米アップルが9月に発売した「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」。8 Plusには2つのカメラ(写真右)が搭載されており、高精細の写真を撮影できる(写真:Apple)

9月、日本でも一斉に発売された米アップルのスマートフォン「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」。11月にはアップルが目玉として推す新モデル「iPhone X(テン)」が発売される。顔認証やワイヤレス充電の機能で注目を集めている。

初代iPhone発売から10年、スマホの歴史はiPhoneの歴史といっても過言でないほど、アップルは技術革新を牽引してきた。その1つが、カメラだ。スマホの普及とともに、フェイスブックやツイッター、インスタグラムといった写真を共有できるSNSが発達し、多くのユーザーが高性能のカメラを求めるようになった。

その中で、スマホカメラの発展に寄与してきた部品の1つが、アクチュエーターだ。

スマホカメラに欠かせない「アクチュエーター」

アクチュエーターは、レンズを動かしピントを合わせる部品だ。よりシャープできれいな写真を撮れるようになる。これを手掛けるのが、アルプス電気やTDK、ミネベアミツミといった電子部品メーカーだ。


アルプス電気が手掛けるスマートフォンカメラ向けアクチュエーター(写真:アルプス電気)

iPhone向けでとりわけ存在感が強いのが、アルプス電気である。モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤昌司アナリストは「アルプス電気のアクチュエーターを採用すると、カメラの組み立てにおける歩留まりがよくなる。アップルからは、表面上のスペックだけでなくトータルの品質の高さが評価されてきた」と話す。

アルプス電気の業績はここ数年、アクチュエーターによって押し上げられてきたといっても過言ではない。同社はもともと、アクチュエーター単体ではなく、高機能の携帯電話(ガラケー)向けのカメラモジュールを手掛けていた。だが外部からの購入部品が多かったため採算が悪く、2008年のリーマンショックを受けた事業整理の中で、強みとする小型のメカトロニクス技術を生かせるアクチュエーターに絞ることを決めた。

2011年発売のiPhone 4sからiPhone向けアクチュエーターを供給し始めると、スマホなど民生市場向けの電子部品事業の売上高は順調に伸びていった。2016年度の同売上高は2011年度比で約33%もの増加となる1816億円に達した。


アルプス電気はiPhone向け部品で成長への道筋をつけた(記者撮影)

成長の背景にはスマホの台数の伸びだけでなく、搭載されるアクチュエーターの変化もある。現在iPhoneに搭載されているアクチュエーターは2種類だ。1つは「オートフォーカス」で、レンズを手前や奥へ動かすことで焦点を合わせるもの。スマホで写真を撮るときに、画面に映った被写体をタップするとピントが合わせられるのはこの部品があるからだ。

もう1つは「光学手ぶれ補正」。オートフォーカスの機能を備えつつ、スマホの動きに合わせてレンズを動かすことで、手ぶれに合わせてレンズの位置を修正できるようになる。高機能化している分、後者のほうが高単価だ。

iPhoneとともにカメラ部品も進化

従来はオートフォーカスのアクチュエーターがiPhoneシリーズに搭載されていたが、2014年9月に発売されたiPhone 6 Plusに光学手ぶれ補正機能が初めて搭載された。その後、iPhone 6s PlusやiPhone 7も同機能を採用した。


(出所)取材を基に東洋経済作成
(注)光学手ぶれ補正アクチュエーターはオートフォーカス機能も含む

2016年のiPhone 7 Plusでは、背面に2つのカメラを備える「デュアルカメラ」が採用された。片方のカメラにはオートフォーカスのみのアクチュエーターを、もう一方のカメラには光学手ぶれ補正のアクチュエーターを搭載している。つまりアルプス電気にとっては、iPhone1台当たりのアクチュエーターの搭載点数が増えたのだ。

今年発売のiPhone 8(シングルカメラ)、iPhone 8 Plus(デュアルカメラ)でも同様だ。さらに新モデルのiPhone Xは、デュアルカメラの両方に光学手ぶれ補正機能が採用されることになった。高単価の光学手ぶれ補正アクチュエーターが、初めて1台のiPhoneに2点搭載される。2018年以降、下位モデルでも同様の動きが広がれば、アルプス電気にとっては追い風となる。

ただ、iPhoneのデュアルカメラだけに頼っていては一層の成長を見込みづらい。今後、アクチュエーターの成長の原動力は何になるのか。考えられる搭載先は3つある。

まず、スマホのフロントカメラにはアクチュエーターそのものがついていない。SNSへの写真投稿などのために自撮りをする人の需要は大きく、アクチュエーターの搭載が増える可能性はある。

2つ目は「iPad」だ。このシリーズで光学手ぶれ補正機能があるのはiPad Proのみ。廉価モデルにはオートフォーカス機能しか搭載されていないため、今後手ぶれ補正が広がっていくかもしれない。

アルプスは中国スマホ向けで稼げるか

最も潜在力が大きいのが3つ目、中国メーカー製のスマホだ。アルプス電気はiPhone向けのアクチュエーターでシェアが高い一方、性能向上が昨今著しい中国スマホ向けではTDKやミネベアミツミの後塵を拝している。


(出所)IDC

アルプス電気が中国スマホへアクチュエーターを供給し始めたのは3年前のこと。すでに競合2社は中国市場で存在感を発揮していた。アルプス電気は、世界シェア9%の華為技術(ファーウェイ)向けに今年からアクチュエーターの納入を始め、中国スマホへの足掛かりにしたい考えだ。

アクチュエーターの次なる成長のため、投資のアクセルも踏む。

2018年2月には、中国・無錫工場で14億円をかけた新工場棟が完成する。日本国内でも、100億円を投資する宮城・古川工場の新工場棟が竣工となる。いずれもモバイル機器と車載向け製品を生産するとしており、アクチュエーターも対象になるとみられる。

前出のモルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤アナリストは「(生産能力が引き上げられることで)これまでとは異なり、iPhone以外にもリソースを分散できる状況になりつつある。中国市場でもシェアを上昇させるチャンスだ」と分析する。

アルプス電気は”リンゴ”に次ぐ果実をもぎ取れるか。その本気度が試されている。