子どもの認知トレーニング=コグトレ

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今、学校の先生を中心に教育現場でも注目されている“子どもの認知トレーニング・コグトレ”を御存じですか? メディアでも数多く取り上げられ、その重要性が広まっています。そこで、“コグトレ”の考案者であり立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治先生に詳しくお話しを伺いました。

「“コグトレ”とは、Cognitive 〇〇 training=認知〇〇トレーニングの略称で、子どもたちが学校や社会で困らないために、社会面(認知ソーシャルトレーニング)、学習面(認知機能強化トレーニング)、身体面(認知作業トレーニング)(〇〇には下線の言葉が入る)という3方面から子どもを支援する包括的プログラムです」(宮口先生 以下同)

認知機能とは、記憶、言語理解、注意、知覚、推論、判断といった、いくつかの要素が含まれた知的機能を指すという。

「“認知機能”とは、わかりやすく言うと、匂う、見る、聞く、触れる、味わうといった五感を通して外部環境から情報を得て整理し、それを計画的に組み立て実行し、さまざまな結果を作り出していく過程で必要な能力。人がよりよく生きるための機能なのです。つまり、認知機能はすべての行動の基盤であり、教育、支援を受ける土台でもあるのです」

しかし、その土台となる認知機能が弱いことに気づかれずに生きづらさや問題を抱えるなど、深刻な状況に陥っている子どもたちが多いという。

「私は以前、“医療少年院”に勤務していました。そこは、発達障がいや知的障がいを持った非行少年が集まるところなんです。障がい児といったら、本来は学校で守られなければならない存在。その子たちは、障がいに気づかれず、支援されず、挫折し、結局非行化してしまっていたんです。少年鑑別所ではじめて障がいがあったということに気づかれるという現実を目の当たりにしました。まさに、被害者が被害者を作っているという最悪のケースが起っているのです」

つまり、コグトレはもともとは、そのような医療少年院の子どもに少しでもよくなってもらい、社会に返してあげたい…という思いから考案されたトレーニングだという。

「非行少年たちに共通していたことは、簡単な足し算や引き算ができない、漢字が読めない、そればかりか、簡単な図形を写せない、点と点を結ぶこともできない。また、身体が不器用といった少年が大勢いたことでした。つまり、見る力、聞く力、想像する力が弱いがゆえに周りの状況が読み取れず対人関係に失敗したり、被害的になってしまう。体の不器用さからいじめにあう…。そういった生きにくさが非行の一因であることに気づいたのです」

そこで、宮口先生は見る力や聞く力、人とコミュニケーションをとる力、感情をコントロールする力、計画を立てる力、身体をうまく使う力といった本人の発達レベルに応じた根本的なところから、教育を見直さないといけない。その思いから“コグトレ”を考案し、少年院で施行してきたという。

コグトレは、すべての土台となる認知機能を軸に、以下の3つの方面から支援するプログラムがある。

●認知機能強化トレーニング

基礎学力の土台となる“覚える”“数える”“写す”“見つける”“想像”する力を伸ばす紙と鉛筆を使ってできるトレーニングで、ワークブックも発売されている。

例)簡単な点つなぎ、間違い探し、升目に並んだ数字を記憶して、別紙に書き込むなど、様々な課題がある。

●認知ソーシャルトレーニング

感情のコントロール、危険を察知する力、対人スキル、問題解決力をトレーニングする。

例)イラストの人の表情を見て、その人がどんな気持ちかを考えたり、イラストに描かれた状況から、先に起こりうる危険を察知するなど。

●認知作業トレーニング

不器用さを改善するために、体をうまく使う方法をトレーニングする。

例)新聞棒を使った“棒運動”、指先を使った“爪楊枝積み”や、他人の動きをまねたり、動きを言葉で伝えるなど。

このように、もともとコグトレの核は、発達障がいや知的障がいを持った非行少年のために考えられたものだったが、実は、一般の小・中学校でも多くの子どもたちが同じようなところでつまづき、生きづらさを感じていることがわかったという。

「学校のコンサルテーションで小・中学校に行くと、学校教育現場で先生方が頭を抱える子どもの特徴が、非行少年たちの特徴と共通していることが多かったのです。そこで、発達障がい児に限らず、何かしらの困っている子どもたちが不適応や非行化につながる前に少しでも早く支援が必要だと感じました。さらに、学校の先生方からもコグトレへの興味や要望が高まり、取り入れる学校も増え少しずつ広まってきています」

今では、学校用に簡易化されたワークブック『1日5分! 教室で使えるコグトレ』(東洋館出版社)が学校の先生たちの間でも人気となっているそうです。コグトレの考案は、まさに子どもたちの明るい未来へとつながる第一歩の取り組みとなっています。

(構成・文/横田裕美子)