶりをしっかりと把握するような関わりができなくなり、部下から結果の報告を聞くだけで手一杯となる。これでは部下と苦楽を共にすることはできない。

 また、成長の跡や目標達成の貢献ぶりを具体的にフィードバックすることもできない。その結果、部下と達成感を共有することも難しくなる。

 「結果だけではなく、そこに至るまでのプロセスを見てほしい」

 これは部下の上司に対する切実な思いである。結果が出せなくても、プロセスに改善が見られたら褒めてほしいし、成長の跡をフィードバックしてほしい。

仕事を部下に任せる勇気を持つ

 もちろん結果を出してなんぼの世界ではそんな甘っちょろいことは言っていられない。

 ただ、結果を出すためのプロセスで上司から少しでも成長の跡のフィードバックや褒め言葉があればもっと頑張れたし、結果を出すこともできた。結果を出せなかった部下の中には、そんな人もたくさんいるだろう。

 様々な技術革新が進み、市場の進化が加速し、モノやサービスの単価がじわりじわりと下がっているこのご時世、人件費を節約しなければ利益を捻出できないため多くの現場では管理職もプレイングマネージャーとして1人2役の動きが求められている。

 そんな中で部下が心を開いてくれないと悩む管理職の方も少なくないだろう。そんな時は自分のプレイヤーとしての仕事を部下に任せることはできないかを検討してみてほしい。

 もしプレイヤーとしての仕事を部下に任せることができたのであれば、空いた時間を使って部下と一緒に目標を共有し、仕事ぶりや成長の跡を把握できるほどに部下と関わり、目標を達成してその達成感を分かち合う。

 そんな関わりをしてみてほしい。

 神輿を一緒に担ぐかのように苦楽と達成感を共有する関わりの先に、部下が心を開く瞬間が待っているのではないかと思う。

筆者:藤田 耕司