定時帰りのOLたち。

”安定”という鎧を手に入れた彼女たちは保守的で、誰かが幸せにしてくれるのを待っている。

丸の内の大手損保会社に勤める愛華(26)も、その一人。典型的な腰掛けOLである彼女には、実はこんなあだ名がある。

“にゃんにゃんOL”、と。

そんな愛華に対し、檄を飛ばす元OLのアリサ(29)。しかし男女の不平等さに疑問を覚え始め、専業主婦より働きたいと思うなど、変化し始めた愛華だったが...?





-愛華ちゃん、今週金曜20時待ち合わせで。

和樹さんからのLINEを見て、思わず心が踊る。和樹さんからご飯に誘われるのは、今回で3度目だった。

これまでの私と和樹さんの関係は順調に進んでおり、心は既に準備万端だ。

デート前夜には特別な日にしか使わない、1枚8千円もするスペシャルパックをしながら、半身浴をたっぷり1時間。

そしてデート当日は、会社が終わってから化粧室に立てこもった。

リキッドファンデを念入りに重ね、しかし肌に重さが出ないように、少し明るめのお粉をはたいて、ゆるふわ肌を作り上げる。

そんな影の努力が功を奏したのか、食事中、待ちわびていた一言が飛び出した。

「愛華ちゃん、付き合って欲しい。」

そうストレートに言われた時、胸の高鳴りがピークを迎えると同時に、安堵の気持ちで包まれる。

-あぁこれで私は一生、家賃や光熱費を自分で払う重荷から解放されたのね。

しかし、ふとお会計の時に言われた言葉に引っかかりを覚える。

「ここは、僕が出しとくね。」

幸せの絶頂を迎えたはずなのに、心がザワザワと音を立て始めた。


女だって、デート準備にお金がかかる。だから支払いは男性がして当たり前?


そもそも年収が違う。だから高給取りの男性が支払って当たり前?


“ここは”ということは、別のところは私持ち、ということだろうか?

たしかにこれまでのデートで、たびたび微妙な金額を払わされた。

例えば前回は、2軒目で2,000円の徴収。

前の彼女と別れた理由は、旅行に行った際に、飛行機代もホテル代も一切彼女が出さず、そこからその子に疑問を持ち始めたと言ってたっけ...

私は基本的に、お会計は男性がするものだと思っている。

こんなことを言うと世の中の男性からバッシングを受けそうだけれども、丸の内で働くにゃんにゃんOL達は少なからず、そう思っているはず。

デートのために、女性の方だって結構な額を費やしている。

ネイルにヘアーサロン、化粧品にエステなどの美容代に加え、洋服に靴に下着などの服飾費。女が綺麗でいるためにはお金がかかることばかりである。

年を取っても綺麗な人は、少なからずお金をかけているもの。肌のハリや艶は旦那の経済力に直結すると言ってもいいくらい、手間隙とお金をかければ肌は変わるのだ。

だから多少のコストはかかっても、綺麗になれるならば背に腹は変えられない。

そんなことを考えていると、和樹さんの声でハッと我に返った。

「で、返事は?」

「はい、もちろん。私でよければ喜んで♡」



「遂に和樹と付き合うことになったの!?さすが愛華だね〜。」

パレスホテル6階にある『ラウンジパー プリヴェ』のテラス席で、ブランケットにくるまりながらシャンパンを飲むアリサさんが、目をまん丸にして驚いている。




「私もその可愛げ、見習いたいわ」

喜んでくれるアリサさんと、テラスから見える綺麗に輝く東京の街を見て、私は複雑な気持ちになる。

憧れの、年収1,000万の商社マン。でも、デート代や諸々の支払いに対してスッキリできずにいる。

「女性って、男性の見えないところで色々と投資しているじゃないですか。だから食事代くらい、男性が支払うものだと思うんです。でも和樹さんって、必ずデート代徴収してくるんです」

稼いでいる方が支払うのが当然の義務じゃないの?と思うのはおかしいのだろうか。

丸の内を歩けば、皆エリートサラリーマンで、女同士でバーに入れば、数杯奢ってくれる男性なんて次から次へと現れる。

だって、私は丸の内OLだから。そんな環境が、当たり前。

素直な気持ちを言ったら、またアリサさんに、バサリと切り捨てられた。

「愛華、よく考えてみて」


自己投資にはお金を惜しまないけれど、意外に手堅い高収入男子たち


東京で、年収1,000万クラスの生活とは?


「男性だって馬鹿じゃないんだから。当たり前だけど、投資したらリターンを求めるでしょ?」

投資をしたことがないから分からないけれど、多分その通り。でもそれって、私に価値がないってこと...?

「そうじゃなくて。和樹って、ある意味合理主義だと思うんだよね。」

ふむふむ、と頷きながらアリサさんの話を聞く。私は文系脳だから、こういった類の話が昔から苦手だ。

「和樹だって、毎日汗水流して働いている訳よ。自分の身を削って稼いだお金をアホみたいに使いたくないって思うことなんて、当たり前のことでしょ? 」

それは分かる。

でも、年収1,000万も稼いでいるならば、もっと贅沢もできるはずだし、私とのデートの時くらい、全て支払いをしてくれてもいいはずなのに。




「そもそも、今の愛華は何にどれくらい使ってるの?」

その質問に、すぐ返答できなかった。どのくらい使っているかは細かく分からないが、毎月手元に残るお金がほとんどないことだけはたしかだ。

貯金なんてしている暇はないけれど、欲しいものはたくさんある。

そして子供が生まれたら、ブランドのバギーを押す姿をVERYに特集されたいし、いづれはインターか有名私学に入れてそのママ会をしたい。

それを実現させるためは、自分の年収ではどうにもならない。やはり旦那の給料がものを言う。

「愛華が求める生活レベルを東京の都心部で実現したいなら、年収1,000万じゃ無理よ。ボーナス月じゃないと、月の手取りで50万もいかないくらいじゃないかしら」

そしてアリサさんは、こう提案してきた。

「それよりも、自分で稼ぐ、つまり自分の収入を上げることも視野に入れて考えたら?」

「自分で稼ぐ…? 」

そんなの無理に決まっている。新卒からずっと同じ会社にいるし、OL以外、したことがない。頑張ったところで私たちの年収の限界は見えている。

だったら手っ取り早く稼ぎの良い旦那様を見つける方がよっぽど効率がいい。

「自分の憧れの生活を送るための結婚、かぁ...」

アリサさんが意味深に呟いた。

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バリキャリ女の、にゃんにゃんOL不必要説