枝野氏の新党は保守化・右傾化の風潮を嫌う人々からの支持を集めるか(写真:日刊現代/アフロ)

「選挙になると政治家は正気を失う」というのが永田町の定説だが、"狂気の沙汰"ともみえる野党第一党・民進党の希望の党への「身売り」と、小池百合子都知事の「排除宣言」で絶望の淵に追い込まれた民進リベラル系が、2日に枝野幸男元官房長官が結成宣言した立憲民主党に希望を見いだそうとしている。何やら古臭い党名だが、安倍晋三首相と小池氏による2大保守対決の流れに埋没しかけたリベラル勢力の「救命ボート」だ。

排除の論理への怨念もエネルギーに換えて選挙戦での生き残りを狙うもので、行き場を失ったみなしごたちの「新たな駆け込み寺」でもある。政界の左隅で革新の旗を振り続ける共産、社民両党は歓迎し連携する構えで、自民vs.希望という「1対1」の選挙戦の構図を「1対1対0・5」に変えることで、立憲民主党は「絶望からの反撃」を目指す。

民進3分裂で選挙戦も三つ巴の構図に

民進党代表代行だった枝野氏は2日夕、都内のホテルで記者会見し、自らが代表となる立憲民主党結成を宣言した。希望の党代表の小池氏から「排除」されそうな民進系の議員や立候補予定者の受け皿づくりだ。民進リベラル系を糾合することで「反安倍」の市民団体とも連携し、共産、社民両党などとの「野党共闘」の再構築が目標だ。

「たった1人で」という枝野氏の新党結成宣言だったが、間を置かずに菅直人元首相や長妻昭元厚生労働相が呼応した。赤松広隆元衆院副議長、海江田万里元民主党代表、辻元清美元国土交通副大臣ら民進有力者も参加を表明するなど、1週間後の選挙公示日をにらんで入党希望者が相次ぐ。「1日も早く安倍政権を倒すための戦う集団」を目指す枝野氏だが、24年間も続いた「盟友」の前原誠司民進党代表だけでなく、野田佳彦元首相、岡田克也前代表、江田憲司前代表代行、安住淳元財務相ら民進党実力者は無所属での立候補を選択する構えだ。

これにより、民進党は「希望の党」「立憲民主党」「無所属」に3分裂することになる。10日公示、22日投開票の衆院選も、それぞれ共闘・連携する「自民・公明」「希望・維新」「共産・社民・立憲民主」の三つ巴の構図となることがほぼ固まった。

枝野氏は記者会見で、希望の党に対し「方向が違うと判断せざるをえない」と強調する一方、安全保障法制の容認などで「踏み絵」を迫る小池氏の政治手法への不快感もあらわにした。そのうえで憲法9条での自衛隊明文化を目指す「安倍改憲」については「安保法の違憲部分の追認になる」と批判する一方、2019年10月の消費税10%の増税は「現下の経済情勢では国民の理解を得られない」と反対を明言した。

民進党を離党した枝野氏ら立憲民主党参加者は3日、新党結成を総務省に届け出た。菅氏ら有力議員に追従する形で、民進党が公認を内定していたのに希望の党から「排除」された議員や立候補予定者も次々参加表明している。このため公示前には「全国で比例当選も狙える50人規模の公認候補」(枝野氏周辺)に膨らむ可能性も出てきた。

民進党3分裂という異常事態に、同党最大の支持団体だった連合は対応に苦慮している。小池氏ら希望の党幹部の「候補者選別」に怒りを隠さない神津里季生連合会長は、2日の役員会で希望の党とも立憲民主党とも政策協定などは結ばず、両党が公認した立候補者を個別に支援する方針を決めた。連合内には「原発ゼロ」に反発する組織団体もあり、選挙区事情も考慮した選挙戦略だ。

小池氏、「民進貯金」と「連合組織」はとらぬ狸に 

一連の動きについて小池氏は「わかりやすくなった」と歓迎する素振りを見せた。だが、同氏が狙ったとされる、民進党の政党助成金を貯めた約140億円の「資金」や選挙の手足ともなる連合という「組織」の全面活用は難しくなった。希望の党は立候補のための供託金や選挙活動資金については「自前」で賄うよう公認候補らに通告し、2日の小池氏とのツーショット写真撮影でも候補者に3万円の支払いを求めた。

各マスコミが連日実施している世論調査結果を分析すると、希望の党をめぐる混乱の影響からか「小池旋風」も失速の兆しを見せている。これに対し小池氏は2日、中央マスコミの連続インタビューに応じ、「今回の選挙で政権を狙いたい。まずは単独政権だ」と衆院過半数の233人以上の公認候補擁立を目指す考えを強調、その一方で都知事を辞職しての衆院選出馬については「100%出ません」と明言した。

単独政権が実現した場合にも党首が首相指名の対象にならないという事態は「自己矛盾」(自民幹部)との批判も呼ぶが、小池氏は「ふさわしい方はたくさんいる」ととぼけている。

枝野氏の新党結成は、同氏の「排除」を決める際に「小池氏も織り込み済みだった」(希望の党幹部)とされる。しかし、それによって「小池代表の思いとは違う(悪い)イメージが広がった」(同)ことが誤算となったことは間違いない。

もちろん、「政党の命は理念と政策」という原点に立てば、小池氏の対応は「筋論としては正しい」(自民長老)ともいえるが、「政権交代を目指すなら、広範な反自民勢力の結集が大前提」(同)となるのは当然だ。このため政界では「政権交代という目標は選挙戦を盛り上げるための小池氏の大風呂敷だったのでは」(共産幹部)との見方も広がる。

首相ら政府与党首脳の間にも「これで恐れていた自民党の半数割れもなくなった」(選対幹部)との安堵感が広がる一方、突然の立憲民主党というリベラル新党の登場で「小池新党に代わって枝野新党がブームを巻き起こすのでは」(同)との不安も拭えない。ただ、「野党陣営の分裂は与党を利する」(希望の党幹部)ことは間違いなく、有権者への"刺激"を避けるためか、首相らの「小池攻撃」もトーンダウンしている。

民進党「名を捨てて つかんだ実は"毒の泡"」

そもそも、こうした事態を招いた最大の原因は、希望の党への民進党合流を決める際の小池・前原会談での「認識のズレ」だ。小池氏サイドは「初めから理念や政策で(候補者を)選別することを伝えた」とするが、前原氏の受け止め方は「事実上の民進党丸ごと合流」だったとされる。だからこそ、いったん希望の党支援に舵を切った神津連合会長が激怒して方針転換したのだ。

1996年の民主党結党以来、21年間、「大政党」として自民党と対峙してきた民進党はとうとう分裂・解体となった。1997年の金融危機で廃業に追い込まれた山一證券の最後の社長は廃業会見で「社員は悪くありませんから」と涙で絶叫したことで知られるが、民進党内には「『党の議員は悪くない』と前原氏が涙で謝罪すべきだ」との怒りの声も広がる。永田町では「名を捨てて つかんだ実は"毒の泡"」という笑えない川柳が関係者の無念を伝えている。

前原氏とともに無所属での戦いを選択する野田、岡田、安住各氏は、枝野氏や今回希望と民進の候補者調整を手掛ける玄葉光一郎元外相と合わせて「民主党6人衆」と呼ばれ、鳩山由紀夫、菅直人、小沢一郎3氏による「第1世代」に続く「第2世代」として2009年政権交代後の民主党政権を支えた。6氏はそれぞれ政治・政策理念を超えて信頼関係で結ばれていたが、今回、やむなく袂を分かつことになる。

政界で「カラオケ大魔王」と呼ばれる枝野氏は、希望の党からの同氏の「排除」が明らかになった際、「1人カラオケに行きたいよ。『不協和音』を歌うんだ」とつぶやいて夜の闇に消えた。「不協和音」とは人気女性グループ「欅坂46」のヒット曲だ。歌詞の中には「不協和音を僕は恐れたりしない 僕には僕の正義があるんだ」というくだりがある。枝野氏のやるせない気持ちにピッタリのフレーズだ。民進党代表選の遊説での移動の際に、自らiPodにダウンロードして練習した曲の1つとされる。

菅内閣の官房長官として、2011年春の東日本大震災や福島第一原発事故対応での政府スポークスマンを務めた枝野氏のテレビ画面からもにじむ不眠不休の奮闘ぶりに「菅起きろ、枝野寝ろ」との国民の声が相次いだのは記憶に新しい。永田町では今回の「小池劇場」の魔訶不可思議な展開を「保守勢力による民進党の解体と連合の分断を狙ったリベラル潰しだ(社民党幹部)と憤る向きも少なくない。

第2次安倍政権発足以来、インターネットでの「つぶやき」などからも若年層の保守化・右傾化が際立つ。ただ、戦争を知る高齢世代を中心とするリベラル勢力はまだまだ健在だ。「新たな女性の独裁者から排除された中年男の悲壮感」(民進長老)が日本人特有の"判官びいき"という琴線に触れれば、昔の名前のような立憲民主党が「革新勢力の星」に躍り出る可能性もある。