「Thinkstock」より

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『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社/鈴木信行)。

 こんな刺激的なタイトルの本が話題を呼んでいる。注目されているのはタイトルだけではなく、「読めば他者の人生の仮想体験ができる」という点だ。

「宝くじで1億円当たった人の末路」と「人生の仮想体験ができる」に、どのような関係があるのか。その意味は、ページをめくっていくとすぐに理解することができた。なにはともあれ、著者で「日経ビジネス」副編集長の鈴木信行氏に話を聞いた。

●「宝くじで1億円当たった人の末路」とは?

「宝くじで1億円を当てる」――これは、誰もが一度は夢見ることに違いない。しかし、実際に当選した人がその後どんな人生を送ったのかは、気になるものの調べようがない。そんな興味を解決してくれたのが本書……と思うことだろう。

 ところが、発売されると、話題を呼んだ一方で「タイトルに騙された」「実際に宝くじで1億円当たった人を追跡調査したのかと思った」など、さまざまな声が寄せられた。そのため、出版時には異例の措置が取られたという。

「ウェブ上に本書のための専用ページをつくりました。そのページで、本書では『宝くじで1億円当たった人の末路』だけではなく、『事故物件を借りた人』『8時間以上寝る人』など、『いろいろなパターンの末路を紹介していますよ』ということをQ&A形式で細かく説明しています。本書を買う前にこのページを見てもらえば、どんな内容の本なのかをわかっていただけると思います」(鈴木氏)

 そう、この説明でわかるように、本書は宝くじの話で始まるものの、宝くじに当選してその結果不幸になった人が登場する本ではない。「バックパッカーの末路」「電車の『中ほど』まで行かない人の末路」などなど、世間から“変わり者”と見られる選択をした場合、その人の人生が最終的にどうなっていくのか……。それを各分野の専門家に取材することで検証・推測する内容となっているのだ。

 たとえば、タイトルにある「宝くじ」のケースでは、マネーフォワード取締役の瀧俊雄氏に話を聞き、「家族内・親族内トラブル」の可能性に触れたり「宝くじで得た資金で事業を始めるなんて最もハイリスクな選択」という提言を受けたりしたほか、結論として「宝くじを買う度胸があるなら、ルンバを作れ」とある。

 実際に本書を読んだ読者からは、大きな反響が寄せられたという。

「意外だったのは、『子供に読ませたい』という親御さんが多かったことです。本書を読むことで『人生の仮想体験ができる』というのです。そういう読み方をされる狙いはなかったので、驚いた半面うれしかったです」(同)

●なぜバックパッカーは決して後悔しないのか

 人間なら誰でも「新しい挑戦をしたい」と思っても、最初の一歩を踏み出すには勇気がいる。失敗を恐れて何もできずに終わることもよくある。

 本書の良いところは、読めばその選択の結果がある程度予測できることだ。たとえば、「一生賃貸物件で暮らした場合」「海外留学した場合」など、収録されている23のテーマはどれも「言われてみると気になる」選択の末路ばかり。

 なかには、「いつも不機嫌そうな上司の末路」「電車の『中ほど』まで進まない人の末路」など、ごくごく身近なテーマもある。

「最初は『地球』とか『宇宙』とか、もっと壮大なスケールのテーマを予定していたんです。でも、実際に考え始めてみると、身近なテーマばかりが思いつくんですね。『電車の中ほどまで行かない人』などは、まさにそうです。これは、私自身が『なんでだろう』と気になっていることでした」(同)

 本書に収録された23の末路のうち、鈴木氏が取材時にもっとも印象に残ったのが「バックパッカーの末路」だという。

「バックパッカーに憧れる人は多いと思うんですよ。世界中をバックパックひとつで旅するなんて、かっこいいじゃないですか。私も憧れた1人です。しかし、現実的に考えると、長期間の放浪生活をするには相当の覚悟が必要。その間、職歴はなくなるし、帰国後の再就職もどうなるかわからない……。そんな問題点が積み重なって断念する人は多いはずです」(同)

 そんな思いから本書では元バックパッカーたちに取材しているが、その際、鈴木氏はこんな言葉を聞くことになる。それは「バックパッカーをして後悔した人に会ったことがない」というものだ。

「なぜなら、『人生において自分で下した大きな決断には、決して後悔することはないから』と言うのです。その言葉を聞いて、ハッとしました。人生、後悔していたら生きていけないんですよ。

 もし、何か迷っている人がいたら、本書を読んで、その選択にどんな結果が待っているのか、その一端を知ってほしい。怖い気持ちや不安がまぎれて『よし、挑戦してみよう』となるかもしれません」(同)

●友達ゼロのほうが幸せな人生を送れる?

 タイトルには「末路」という言葉が使われているが、本書で検証しているさまざまな選択の結果は、必ずしも悲惨なものばかりではない。鈴木氏は「『友達ゼロの人の末路』は、まさにそう」と言う。

「『孤独な人生を送るんだろうな』と思うでしょうが、実際はそうでもない。むしろ、友達がものすごく多い人よりも、友達ゼロの人のほうが幸せな人生を送れる可能性すらあることがわかりました」(同)

「子供を作らなかった人の末路」も同じだ。「子供を作ること=幸せ」というのは固定観念にすぎない。本当はもっといろいろなものの見方や考え方があるのに、「ひとつの視点で捉えようとする人が多い」と鈴木氏は語る。

 そこにあるのは、ある種の「同調圧力」。実は、これは本書の裏テーマでもあるという。日本の教育制度には「みんな同じでなければいけない」という同調圧力が根強く残っている。カビの生えた固定観念が、いまだに人々の心を縛り続けているわけだ。

「友達が1人もいなくてもかまわないし、子供も自分が望まなければ無理に作る必要はありません。『家を買うことが一人前の社会人』なんて時代は、とっくに終わりました。自分がやりたいのなら、他人に何を言われようとバックパッカーをやればいいんです。同調圧力に屈していては、人生おもしろくないですよ」(同)

 今、鈴木氏が気になる「末路」は本書に掲載した23の応用編だという。

「本書で紹介した末路の中には、まだまだ深掘りできるものがあると思っています。たとえば、『キラキラネームの人の末路』を検証したら、今度は『改名した人の末路』が気になり始めました。企画の初期に立ち戻って、『宇宙の末路』など壮大なスケールの末路にも挑戦してみたいですね」(同)

 もしかしたら「第2弾もあるかもしれない」と鈴木氏。個人的には、その際は“本物”の宝くじ当選者に登場してもらいたいと思ったりするのだが……。
(文=中村未来/清談社)