高良健吾がヒロイン・泰子(初音映莉子)の幼なじみである青年・智を演じる/撮影=下田直樹

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「八日目の蝉」などで知られる直木賞作家・角田光代の同名長編小説を初音映莉子主演で映画化した映画「月と雷」が、10月7日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開。

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近年、映画「横道世之介」(2013年)、「きみはいい子」(2015年)やドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016年、フジ系)、連続テレビ小説「べっぴんさん」(2016-2017年、NHK総合ほか)など、幅広いジャンルの作品に出演し、日本を代表する実力派俳優の地位を確立した高良健吾は、ヒロイン・泰子(初音)の幼なじみである青年・智を好演している。

何を考えているのか分からないひょうひょうとしたキャラクターと、どう向き合いながら演じたのか。役への思いや共演者の印象、ことし11月に30歳という節目を迎える現在の心境などを聞いてみた。

――智はどんな青年だと捉えていますか?

つかみどころがないですよね。何でこの人は、こういうことをしてしまうんだろうって。

――安藤(尋)監督も「つかみにくい人物」と仰っていました。

脚本を読んだ時は疑問と違和感しかなかったです。でも、演じる時はそんなことを思わず、シーンごとに素直な気持ちで智と向き合っていました。

――母・直子(草刈民代)と共に“根無し草”のように地域を転々とする生活を送っていたという過去も影響していると思いますか?

智という人間が作られていく過程において、その幼少期の経験はかなり大きかったと思います。だから、なるべく勘ぐらず誠実に。自分が思ったことを大切にしながら演じることを心掛けました。

――直子のような根無し草の生活に憧れは?

楽しそうだなと、勝手に思っています。ある意味責任がないわけですし、楽なイメージがありますよね。実際やってみたらサバイバルなんでしょうけど(笑)。

――高良さんも小さい頃、引越しや転校が多かったそうですね。

僕の経験と、智が住むところを転々とする感じは、全く違うと思います。どちらかというと、今の仕事の方が、年齢を重ねながらそれぞれの現場や与えられた役によっていろいろ状況が変わっていくのでリンクしやすいような気がします。

――安定した生活は、あまり求めない?

俳優という仕事をしている時点で安定はないと思っています。自分でこの職業を選んだということは、そういう性格なんでしょうね。何だかんだ続いているし。とは言いつつも、どこかで心の安定を求めている部分もあって。どうしたらいいんだろう。常に考えています。

――ヒロインの泰子(初音映莉子)は母親が家出をしたことで「普通の生活」を知らないまま育ち、智も幼少期の経験から「普通の生活」ができない。本作では“普通”と“生活”がキーワードになっているような気がします。

僕たちみたいな仕事をしている人間こそ敏感でありたいし、ある意味鈍感にならないといけないんです。いずれにせよ、どちらも生きていく上で大切なこと。だからこそ難しいですよね。人によって、それぞれ違うと思いますから。

――泰子と智の関係については、どう思いますか?

泰子と智は大人になりきれていなくて、どこか似たような寂しさを持った2人。幼い頃に出会い、そして別れて。20年ぶりに再会した時も、お互いに年齢を重ねたから大人の付き合い方にはなっているけど、子供の頃と同じような感覚がどこかにある。

特別な関係というか、不思議ですよね。どこかロマンチックな感じがします。

――そんな不思議な2人の関係はラブシーンでも垣間見えますね。

子供の頃のスキンシップの延長みたいな。あれは、智らしいですよね。フワ〜っとした感じで泰子に接していく感じが。あのシーンに関しては、2人の男女の欲望のようなものが見えたら絶対駄目だと思いながら演じていました。

――泰子を演じた初音さんの印象は?

主演としてこの作品に懸ける覚悟だったり、泰子に対する思いだったり、そういったものが現場でもずっと出ていたような気がします。初音さんが演じる泰子は、とても切なそうなんです。その感じがとてもいいなと。智として向き合っていて、いろいろ刺激を受けました。

――智の母・直子役の草刈民代さんも劇中で独特のオーラを放っていましたね。

直子は面白いキャラクターでした。今回の作品では、草刈さんとの出会いも大きかったなと思っています。長年、バレリーナとして体を使って表現して来られた方なので存在感がすごかったですし、単純に格好いい女性だなと。

何かを表現する時には、心を動かすことはもちろんですけど、まずは体を動かすことから始める面白さもあるんだなと気付きました。撮影の合間には、本や映画の話などがたくさんできましたし、とてもすてきな時間が過ごせたと思います。

――物語の後半で、智が自分の思いを泰子に告げるシーンが印象的でした。

長いせりふがあったんですが、すぐに覚えられました。たぶん、智の心情が自分の中にスッと入ってきたからなんでしょうね。自分の中では“覚えやすい”というのがポイントで。それだけ、無理なく智になれたのかなと。でも、そうなった時に学んだのは感情のコントロール。

もうすぐで30歳になりますけど、自分から出てきたものをどうやって表現していけばいいのか。その気持ちのコントロールが今後の課題かなと思っています。

――大人になった泰子と智がタンスの中に入るシーンでは、2人の自然なリアクションが見られたような気がしたんですけど、あれはどこまで台本に書かれていたんですか?

全部、ちゃんと書かれていましたよ。ある意味狙って作ったものが見てくださった方の心に引っ掛かって、泰子と智の関係が自然に見えたと言ってもらえるのは、すごくうれしいです。

――作品の見どころは?

角田光代さんの原作は、人の心を安心させるというよりはどこか抉ってくるような感覚が魅力的。そこに、安藤監督ならではの時間の進め方、人物の切り取り方などが加わって、とても面白い作品になっていると思います。

田園をバックに泰子と智が自転車に乗っているシーンは長回しということもあって、時間がゆっくり流れているし、都会では見られない光景ですよね。

“普通の生活”というものが特殊な形で描かれていますけど、だからこそ気付くこと、思うことがあるのかなって。映画を見て、何かを感じていただけたらと思います。

――先ほど、もうすぐ30歳になるという話が出ましたけど、何かやってみたいことは?

これまでもやってきたことなんですけど、いろいろな国に行ってみたいです。まだまだ、知らないところがたくさんあるので。俳優の仕事に結びつけようというわけではなくて、ただ行きたい場所に足を運んで、見たい景色を自分の目で見るだけ。南アフリカとかに興味があります。

俳優としては、年齢を重ねてどんな役と出合えるのか。

最近は優しいタイプの役が増えてきましたけど、10代や20代前半の頃はジャンルがラブストーリーだったとしても、何かを抱えているような役が多く、少女漫画系のようなキラキラしたものとは縁がなかったですね(笑)。

正直しんどいなと思っていた時期もありましたけど、あれからいろいろな現場を経験して自分なりに成長してきたと思うんです。

だから、今の年齢であの頃苦しんだようなキャラクターを演じたらどうなるのか。また、違った表現ができるんじゃないかなと思ったりもします。

――映画が公開される頃は秋真っ盛りですけど、高良さんがオススメする“秋のエンタメ”は?

やっぱり映画と読書。映画だったら大体2時間、読書は自分の好きなタイミングで普段味わえないような時間が楽しめますよね。映画も本も好きなので、たくさん見たり読んだりしていますけど、最近のお薦めは東出(昌大)くんが映画「聖の青春」(2016年)で演じた羽生善治さんの本。

羽生さんご自身が書かれているんですが、将棋のことは分からなくても面白く読める一冊です。

何か一つのことを長く続けている方の言葉は、きっといいヒントになると思いますよ。