『クローズアップ現代+』(NHK)ホームページより

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 幼少期に脳性麻痺を患い車椅子生活を送る主人公クマをリリー・フランキーが演じた映画『パーフェクト・レボリューション』が話題だ。この作品は、リリー演じるクマが、清野菜名演じるミツと恋に落ちるも、結婚、出産、病気、介護といった問題に悩み苦しみ、その課題を周囲の手助けも借りながら乗り越えていく──という物語だ。

 この映画を通じて観客が感じることは、障がいをもっている人も恋をしたいし、好きな人ができたらその人と触れ合いたいし、キスもしたいし、セックスもしたいという、至極当たり前の事実だろう。作中では主人公カップルの濡れ場が幾度も描かれ、リリー・フランキー演じるクマは「騎乗位という体位を開発した人は障がい者だったんじゃないか?」や「俺、立ちバックするのが夢だったんだよね」といったジョークを何度も飛ばす。

 よくよく考えれば障がい者だってそのような欲求をもつことは何もおかしくないが、この社会は障がい者たちが抱く「恋をしたい」という気持ちや性的な欲求から目を背けてきた。しかし、障がい者は「天使」でもなければ「聖人君子」でもない、人間なのだ。なのに、障がい者の恋愛や性欲を存在しないものとして見なすのは、健常者たちの心に「差別意識」があるからにほかならない。

 9月25日放送『クローズアップ現代+』(NHK)では、「障害者と恋とセックスと」と題して「障がい者の性」問題を特集。スタジオには、リリー・フランキーと、『パーフェクト・レボリューション』の企画・原案を担当したNPO法人ノアール理事長・熊篠慶彦氏が出演した。熊篠氏は自身も脳性麻痺を患い車椅子で生活しており、NPO法人の活動を通じて「障がい者と性」にまつわる偏見と誤解を解く活動を続けている人物。ちなみに、この『パーフェクト・レボリューション』という物語は、熊篠氏が実際に経験した恋愛をベースに編まれている。そんな熊篠氏は『クローズアップ現代+』のなかで「障がい者と性」の問題について、このように語った。

「話ができない現状なので、まだ、タブーにすらなっていないと思いますね」

 タブーにすらなっていない──それほどまでにこの問題についてはこれまで語られることがなかった。故に、熊篠氏の運営するホームページには、誰にも相談できず助けを求める障がい者の人たちからこんな書き込みが寄せられているという。

〈「男性」として見られることのないことが当然のことで「性」について向き合うことから遠ざけてきました〉
〈自分の中の女性の部分を時には感じてみたいのがホンネです。ただ世間的に障害者だからといって性のことを封印していたかも知れません〉

 番組では、実際の体験談として、脳性麻痺で手足に障がいがあるまゆみさんという30代の女性が登場。彼女は、健常者たちから、自分は恋愛感情をもたない人間として見なされてきたことに対し疑問を投げかける。

「彼氏がどうのとかですね、恋愛の話を始めた時点で、『えっ?』みたいな空気が流れてるんです」
「身体がちゃんと動かない見かけだったり、そこから抱くイメージで(恋愛感情が)ないんじゃないのかなって(思われる)」

 まゆみさんの話からは、いかに健常者たちが無意識のうちに障がい者たちの気持ちを無きものとして扱ってきたのかということがうかがえる。

 とはいえ、ただ闇雲にその問題に踏み込めばいいかというと、それはそれで難しい。『クローズアップ現代+』では、自立支援センターの理事長が自慰行為の補助器具の導入を検討し(その場面ではオナホールのTENGAが映し出される)、それについて施設の職員に意見を求めたところ、会議の場で女性職員から「性の話をされたときに私が対処するかといったら、たぶん私はしないです」と断言される一幕が放送されていた。

 熊篠氏たちが主張しているのは、そういうことではない。福祉の現場で射精介助をしてくれと頼んでいるわけではないのだ。もちろん福祉の現場における性の介護の問題についても議論は必要だろう。しかしそれ以前に、彼らが求めているのは、障がい者だって恋をしたいし、その結果としてセックスへの欲求をもつこともあり、その人間として当たり前の気持ちを、汚いものとして扱ったり、なかったことにしたりしないでほしい、ということなのだ。

"障がい者の性"は存在しないものとして見向きもされず、いまだ「タブーにすらなっていない」状況で、障がい者の性に関する問題がほとんど話し合われることすらなかった。リリー・フランキーは『クローズアップ現代+』のなかでこのように語っている。

「日本のメンタリティのなかで、援助を受けているという立場のなかで、それ以上のことを求めず慎ましく生きなさいみたいなことがあるのかもしれないけど、たとえば、マスターベーションやセックスに対して手伝ってくれって言っているわけではなくて。その気持ちをもっていることを否定しないで欲しいっていうことなんです」

『パーフェクト・レボリューション』の映画パンフレットに掲載されているリリー・フランキーとの対談で熊篠氏はこのように語っている。

「夏の黄色いTシャツの番組みたいに、障害者と向き合う時はどうしてもかしこまらないといけないような風潮がありますけど、そんな必要はないんだよって」

 健常者の社会は、障がい者もほかの人たちと同じように誰かを好きになることもあるし性欲もあるという当たり前の事実から、知らず知らずのうちに目をそらしてきた。それは「差別」に他ならない。「夏の黄色いTシャツの番組」だって、障がい者が何かに打ち込む姿は映しても、その人が誰かに恋焦がれたりする姿を映したり、ましてや、障がい者が下ネタを含む下世話なジョークを飛ばしたりする姿を放送したことがあっただろうか。

『パーフェクト・レボリューション』の主人公クマは、下品な冗談は飛ばすし、「手も足も出ない」といった笑っていいのかどうか迷うブラックユーモアも言うし、恋に落ちた相手と向き合いながら笑ったり悩んだりするし、もちろんセックスだってする。こうした主人公のキャラクターは実際の熊篠氏のキャラクターそのもので、作品のなかでは「そんな障がい者いないよ」と観客に思われないように、むしろオブラートに包んですらいるらしい。

『パーフェクト・レボリューション』という映画、そして、リリー・フランキーと熊篠氏の言葉は、いまだ「タブーにすらなっていない」障がい者の性という問題に光を当てるものだ。これから、この問題について議論が始まっていくことが求められている。
(編集部)