有望な若手起業家が生まれてきていることを知っていますか?

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ガザでの「起業支援」の形とは

今、日本の団体がパレスチナ・ガザでビジネスコンテストを開催し、そこから有望な若手起業家が生まれてきていることを、ご存じでしょうか?


本記事はGARDEN Journarism(運営会社:株式会社GARDEN)の提供記事です

「起業支援」という形でガザに新しい風を吹き込んでいるのは、「Japan Gaza Innovation Challenge」、略して「ガザビジ」です。2016年に立ち上がって以降、2016年8月、2017年8月の2度、現地でビジネスコンテストを開催してきました。今年のビジネスコンテストにはなんと、80以上の応募が。

しかし、ガザといえば、「天井のない監獄」とも呼ばれる紛争地。今年4月にガザを訪問したGARDEN代表・堀潤は、現地の様子を以下のようにリポートしています。

“現在、ガザ地区は国際的にはテロ集団とも呼ばれる政党・ハマースによって実効支配されている。ガザの隔離・封鎖を強いるイスラエルとは激しく対立しており、2014年には一気に緊張が高まり戦争に発展、ドローンによる空爆やミサイルの発射などイスラエルからの大規模な攻撃で街は破壊しつくされた。政治的背景により、国際社会から孤立するガザ。現場では電力不足、物資の不足、仕事の不足、電力が使えないことによる水資源の汚染など深刻な人道危機を抱えている”

そんなガザでの「起業支援」の形とは。一般企業で働きながら「Japan Gaza Innovation Challenge」代表を務める上川路文哉さんに堀がインタビューしました。


「Japan Gaza Innovation Challenge」代表を務める上川路文哉さん

:よろしくお願いします。

上川路:よろしくお願いします。

:ガザでのビジネスの立ち上げを支援する取り組みをされていて、先日までクラウドファンディングにもチャレンジされていましたね。具体的にはどのような活動内容か教えていただけますか?

上川路:我々は、社会人主体の20人くらいの団体です。ビジネスのバックグラウンドを持っている人間が多いものですから、「生きる力をガザの人たちにつけてもらおう」ということで、起業支援をやっています。ガザの失業率は、若手の15歳から29歳で区切って見ると、6割を超えています。彼らは過去10年間で3回戦争に巻き込まれている事情から、戦争によってもしかしたら建屋とか固定資産が破壊されてしまう可能性もあります。「とにかく自分1人で飯を食っていける腕を磨いてほしい」「何度でもビジネスを作り直せるような才覚を磨いてもらうことが一番彼らのサポートになる」という観点で、起業支援をさせていただいています。

ガザで起業支援をやることになったきっかけ


:ガザで起業支援をやることになったきっかけは何だったんですか?

上川路:2003年に、「日本・イスラエル・パレスチナ学生会議」という学生団体を立ち上げました。対話を進める学生会議です。「仲が悪いと言われるイスラエル人とパレスチナの人が、直接会って話をしたら仲良くなるんじゃないか」というコンセプトの下やらせていただいていたものです。

ただ、次の年にガザに行った時に、私がイスラエルの国防軍に捕まってしまって。その場で対話をしようとしてもなかなか難しい。「話せば分かる」という世界だけではできないこともあるなと。それから、世の中をしっかりと変えていく力をつけたいと思いビジネスのフィールドに就職して、10年強になります。10年経った今ならできることがあるかなと思い、今回の起業支援をやらせていただこうと思った次第です。

:世界でいろんな出来事がある中で、当時どうしてイスラエル・パレスチナ紛争に目が向いたのでしょうか?

上川路:当時、日本のNGOが呼んだパレスチナ人による講演を聴きに行ったところから始まりました。その方から、イスラエルの悪口や、イスラエル人からひどいことをされているということを聞きました。私の出身校は国際基督教大学(ICU)なのですが、キャンパス内に留学生がちょこちょこいて。イスラエルの友人に「イスラエル人がこういうことしていると聞いたんだけど、ひどいんじゃないか」と話をさせていただいて。でもそれはイスラエル人からしたら全く違う見方があって。

それをパレスチナ人に聞くとパレスチナ人から論破されて。またイスラエル人のほうに行くとまた論破されて。というのを繰り返しているうちに、「直接会って話をしたらいいんじゃないか」と思い立ち、始めました。

:当時の思いとしては、「怒り」でしょうか? どういうものが原動力になっていたんですか?


上川路:そういうのも、もちろんあります。でも、同世代で随分活躍している仲間がいたので、「自分にもできることがあるだろう」という思いのモチベーションのほうが高かったです。当時、中米のエルサルバドルの選挙監視のインターンをしたら単位がもらえるというクラスが大学にあり、参加しました。その年がたまたま、イラク戦争が発生した2003年。そこでアメリカ人やヨーロッパの方々がイラク戦争に対して抗議し、実際に大使館の人に話をし、同年代が迫力を持って自分の主張をし、一生懸命社会を変えようとしている姿を間近で見ていたこともあり、「自分にできることは何かほかにもあるはずだ」と思ったんです。

:その思いがこういう形で続いているというのは、すごいことですよね。

上川路:諦めが悪いんでしょうね。

喪失した自尊心、でも教育熱心なガザでできること

:ただ、ガザの状況も、活動を始められた時と比べると、現在非常に厳しい。改善よりも、やや深刻化した状況で停滞化しているなと思って見ているんですけど。なぜ起業支援が必要なのでしょうか?


上川路:ガザでは、大半の人がおカネをもらっていて。国際機関から援助をもらったり、食料をもらったり、自活するには困っていない。何とか毎日生きてはいける。そこが逆にまずいと思っていて。彼らは、生きていくことはできる。

しかし、例えば、男性であれば子どもにおもちゃを買ってあげたり、奥さんにプレゼントを買ってあげたり、「自分の稼いだお金で何かしてあげられる」という意味での自尊心のようなものが随分失われていっている。飯が食っていけたからといって人は生きていけるわけじゃなくて、未来に対する展望が見えなかったり、自分が一生懸命生きていける自信がなかったりすると、腐ってしまうというところはあると思っていて。そこを根本からサポートできるような支援をしたいと思ったのが、起業支援の理由です。

:確かに、僕が現場にお伺いした時も、支援を受けながら生活をすることがいかに自尊心を失わせ、傷つけるか、ということを知りました。支援に頼らないと生きていけないというのは、全くつらい状況ですよね。でも、あのガザの中で起業を支援するといっても、物資も資金も限られている。大変なのではないですか?具体的に、どのように支援をされているのでしょうか?


上川路:そうですね。物資は限られている、資金は限られている、出入りも十分にできないという状況です。しかし、人を育てていこうという教育熱が非常に高い。40キロ×10キロの狭いエリアではあるのですが、その中に12校も大学があって。識字率も90%を超え、おそらく日本人よりもよほど英語を喋れる人は多くて。

「そういった人たちが何かできないのかな」という思いを常に抱えていた中、欧米のGoogleやイスラム系NGOイスラミック・リリーフが、何とかガザの未来を作っていこうという動きをしていて。そういうものと連携してできることがあるんじゃないかと。それで、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の協力を得て、2016年8月、ガザで初めてのビジネスコンテストを開催しました。

ビジコンから生まれた技術を日本企業とマッチング

:昨年のビジネスコンテストでは、どんなアイデアが見られましたか?


上川路:昨年優勝したマジッドは、足らない建築用資材を作ろうと、石炭火力発電所、あるいは陶器を作る焼き場から生み出される灰を使ってコンクリートブロック「Green Cake」を作る取り組みについてプレゼンテーションしました。23歳の彼女は、大学で土木工学を専攻しています。

今年の3月に昨年のビジネスコンテストでの優勝者、準優勝者を日本に招待。マジッドの作った軽量で安くて強い「Green Cake」を日本に持って来ると、土建屋さんの中では非常に評判がよくて。具体的には、日本の大手ゼネコン前田建設工業の子会社「株式会社JM」の大竹弘孝社長に相談させていただくと、「女性が自分の能力、勉強したことを生かして国づくりをしていこう、しかもそれが土木でということであれば、自分たちがサポートしない理由がない」とおっしゃっていただいて。

マジッドも技術的なアドバイスを非常に喜びました。「こういう組成でやったら、こういう温度でやったら、より品質のいいブロックができる」というアドバイスをいただきながら、今品質を高めていっているところです。

:もう彼女の会社は立ち上がっているのですか?


上川路:彼女の会社は去年立ち上がりました。自分が想像するよりも、彼女ははるかに羽ばたいてくれていて。今はボストンの大学で「イスラエルとパレスチナの学生同士が企業を通じて社会課題を解決する」という3カ月間のコース(短期MBAプログラム)に入って、彼女の作ったブロックがどうすればよりよい形で社会に活用されていくのかということを勉強しています。

デザインに関しても、「デザインのノーベル賞」とも言われる「Index Award 2017」のファイナリストにノミネートされました。残念ながら受賞とはなりませんでしたが、そういった形で世間でも評価する人、応援する人が出てきていて。今、ガザの中で彼女はソーシャルアイコンのような存在になっています。こういう人たちを1人でも増やしていくことが、ガザの人たちを勇気づけられる、大事なことなのかなと思っています。

:昨年のビジネスコンテストで、ほかにはどんなアイデアがありましたか?


上川路:準優勝したアマルは、昇降用のキャリアーについてプレゼンテーションを行いました。ガザでは、手足をなくした人、あるいはおじいちゃんおばあちゃん、女性など、重いものを運べない人も多くいます。それにひきかえ、電力不足も深刻で、エレベーターが使えず、重い荷物の移送や車いすを利用する人の移動は階段を使用しなければなりません。

そういったものを持ち上げるキャリアーを作りたいと提案したのがアマルでした。それは、日本の福祉機器メーカー「株式会社サンワ」の美澤麟太郎社長から設計、技術面での支援をいただけることになりました。「安全性の面からこういうデザインだと機能しないからこうしたらいいのでは」とか「我々のこのプロダクトを参考にしてみないか。ちょっと使ってみてもいいよ」という形で、今アドバイスを受けているところです。

:すごくいいですね。日本企業と、ガザで技術、アイデアを持っている人をマッチングさせるというのは、すごく価値がありますね。

上川路:日本にはまだおもしろい技術や人がたくさんあると思っていて。これを生かさない手はない。日本の企業自身も、アイデアをもらったり、熱意に打たれたりして、そこから生まれるイノベーションっていうのはあると思っています。今は技術提供でしかないところを、ガザの人たちは「パートナーシップに育てよう」という気概を持ってやろうとしています。我々もそれを狙っていくべきだろうなと思ってやっています。

「友達に協力したんだ」という感覚で

:なかなか出入りも制限されている中、その女性の方がガザを行き来するというのは大変なのではないですか?


上川路:そうですね、大変です。これは国連のサポートなしには語れません。我々が提携を組んでいるUNRWAが、その出入りの申請をしてくださっていて。UNRWAがイスラエルやヨルダンに対する働きかけを、我々が外務省さんへの働きかけをしています。

外務省でも中東を中心にそういうことを支援したい人はたくさんいらっしゃいますから、日本へのビザの取得などをサポートいただいています。一橋大学のイノベーション研究センターに所属している米倉誠一郎名誉教授・特任教授も、「身元引き受けは一橋大学がやるんだ」と支援してくださっています。力を出し合って実現しています。

:いろんな形で支援を続けてこられたと思うのですが、先日までクラウドファンディングにも挑戦されていましたよね。なぜ今資金集めが必要なのでしょうか?


上川路:そうですね。我々は、春と夏の、だいたい1年に2回イベントをやっています。夏には現地でビジネスコンテストを。「我々がやっている活動を幅広く知ってもらいたい」「自分たちのプロジェクトだという意思でサポートしてくれる人を1人でも増やしたい」という2つの目的を持っています。

また、3月には、世界各地の女性企業家とビジネスコンテストの受賞者を日本に招待して、サポートプログラム・日本ツアーを行っています。ただ、春と夏、いずれも寄付で賄っており、起業支援をしている団体自体が持続可能じゃないという笑えない状態です。持続可能的にやりたいことを続けていく仕組みを、今作っているところです。

:集まったおカネは何に使われるのでしょうか?


上川路:今回は150万円を目標にクラウドファンディングを行いました。リターンや手数料の支払いを差し引くと、だいたい110万円ほど残ることになります。現地でのビジネスコンテスト開催費用が40万円ほどかかるほか、優勝チームに賞金として50万円渡すことになっています。残りの20万円が運営で使う費用なのですが、実際には20万円どころではない費用がかかっているのが現状です。

:この取り組みによって期待していることは何ですか?

上川路:ガザで今やっているプロジェクトというのは、仕組みとしては非常にシンプルなものです。「ビジネスコンテストをやって、経営支援をして、企業とのマッチングをして、投資家を呼び込んで自立できるようにする」。この仕組み自体は、正直ガザ以外でも出来る取り組みだと思っています。

実際に今年の春のイベントに呼んだインドネシア、タンザニア、ミャンマーの女性起業家からは「うちでもやらないか」という申し出をいただいていて。今年の11月にはミャンマーのヤンゴンでもビジネスコンテストをやってこようかなと思っています。「何かおもしろいことをやりたいと言っている人たちを自分たちがサポートすることでいい未来を開けるんじゃないか」というのを一緒に追求してもらいたい。「国際協力」という言葉は大げさで好きじゃないので、「友達に協力したんだ」という感覚でみんながやれるようになると、おもしろい社会が実現するんじゃないかなと思います。

「次世代を引っ張っていくリーダーを作りたい」

:僕もガザに行った時に、現地のパレスチナのアラブ人の方が胸に手を当てながら、「日本は原爆や敗戦から立ち直った経済力をこうした世界の不均衡のために役立てている姿に、大変敬意を持っているんです」と頭を下げてくれたんです。それが本当に嬉しかったのと、それを積み重ねてきた草の根的な平和的活動が本当に大事だなと感じていて。実際にこういうビジネスのマッチングや支援をされていて、先方の皆さんから受けた言葉で印象的なものはありますか?

上川路:マジッドとアマルを日本にお招きした際に印象的だったことがあります。彼女たちが、初めてのスターバックスで、初めてのマクドナルドで、初めての表参道でクレープを頰張って、普通の女の子みたいにキャッキャするところがあって。でも、ふと、我に返ったような表情で、「我々のガザで置かれた状況と比べると違う惑星みたい。ここに辿り着くためにはどうしたらいいのか絶望すら覚える。

でも大きくなってちゃんと帰ってきて恩返しはしようと思っている」と。彼女たちはとにかく明るくて前向きで、とにかく未来を見ていて。「これから先、自分たちがあなたたちに恩を返していくから」という姿勢でやっているということに、僕らは力をもらっています。

:嬉しいですよね。でも僕らの日常の中の「普通」が、彼らの日常の中の「普通」が全く違うものだということは、触れてみないとわからないですよね。

上川路:そうですね。

彼女たちの夢

:彼女たちの夢はどんなことですか?


上川路:彼女たちの夢は、「周りの人たちと一緒に身近な生活をより良くしていきたい。みんなが尊厳を持って働けるようになりたい」という身近なところにいきます。

ここを一緒に考えていかないといけないと思っていて。ガザの中で、次世代を引っ張っていくリーダーを作りたい。その人たちはこれから10年も20年も30年も生きていくわけなので、「2050年のガザをいったいどうしていきたいのか。これからどういう国を作っていこうと思っていて、あなたの組織はどういう役割を果たして、自分たちは何をしていきたいのか」ということを彼女たちと議論をする。

その中で彼女たちが次第に心を開いてくれて、「実はこういうことを考えていたんだよね」とか、「私はコンクリートブロックを使って日本と同じようなビルをガザにも建ててみたい」と。そういう話を聞いた時に、「彼女たちが見せてくれる未来を一緒に見てみたいな」と感じました。一緒に夢を話すというのは、勇気づけられますよね。

「Japan Gaza Innovation Challenge(ガザビジ)」については「GARDEN」当該記事へ

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