ムダのない効率的な経営を目指し、組織をスリム化、フラット化するのが世界の潮流である。わが国でもそれが叫ばれるようになって久しい。しかし実際には期待したほど進んでいないようだ。それどころか大企業や役所のなかには、いったん採用したグループ制を廃止して課長制に戻したり、補佐的なポストを復活させたりする動きも見られる。

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スリム化、フラット化はなぜ進まないのか

 スリム化、フラット化に反対する理由として、しばしばあげられるのは次の3つである。

 第1に、スリム化、フラット化すると必然的に管理職の数が減り、1人で多くの部下を抱えるため負担が過重になる。

 第2に、その結果として部下の指導が十分に行えなくなり、部下が不安を訴える。

 第3に、下位の役職が減って係長などの経験がないままいきなり課長等のポストに就くと仕事がこなせない。

 いずれも、もっともらしい理由である。しかし、よく考えてみるとスリム化、フラット化の本質が置き去りにされていることが分かる。組織をスリム化、フラット化する目的の1つは、現場への権限委譲である。それによって組織が機動的に運営され、第一線で仕事をする人たちの意欲と能力を引き出そうというわけである。

 したがって、組織の階層を少なくし、管理職の数も削減するのと並行して、現場への権限委譲を進めなければならない。そうすれば、先にあげたようなスリム化、フラット化の弊害も自ずと解消される。

 まず、管理職の負担が大きいのは諸々の仕事を抱え込み、権限を独占しているからである。部下が自分の裁量で仕事を行えるよう実質的に権限委譲すれば、管理職の負担は減るはずだ。そして部下もノビノビと仕事ができるようになる。

 もっとも、これまで部下にこと細かな「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)を求めてきて、いきなり自分の判断でやれといえば戸惑うのは当然である。しかし、一定の期間がたち、自分の判断と責任で仕事をする習慣がつけば不安や戸惑いは消えるに違いない。

 さらに部下に権限委譲して管理職の役割を担当部署のマネジメントに特化すれば、いきなり課長職に就いてもこなせるようになる。現に海外の企業ではMBAを取得した若者がいきなり管理職に就くケースも珍しくない。

管理職層から精鋭を引き抜いてシニアプロに

 にもかかわらず、組織のスリム化、フラット化と部下への権限委譲が進まなかった背景には、管理職の既得権維持という本音がある。

 もっとも管理職が地位と報酬を手放したがらないのは無理もない。強引にそれを奪えば、彼らの士気を著しく低下させるのは間違いない。したがって彼らの地位と報酬を維持しながら、組織の効率化と部下のエンパワーメントを両立させる道を探ることが望ましい。

 かつてポスト対策として設けられた専門職や専任職は、管理職に就けない人の処遇を目的としたものだったため、専門性の発揮を期待することが難しかった。しかし現在は、本物のプロとしての人材が各方面で求められている。その一方で上述したように管理職としての仕事を限定すれば、必ずしもスター的な人材でなくも管理職が務まる。

 そこで発想を逆転させ、分厚いミドル層の中からとくに優秀な人材を引き抜き、シニアプロフェッショナルとして活用することを提案したい。彼らには新規事業の開拓、他社との連携や交渉といった「攻め」の仕事に携わってもらう。あるいは経営陣を補佐するスタッフとして働いてもらう。

 グローバルな競争が激しさを増した現在、企業はこのような人材こそ充実させる必要がある。当然ながら彼らには仕事に見合った権限、肩書き、報酬を与える。

管理職離れに歯止めをかけるためにも

「過剰な管理職」を減らせば「過剰な管理」をなくせる。それによって部下の意欲と能力が向上し、組織は活性化される。さらに分厚いミドル層から精鋭を引き抜いて「攻め」の部隊に抜擢すれば、現有勢力でビジネスを拡大できるようになる。

 さらに別の効果も期待できる。

 近年、管理職への昇進を望まない社員が増えている。また女性の活躍支援という掛け声と裏腹に、女性の昇進志向も高いとはいえない。それは現在の管理職が魅力に乏しい一方で、労働時間や仕事量などの面で負担が大きすぎるからである。管理職の役割を見直すとともに、本物のプロとして活躍できる道を広げれば、彼らの意識を変えることにもつながるだろう。

 かつて、組織のミドル層が分厚いのは日本企業の強みだといわれてきた。実際にミドル層が経営を支える重要な役割を果たしてきたことはたしかである。しかし今日、環境の変化に素早く適応し、現場の力を最大限に引き出せるスリムでフラットな組織が求められている。企業だけでなく社員にとってもプラスになる道を選ぶことで、組織改革はスピードアップできるはずだ。

筆者:太田 肇