恵比寿の駅近くとは思えない、まるでその一角だけ時の流れが異なるような美しい外観。

恵比寿駅西口の賑やかな通りを、徒歩4分。ガヤガヤとにぎわう通りに、急にぽっかりとパリのビストロが出現する。

アガットカラーの壁に、ステンドグラスの扉という重厚な佇まいで、グルメで大人な客のみを出迎える『月夕堂』だ。

恵比寿西の路地に店を構えて20年。恵比寿の変化も見つめてきた同店は、ホスピタリティ溢れるフレンチだ。この店を象徴する「オートクチュールコース」とともに、その魅力を紹介しよう。



「オートクチュールコース」(1人前6,000〜15,000円)、おすすめのワインは「マキコレのトゥレーヌ」(グラス850円)
ホスピタリティ溢れる大人が集う美食空間へ

この店を一人で切り盛りするのがオーナーシェフの廣瀬氏。自ら手がけたという店舗デザインは、いつの時代も、その佇まいだけで人を惹きつけてしまう。

店の外観に見とれて足を止める人も多いそう。美しいステンドグラスが彩る扉を開けば、クラシカルで非日常の空間が広がり、料理への期待を高めてくれる。

店内のアンティークな調度品も廣瀬氏が個人的に収集していたもので統一され、席に付くと、季節感のあるテーブルセットが出迎えてくれるのも嬉しい。



象徴的な振り子式の掛け時計から聞こえる鐘の音もいいBGMに。その周りには廣瀬氏自ら撮影したモノクロ写真などがズラリ

同店を愛する大人が多いのは、お客の事を一番に考え、とにかく満足してほしいというホスピタリティにあるだろう。今回紹介する「オートクチュールコース」は、そんな同店を象徴するコースだ。

廣瀬氏がお客様の好みに合わせて、通常はメニューに出していない希少な物や、特別な料理を提供。「おまかせというよりは、お見立てに近いですね。」と廣瀬氏。アレルギーはもちろん、苦手な食材や食事制限にまで配慮してくれるという。

今回は、そんなコースの一部ととともに、『月夕堂』の真の魅力に迫っていきたい。



全12席。ダウンライトに照らされた店内は、美しい調度品が彩りをプラス

コースの構成は値段と要望によって変更があるが、アミューズ3〜5種、前菜3〜5皿、メイン1皿、デセール2皿。そして食後のお茶とお茶菓子。

各料理に合わせた自家製パン6種類のペアリングも楽しめるというのも魅力だ。


秋には栗のスープ!新さんまと焼き芋の組み合わせなど、楽しく美味しい料理ぞろい!



「焼き栗とピスタチオの冷たいスープ 地鶏胸肉のガランティーヌ添え」。しっとりとした地鶏胸肉のガランティーヌは、成形した後、一晩寝かせ3時間ほどかけてじっくりと低温で火を入れ完成する手間暇かかった一品
食材の美味しさが際立つ
一皿に丁寧な仕事を感じて

まずは前菜。この日は「焼き栗とピスタチオの冷たいスープ 地鶏胸肉のガランティーヌ添え」だ。

「焼き栗のスープ」は、通常温製スープで出されることが多いが、同店では、より栗の味が引き出される冷製で提供。栗、豆乳、ミルクのみで作られたスープは、シンプルでありながら栗やナッツのフレーバーがグッと引き立ち、優しく体に染みていく。

最初は、スープと栗を楽しみ、その後ピスタチオソースや地鶏の胸肉、竹炭のガレットなどを合わせて召し上がれ。口に運ぶ度に、新たな美味しさと出会っていけるだろう。



ジンジャービールの泡から、紫芋のパウダー、紫芋と安納芋で作られたミニチュア焼き芋まで、食べきった後、一皿だったとは思えないほどの満足感を得られる「新さんまの燻し焼き 新さんまの腸ごしソースと焼き野菜のバーニャカウダー添え」

続いては前菜の「新さんまの燻し焼き 新さんまの腸ごしソースと焼き野菜のバーニャカウダー添え」。この美しい一皿、見た目だけでも楽しめるが、味わっていくと新さんまの持つ、旨みと苦みのポテンシャルを活かしきった廣瀬氏の芸の細かさに驚かされる。

身は燻して香りと旨みを引き立て、ワタはバーニャカウダーソースに。そして秋の野菜の甘みもプラス。

廣瀬氏は、付きだしのアミューズから始まるフランス料理のコースは、アミューズメントであるべきとなるべくどの料理にも楽しさを大切にしているのだ。



「子羊赤身ロースのロティ 炭焼き茄子のピューレ添え」。添えられた炭焼き茄子のピューレは、炭ごと裏ごしされており、合わせて食べると一気に炭焼きの味わいに変化する

お待ちかねのメインはこの時期のスペシャリテ「子羊赤身ロースのロティ 炭焼き茄子のピューレ添え」が登場。

良質な子羊の脂身を丁寧に外し、赤身の味わいを楽しめる一皿。じっくりと優しく焼き上げた後、ローズマリーとほうれん草の粉末を纏わせた子羊は、噛むほどに旨みと香りが広がっていく。

炭焼き茄子のピューレだけでなく、わさびベースなど3種類のソースでの変化を楽しめるのも嬉しい。



「山梨ワイナリーからの巨峰のソルベ ブドウのジュレ ぶどうのムース・オ・ショコラ添え」

ラストを飾るのはアセットデセール。今回は「山梨ワイナリーからの巨峰のソルベ ブドウのジュレ ぶどうのムース・オ・ショコラ添え」をご用意いただいた。

本来はワインにできるほど良質なブドウを使用しており、葡萄ってこんなに美味しかったのかと改めて気がつかせてくれる。

彩りの美しさもさることながら、カカオを強めに効かせたソースや、ベルガモットを効かせたクリームなど、ひと口毎に表情を変えていく楽しさが堪らない。


クラシックなフレンチでありながらも、決して固定概念にとらわれることなく、食材のもつ可能性を最大限に引き出す『月夕堂』。

お客様の味覚だけでなく、メンタルにまで寄り添う品揃えも魅力。1年で一番光り輝く秋の満月を指す「月夕」を冠した店名の通り、食欲増す秋にこそ訪れたい名店である。