マンチェスター・シティのMFケビン・デ・ブルイネ【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

シティに必要だった「質的変化」。ラインをスキップするパス

「インサイドキック」ができないサッカー選手はいないであろう。それゆえ、それは武器として理解されにくいかもしれない。だが、誰もができるキックであっても、同じ水準で決してできないものであれば話は変わってくる。マンチェスター・シティに所属するケビン・デ・ブルイネ。彼のインサイドキックにはセットプレー同然の威力が備わっている。(文:西部謙司)

----------

 チェルシーとマンチェスター・シティの対戦は、およそ型どおりに推移した。ただ、どちらも想定内ではあるが思いどおりではない。

 チェルシーにはボールを奪う力がある。シティに攻め込まれるのは想定内、そこからカンテ、バカヨコらのボール奪取力を使って攻守をひっくり返して速攻へ持ち込みたい。ところが速攻のほうは不発だった。

 一方、シティもボールは支配できていたものの、なかなかフィニッシュまで結びつけられない。チェルシーのカウンターは封じていたが自分たちも決め手を欠いていた。

 どちらのゲームとも言えないが、どちらも自分たちの試合にはなっていた。

 先の動いたのはチェルシーのコンテ監督だった。34分にモラタが負傷し、ウィリアンに交代。後半から中盤中央の配置を少しだけ変更している。前半はバカヨコが中央、右にカンテ、左にセスクだったのを、バカヨコとセスクの位置を入れ替えた。シティのビルドアップに対して、セスクを頂点とした三角形ならシティのトライアングルにピタリと合わせられる。ただ、それで劇的に何かが変わったわけではない。

 シティに外見上の変化はない。必要なのは質的変化だった。

 前半にボールを支配しながら崩しきれなかったのは、攻撃がわかりやすかったからだ。ほとんどのプレーがチェルシー守備陣の監視下に置かれていた。シティに必要だったのはラインをスキップするパスだ。

 1つ前ではなく、もう1つ前へのパス。1人をとばすことで、そのとばされた選手が次の瞬間に相手の監視から逃れることができる。前半のシティはそれがないためにパスの先々はすべてマークされ読まれていて、個人技による突破しか選択肢がなくなっていた。

1人飛ばしのパスを1人で実現。デ・ブルイネの「1人時間差」

 48分、シティは左サイドからラインをスキップさせたパスワークでゴールへ迫る。左サイドでボールをキープしたデルフの前方にはスターリングがいた。しかし、デルフはスターリングにはパスせず、右斜め前へ走り込んできたシルバへボールをつける。

 チェルシーの監視と予測の下にあるデルフ→スターリングではなく、スターリングより前方のシルバへのパス。これでスターリングがチェルシーDFの視野から一瞬外れる。ペナルティーエリアの左角あたりでパスを受けたシルバがさらに前方へボールを流すと、そこにはデルフとシルバの中間にいたはずのスターリング、すでにポストの手前まで来ていた。

 スターリングのラストパスは防がれてCKになったが、シティが打開の鍵を手にしたことが明らかになったシーンだった。

 この試合の決勝点となったデ・ブルイネのゴールは、デ・ブルイネとジェズスの壁パスから生まれている。ラインをスキップさせたパスワークではない。ただ、デ・ブルイネは最初のパスを受けたときにワンタッチで前方のジェズスへ捌いていた。パスの方向を変化させるようなフリックに近いパスだ。

 デ・ブルイネのワンタッチパスは、自らをスキップさせたのと同じ効果を与えている。バレーボールの「1人時間差攻撃」と少し似ているかもしれない。

サイドキックという武器。ベッカム同様、セットプレー同然の威力

 ケビン・デ・ブルイネはベルギーが生んだ現在最高のプレーヤーだろう。ベルギーにはエルジェ作の世界的に有名な漫画「タンタンの冒険」があるが、主人公のタンタンとデ・ブルイネはよく似ている。

 デ・ブルイネの武器はインサイドキックの強さと正確さ。サイドキックができない選手はいないので、これが武器といわれてもピンとこないかもしれないが、誰もがやっていることだからこそ「止める・蹴る」が秀でていれば、それは大きな武器になる。

 逆サイドのゴールエリア角へフワリと上げるパス(というよりほぼトスアップ)はシティ定番の攻め手だが、近いほうのGKとDFのわずかな隙間へ刺すような低いパスも速度と精度が抜群。いずれもデ・ブルイネの右足を生かした攻撃ルートだ。かつてのデイビッド・ベッカムと似ていてセットプレー同然の威力がある。

 右サイドのスペースへ斜めに走り込んで縦パスを引き出し、そのままダイレクトで折り返すクロスボールもよく使っている。無理な体勢なのに無理に見えない。まるで体を液状化させてGを分散させているかのようで、そんなときのデ・ブルイネは大きなネコになる。

 カウンターアタックではジェズスやアグエロを狙ったスルーパスが十八番。球足が速く、距離が遠くても失速せずにDFの間を通過させられる。

 かつて冷遇されたチェルシーに対する決勝点は得意の右足でなく左足のミドルだった。左足でも同じような質のボールを蹴る。これもデ・ブルイネの長所だ。走れるしコンタクトにも強い。ただ、彼の武器は誰もができるが同じ水準では決してできないサイドキックである。

 チェルシーはバチュアイとペドロを投入、前線を厚くして1点を追ったが、あまり効果的な攻撃はできずに終わる。カンテからのパスが再三カットされてシティのカウンターを許していたのは痛々しくもあった。

 カンテ、バカヨコは守備力抜群、とくにカンテは攻撃でも長足の進歩をみせている。しかし彼らの武器はやはり守備であって攻撃ではない。チェルシーにはリードされたときの武器が足りなかった。

(文:西部謙司)

text by 西部謙司