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●「カメラメーカー」ではなく「コンテンツ企業」

「アクションカムでカメラを変えたGoPro、再び」……9月28日に米サンフランシスコでGoProが開催した「FUSION」と「HERO6 Black」の発表会は、そんな期待がふくらむイベントになった。HERO6 Blackは今日のアクションカム市場の要望に答える手堅いアップデートが行われたが、注目すべきはアクションカムの新しい提案と呼べるFUSIONだ。CEOのNick Woodman氏は「最高に自由でクリエイティブなツール」と表現していた。

GoProは小型カメラを主力製品としているが、株式上場の際の資料などで同社は自身を「カメラメーカー」ではなく「コンテンツ企業」としている。カメラはコンテンツを得るためのツールというのがGoProの考え方だ。小型・軽量で頑丈なアクションカムを作るのが目的ではなく、スポーツや各種アクティビティを自分で体験しているような迫力ある映像を撮れるようにすることが同社の目的である。実際、GoPro製品からそれまでになかった動画が続々と生み出され、YouTubeなどで共有されたコンテンツを通じてGoProを支持する人たちの輪が広がった。GoProの製品とその可能性を予測する上で、同社をコンテンツ企業と見なすことが肝要になる。

「FUSION」は小型の360度カメラである。製品概要は既報の通り、前後それぞれにカメラを1つずつ備え、5.2K/30fpsで360度動画を撮影できる。

「小型の360度カメラなんて、すでにいくつも発表されている」と思う方もいるだろう。FUSIONは、既存マウントとの互換性を備え、5mの防水性能、ボイスコントロール機能、GPS、加速度計、ジャイロセンサーなどを搭載した360度アクションカムになっている。GoProが公開しているFUSIONを紹介するビデオ「GoPro: This Is FUSION」にあるように、HEROシリーズと同じようにサーフィンやパラグライダー、モトクロス、スキューバダイビングなど、激しいアクティビティやスポーツでもカメラを身に付けて360度動画を撮影できる。

GoPro: This Is FUSION

だが、それだけではない。FUSIONでGoProは、360度カメラを使って人々を魅了できる映像コンテンツを作る方法にこだわった。その答えが「OverCapture」である。360度映像から任意の画角でHD動画や画像を切り出すツールだ。大げさではなく、OverCaptureを体験せずに、FUSIONを評価することはできない。

●FUSIONの最重要機能「OverCapture」とは

たとえば、サッカーでドリブルしてシュートする子供を追っかけて撮影する時、ちょこまかと走り回る子供をうまくフレームに収めて追っかけるだけでも大変だし、シュートした時に子供からボールに被写体を移してゴールマウスに吸い込まれるボールをうまくフレームに収めるのは至難の技だ。でも、FUSIONを使えばそれが簡単にできる。子供を追っかけて撮影するだけで良いのだ。

できあがった360度映像には子供を中心に周囲の全てが記録されているから、あとからパソコンまたはスマートフォンでOverCaptureを使って、欲しい映像や画像を切り出す。作成方法は簡単だ。360度動画の中で、もう一度撮影するようにしてHD動画や画像を切り出す。まず子供にズームインしてドリブルする様子を追っかけ、シュートしたらボールにフレームを合わせ、そしてズームアウトさせてゴール全体を収めるという具合だ。

スマートフォンでOverCaptureを体験させてもらったが、本当に簡単だった。被写体を拡大するにはピンチアウト、逆はピンチイン、あとはスマートフォンを動かしてフレーミングする。普段スマートフォンを使って動画を撮影するのと変わらない。それを360度動画を再生しながら行うだけである。

360度映像から作るから納得いくまで何度でもやり直せるし、ドリブルして攻撃する子供と、その子供を追っかけるディフェンスの子供のクリップを別々に作ったり、または2人の様子を交互に1つにまとめたクリップなど、1つの360度動画から様々なクリップを作れる。

これまでなら2人の子供を撮るには2台のカメラが必要だったが、1台で周りの子供全員を記録できる。あらかじめ被写体を決めて、被写体にカメラを向け続ける必要もない。ざっくりと撮っておけば、全てが記録される。CEOのNick Woodman氏は「最高に自由でクリエイティブなツール」と述べていたが、FUSIONとOverCaptureの組み合わせには創作意欲を刺激された。ユニークなコンテンツを生み出せる大きな可能性を感じた。

●360度動画シーンにもたらす影響

今360度カメラが注目されている理由の1つが仮想現実 (VR)である。Woodman氏も「VRは大きな可能性を秘めている」と認めていたが、「問題はそれがいつそれが開花するかだ」とつけ加えた。すでにVRを体験することはできる。だが、高性能なVRヘッドセットを所有している人は少ない。VRヘッドセットを使わなくても、360度動画を視聴することはできるけど、VRヘッドセットのような没入感はなく、操作が面倒で、360度動画は魅力あるコンテンツになっていない。360度動画で爆発的にシェアされているコンテンツに出会わないのが、その証拠である。

一方、携帯で簡単に高画質な動画を撮影できるようになって、これまで以上に動画は撮影・共有され、視聴されている。いずれ簡単にVRの世界で360度動画を楽しめるようになると予想されているが、従来の動画からVRが主流になるまでには長い時間がかかるだろう。だからといって、360度カメラの価値が引き出されないのはもったいない。360度動画からでしか作れないようなHD動画を作成できるOverCaptureは、その移行期間の溝を埋める有効なソリューションになる。

FUSIONが新しいアクションカムの提案であるのに対して、「HERO6 Black」は一言で言い表すと「手堅いアップグレード」だ。製品の概要は既報の通り。外観は変わっていないが、中身は大きく進化しており、「GP1」というGoPro独自開発のプロセッサを搭載し、4K/60pの動画撮影やフルHD/240pのスローモーション動画撮影に対応する。また手ブレ補正機能が強化され、タッチ操作によるデジタルズームも可能になった。

実際に使ってみると、HERO6はカメラとしてよくできた製品だった。「HERO3」シリーズや「HERO4」シリーズはよく売れたが、アクションカムとして優れた製品であり、暗いシーンが苦手で手ブレ補正がないなど通常のカメラの代わりになるようなものではなかった。アクションカムである分、通常のカメラとして使うには犠牲になっている部分があり、ユーザーを選ぶカメラだった。HERO6は、HERO5で加わった手ブレ補正に明らかな強化の成果が見られ、通常のカメラを使うのに近い感覚で簡単に安定した動画を撮影できる。これならアクションカムと身構えることなく、誰でも小さくて軽く頑丈なカメラのメリットを楽しめそうだ。

アクションカム市場に参入してくるカメラメーカー大手、防水・防塵化されるスマートフォンなど、競争激化によって今GoProは厳しい状況に置かれている。そうした中で、同社が新たな成長を生み出すためにやるべきことは明らかだ。GoProのアクションカムのユーザー層をより一般のカメラユーザーに拡げること、そしてHEROシリーズをレガシーにするような新たな製品の実現である。HERO6 Blackは前者、そしてFUSIONは後者の製品であり、現在のニーズに応え、将来も見通した明確な答えをGoProは用意した。あとは新たなツールを得たユーザーが、どのようなコンテンツを生み出すか……だ。GoProの熱心なファンは、特にGoProの新たな展開に期待しているだろう。見方を変えると、FUSIONがHEROキラーになってこそGoProの新たな可能性が広がる。それを実行しているのだから、思い切った製品戦略である。だが、HEROシリーズの最大のライバルをGoProが作ることこそ、GoProユーザーがGoProに最も期待していることなのだ。