あなたの遊び方、間違っていないだろうか?

大人になり、ある程度の経済力を手にすると、遊び方の流儀が問われるようになる。

酸いも甘いも経験し、東京で遊び尽くした港区民たちの、次なる遊び方。

そんな彼らの最新事情を、飲食店経営者であり港区おじさんジュニアと呼ばれる剛(32歳)が探っていく。

これまでに、パーティールームで興じるトランプの楽しさやガジェット大好き港区民、港区芸能人事情などを学んできた。

さて、今週は?




「剛、2軒目の店押さえといて。」

「はい、分かりました!」

翔吾さんとの食事会、終盤に差しかかった頃いつもの指示が入る。

僕は調子の良い返事をしたものの、2軒目を探そうと電話をかける手が止まる。

-今日のメンバーは、カラオケ歓迎派か?それとも拒否派だろうか...

港区民の2軒目=カラオケ、正確に言うとカラオケ付きの会員制の怪しげなバーだと思われがちだが、実際に全てがそうだとは限らない。

『アッピア アルタ 西麻布』にお茶を飲みに行く人たちもいるくらいだし、うるさくて話ができないため、カラオケが嫌いだと言う女性も想像以上に多い。

もちろん、皆がイメージするような分かりやすい場所、従来のバルビゾン系の店や『マンシーズ トウキョウ』、『エスタード 六本木』などいつの時代も変わらない、港区民が大好きな店も存在する。

「とりあえず『西麻布 glam』に行くか。」

翔吾さんの一言で、キャッキャとしながら女性陣がリップグロスを塗り始めた。そんな中、一人だけつまらなそうな顔をしている女性がいる。

「カラオケ、嫌だな。」

その子が発した一言を、僕は聞き逃さなかった。


なぜ、港区の会員制バーはむやみやたらとカラオケ付きなのか?


本音とは裏腹に。


移動の最中、その子(レナと言う名前らしい)とタクシーが一緒になり、そっと問いただす。

「ごめん、カラオケ嫌だった?」

「嫌っていうか...ちょっと面倒くさいよね。」

たしかに、女性からすればカラオケはある意味“接待”のようなもの。そしてそれは、僕らの下っ端だって同じことが言える。

港区おじさん達が気持ちよさそうに歌うBIG BANGを、何度全力で盛り上げてきたことだろうか。

-今の流行はこの曲じゃないのにな...

なんて心の中では思いながらも、タンバリンを全力で叩き、毎回カラオケに行くたびに同じ曲、自分の十八番を歌う彼らを見てきた。

しかし、レナがカラオケを嫌がる理由は全く違うところにあった。

「まぁ、盛り上げるのは全然いんだけど。何かさ、本人たちの生歌とか聞いてるし、他の人が歌ってるのを聞いても何とも思わないよね。」

「え、どういうこと?」

レナの話を要約すると、この界隈で飲んでいる芸能人たちはごまんといる。

そして運が良い、もしくはちょっと玄人っぽい女性の中には、実際に彼らと一緒にカラオケに行ける機会がある人もいるということだ。

僕がもう少し突っ込んで話を聞こうとしたところで、タクシーは店の前に着いてしまった。




『西麻布 glam』に着き、乾杯が済むと早々に翔吾さんが曲を入れ始めた。

流れてきたのは、今をときめく男性人気グループの歌。画面上には、踊りながら歌うメンバーのプロモーションビデオが流れている。

翔吾さんは意気揚々と、自慢げに歌っている。それを聞きながら、レナが呟いた。

「彼らとか、売れる前によく一緒にカラオケ行ってたんだよね。」

女性なら誰もが目をハートマークにするような甘い歌声に、高身長で顔も整っているこのグループ。

まったく勝ち目がない上に、歌声を生で聴いている女性を前に、彼らの歌を歌うほどカッコ悪いことはない。

しかし、さすがは港区女子。

エリートサラリーマン並みの接待ホスピタリティー技術を身につけている彼女たちは、決してそのことを公言しない。

相変わらず、楽しそうに歌っている翔吾さん。
冷めた目で見ながらも盛り上げているレナ。

その構図があまりにもシュールで、思わず笑ってしまった。


孤高の港区民が集う場所。彼らが群がる理由とは?


群れを作り、どこかに属することで満たされる


「歌が上手い人って羨ましいよなぁ...」

盛り上がる男女を横目にそんなことを呟くと、レナが冷静に答える。

「まぁ歌が上手い人にとっては、アピールできる場でもあるからね。」

正直に言うと、僕は歌が下手だ。

歌が上手い人が心底羨ましい。それだけで女性からの黄色い声援を得られるのだから。

羨ましいと言い続けていると、レナに鼻で笑われてしまった。

「でも結局、上手い下手なんて大した問題じゃないのよ。何で港区民が皆カラオケに集まるか、本当の目的をつよぽんは分かってないんだね。」

本当の目的?港区民がやたらと豪華な個室のカラオケに行く理由とは、一体何なのだろうか。

もちろん、プライバシー保護の意味もあるだろう。すぐに顔が割れてしまう有名人たちにとって、個室ほどありがたいものはない。

オープンスペースだといつどこで写真を撮られ、何に流されるか分からない。それに、会話も守られる必要がある。

だが、レナが言う「本当の目的」がそんなことじゃないのは、なんとなくわかる。




「剛、ちゃんと楽しんでるか?みんな飲んでるか? お酒足りてる?」

レナと話し込んでおり、全く曲を入れない僕らを、翔吾さんが気にかけてくれた。

慌てて会話の輪の中に戻る。

そして気がつけば、レナも他の女の子も、一緒になって盛り上がっていた。

時刻は深夜2時を回っているが、そんなことは関係なく異様な盛り上がりを見せている。

僕も冷めた気持ちで付いてきたものの、この雰囲気も嫌いじゃない。

盛り上がっている彼らを見ている内に、僕のテンションも自然と高くなるのだから不思議だ。

個室だからこそ得られる、妙な一体感とグルーヴを、僕はたしかに感じた。

大都市・東京の中でも特殊な立ち位置にある港区。

時として新しい遊びもあるけれど、突き詰めると、皆好きなことは変わっていないことに気がつく。

かっこいいと言われて、異性からモテるような遊びや、皆で一緒に楽しめる遊びが大好きなのだ。

個々の孤独な気持ちを埋めるかの如く、集団を形成し、群れることが好きな港区民。

深夜0時を過ぎてもなかなか「帰る」と言わない。それは結局、一人になりたくないことの表れではないだろうか。

だから遅くまで開いており、尚且つ一体感を感じられるカラオケは需要があり、そこに皆が集うのかもしれない。

良い大人になった今でも、仲間と遊ぶことが大好き。

仲間に入れてもらうために、良い暮らしを送るために必死で働き、そして散財する。

-港区って、寂しがり屋の集まりなんだな。

そんなことを思いながら、今日も港区の夜は更けていった。

Fin.