ホンダ「スパーダ」にハイブリッド車が追加(写真:Honda Media Website)

ホンダの7/8人乗り背高ミニバン「ステップワゴン」が反撃に打って出た。9月29日のマイナーチェンジ(一部改良)で、派生モデル「SPADA(スパーダ)」に2モーターのハイブリッドシステム「SPORT HYBRID」搭載仕様が設定された。ステップワゴンとして初めてのハイブリッド車だ。

5代目となる現行ステップワゴンは2015年4月に登場。跳ね上げ式リアゲートの中に横開きの扉を仕込んだ「わくわくゲート」、趣味のよい造形と色彩のインテリア、乗り心地とハンドリングを両立した足回りなど、完成度は高かった。

ところが、筆者が発売から1年弱のタイミングで寄稿した「ホンダ『ステップワゴン』まさかの苦戦の理由」(2016年3月27日配信)でも指摘したように、ステップワゴンは新車効果がある中でも、直接のライバルとなるトヨタ自動車「ヴォクシー/ノア/エスクァイア」3兄弟に大きく水をあけられた。それどころか、当時モデル末期だった日産自動車「セレナ」にさえ肉薄されていたのだ。


トヨタノア(写真:Honda Media Website)

その後、昨年8月にセレナがフルモデルチェンジ(全面改良)したことで、この状況はさらに顕著になった。日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表している2017年1〜6月の販売台数を見ると、ヴォクシー/ノア/エスクァイア3兄弟が計9万525台、セレナが5万4344台に対して、ステップワゴンは2万1752台と苦戦は鮮明だった。

ハイブリッド車がないと苦戦

かつてステップワゴンは、この分野で圧倒的な王者だった。1996年に登場した初代がこの市場をつくったともいえるからだ。それまでの日本のワンボックス(1BOX)車は、エンジンを座席の下に置いて後輪駆動とする「キャブオーバー」と呼ばれるタイプが主流。対して初代ステップワゴンは車体前部(フロント)にエンジンを配置して、前輪を駆動する「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」方式を採用することで、床を低くしつつ四隅まで切り立ったボディデザインを実現。その後のホンダの躍進を支える大ヒット車種の1つとなった。

ステップワゴンは追われる存在だったはずが、いつのまにかトヨタや日産に抜かれてしまった。特に5代目が苦戦している大きな要因がハイブリッド車の不在だった。ホンダはトヨタには及ばないものの、もともとコンパクトカーから上級車まで、ハイブリッド車を積極的にラインナップしてきたメーカー。にもかかわらず、5代目ステップワゴンは当初、排気量1.5Lターボエンジン1本だった。個人的には力強く静かなターボエンジンの加速には好感を抱いたものの、競合車種と比較検討するユーザーの多くがソッポを向いた。

筆者は昨年のゴールデンウイーク明けに行われた、ステップワゴンの報道向け試乗会で、開発者からこんな話を聞いている。彼によれば、ステップワゴンが属する5ナンバー2リッタークラスの背高ミニバンでは、奥様方の井戸端会議が売れ行きに大きな影響を持つという。予想どおり、購入の主導権を握っているのは奥様方だった。近所の公園などでの井戸端会議で、意外にも車談義がしばしば行われるそうだ。

スタイリングやハンドリングが話題に上ることはほとんどない。メインテーマは価格と燃費と使い勝手だ。多くの家庭で同じクラスのミニバンを所有し、子供たちのスポーツの試合などのときに、交代で出動するのだという。

「好きな車を買えばいいのに」と思う人もいるだろう。しかし周囲に合わせた行動を取らないと、仲間外れにされてしまう可能性もあるのが、今の日本社会のよからぬ傾向であることもまた事実である。奥様が購入の主導権を握ると聞いたので、ハイブリッド車がないと苦戦しそうだと予想したら、そのとおりになってしまった。

ホンダもこれは弱点だと感じていたのだろう。ハイブリッド車の追加は今回のマイナーチェンジで目玉の1つといえる。

スパーダに限定した理由

それにしても、なぜ当初からステップワゴンにはハイブリッド車が設定されなかったのか。派生モデルのスパーダにのみ設定されたことが、その事情を物語っている。

ホンダは現在複数タイプのハイブリッドシステムを持っている。「フィット」や「フリード」に積まれている排気量1.5L直列4気筒エンジン+1モーター、「アコード」や「オデッセイ」が積む排気量2L直列4気筒エンジン+2モーター、「レジェンド」や「NSX」向けの排気量3.5L・ V型6気筒エンジン+3モーターという陣容だ。このうち3モーター式はレジェンドとNSXとではエンジンが別物で搭載位置も異なるから、4タイプとしたほうがいいかもしれない。

ステップワゴン スパーダに追加設定されたのは、2Lエンジン+2モーターのハイブリッドシステムである。

マイナーチェンジで投入するとなると、さまざまなテストを行わなければならず、新規開発では間に合わない。3.5Lエンジン+3モーターは過剰にすぎるし搭載スペースがない。なのでステップワゴン・ハイブリッドの実現は、1.5Lエンジン+3モーターか2Lエンジン+2モーターかいずれかの転用になる。

ステップワゴンが当初から積んでいた1.5Lターボエンジンは、同じく3列シートを持ちつつ低く幅広いボディを持つミニバン「ジェイド」にも積まれている。このため、ジェイドが採用する1.5Lエンジン+1モーターのハイブリッドシステムを採用する可能性もあったかもしれないが、ステップワゴンの車両重量はジェイドより100kg以上重く、動力性能に不安が残る。


変更なしの標準車(写真:Honda Media Website)

2Lエンジン+2モーターは性能面では問題がない。ただ、これを積むアコードとオデッセイは、ともに全長4800mm以上、全幅1800mm以上という大柄なボディを持つ。標準車で全長4690mm、スパーダで4760mm、全幅1695mmのステップワゴンに同じパワーユニットが収まるかが気になった。

どうやら、ここが大きなポイントになったとみられる。2L+2モーターのハイブリッドユニットはやはり大きく、フロントノーズを伸ばし、ボンネットを高くする必要があった。全幅だけでなく全長も5ナンバー枠内に収まっていた標準型にこの改良を行うと3ナンバーになってしまう。なのでマイナーチェンジ前から3ナンバーだったスパーダに限定したようだ。


(左)旧型スパーダ、(右)新型スパーダ(写真:Honda Media Website)

目つきを鋭くした演出

既成のパワーユニットの搭載に2年半も要したのは、そのままでは搭載できないので改造が必要だったことが大きいだろう。たしかに2015年の発売から約1カ月後の受注台数は約7割がスパーダで、近年、スパーダの比率は急速に高まっていたため合理的な判断ではある。


N-BOXとカスタム(写真:Honda Media Website)

標準型のボンネットがフロントウインドーと同じような角度でストンと落ちているのに対し、スパーダは水平に近い。当然ながら顔は厚みを増した。クロムメッキのバーをヘッドランプの中に伸ばして目つきを鋭くした演出は、8月に発売された新型「N-BOX」のカスタムに似ており、その下に2本のバーを並べた造形は上級ミニバンのオデッセイを連想させる。

その意味では近年のホンダ製ミニバンとの共通性を持たせたともいえるが、同時にトヨタのノアやエスクァイアと同じように、光り物を増やしてこのカテゴリーの顧客の嗜好に合わせたという見方もできる。

パワーユニットの最高出力および最大トルクはエンジン、モーターともにオデッセイ・ハイブリッドと同じであり、駆動用リチウムイオンバッテリー容量も共通になっている。

気になる燃費はJC08モードで25km/Lをマークしている。ライバルであるトヨタ3兄弟ハイブリッド車の23.8km/Lをやや上回った。セレナはモーター走行ができないマイルドハイブリッド方式なので17.2km/Lにとどまっている。

ホンダの2Lエンジン+2モーター方式ハイブリッドシステムは効率が高く、同じユニットを積むアコードは全車30km/L台をマークしている。セレナは「エクストレイル」に搭載しているストロングハイブリッド方式あるいは「ノート」で好評のe-POWERの導入に迫られるだろう。

価格はやや高め

ただし価格はやや高めだ。マイルドハイブリッドのセレナが250万円以下、トヨタ3兄弟は約300万円からハイブリッド車が選べるのに対し、ステップワゴンのハイブリッド車は約330万円からになっている。

上級車種に位置づけられるスパーダのみの設定であるうえに、格上の車種のために開発されたハイブリッドユニットを転用したことが、ボディサイズのみならず価格にも影響を及ぼしているようだ。


オデッセイ(写真:Honda Media Website)

実際の走りがどうであるかは試乗してみないと断言できないが、アコードやオデッセイ・ハイブリッドに乗った経験からいえば、このシステムは高速道路でエンジン走行をすることを除けば、多くのシーンを電動走行でまかなうので力強く静かである。エンジンも2Lなので1.8Lエンジン+モーターのハイブリッドシステムを積むトヨタ3兄弟より余裕があるだろう。

こうした特性を価格に見合った付加価値として感じさせられるか。ハイブリッド投入によって、ステップワゴンが苦戦を脱せるかどうかのカギはそこにある。