スタンドを埋め尽くした岐阜と名古屋のサポーター。大量8ゴールが入る攻撃的なゲームにファンもサッカーの醍醐味を堪能できたはず。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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「多いな」
「いっぱいいるね」
 
 それぞれ、岐阜・大木武監督と名古屋・風間八宏監督が試合後、記者会見場に入った際、報道陣の数を見てこぼした言葉。両者が驚くほどの人が集まったのにはもちろん理由がある。
 
 今季2度目の名岐ダービーということで試合前から両軍が様々な方面から盛り上げた成果もあり、前売り券は完売した。加えて、今季両チームに就任した新監督同士が作り上げてきた特徴あるサッカーのぶつかり合いというところも、この試合への期待値に拍車をかけた要因のひとつであったことは間違いない。話題に事欠かない、というのが適切だろう。
 
 そして、もうひとつ。両者には切っても切れない縁がある。大木武と風間八宏のふたりは、静岡は清水地区で生まれ育った同級生であり、清水市立第一中学校サッカー部では大木主将、風間副主将という間柄だった。なかなか強烈な陣容である。
 
 その後、互いに異なる道を進んで指導者となったが、そこで志向するサッカーには通じるものがあった。“点を多く獲る”ことにフォーカスし、ボール(主導権)を握って相手を崩していく攻撃的なスタイルがそれである。もちろんディテールは異なるが、根本にある哲学には近しいものがあり、互いにそれぞれのサッカーに好意的な見方をしている。
 
 そして、1万7027人というFC岐阜史上最多の観客数が集まったなか、“点を多く獲る”というテーマを掲げる両者らしく、「2-6」という大量8ゴールが生まれる展開で、名古屋がこの一戦を制した。この結果も、互いに信条とするアグレッシブなサッカーを展開したゆえの産物である。
 
「たくさんのお客さんが詰めかけたなか、岐阜も素晴らしいチームで。ほとんど無駄にボールが出ることもなく、すごく面白いゲームができたんじゃないかなと思います。すごく良いこと。試合はうちのほうが決定機を(多く)決めたというだけだと思いますけど、そういう意味では素晴らしい試合がひとつできた」
 
 風間監督はこう試合を振り返って対戦相手の岐阜も賞賛したが、名指しで相手チームに賛辞の言葉を送るのはなかなか珍しいことだ。サッカーの根源にある“ボールを持つ歓び”に立脚したチーム作りをし、最も観衆を魅了するゴールの瞬間を生み出そうと奔走する旧友のその姿勢が、純粋に響いたのだろう。
 
 対する大木監督はこう言う。
「グランパスさんは強かったですね。勝ちに行ったんですけど、ある意味返り討ちにされたようなところはあります。ただ、選手が全力で戦ったことは、私は分かっています。そこは誇りに思いたいと思います。しかし、観に来てくれたお客さんには……。これだけ来てくれたのに6点取られて負けたと。少なからず喜んで帰るわけではないと思います。そこに関しては残念な気持ちです。次回やる時には逆であるような、それくらいの気持ちでやりたい」
 
 最後を仕留める力が勝敗を大きく分けたのは言うまでもない。技術力の高い、とりわけフィニッシュの精度の高い選手を呼べる資金力という部分で、現状の名古屋と岐阜に差はあるにせよ、それを抜きにしても自分たちの志向するサッカーで相手を凌駕できなかったことに、悔しさを噛み締めていた大木監督の姿も印象的であった。
 
 互いに主導権を握り、相手よりも多くゴールを生み出そうとし、決して“引いて守る”ような姿勢は出さない。名古屋がさらに突き放そうと攻撃の圧力を高めれば、岐阜も3点差を付けられても、なお本気で追いつくべく選手交代を含め、次々に攻撃的な手を打っていった。ちなみに、両チームとも3枚の交代枠を使い切り、途中から入った6人の選手のうち5人がFWだ。なんとも、“らしい”というべきか。
 
 そして、8つのゴールは大きな守備の破綻によるものではなく、双方の質の高い攻撃が生み出したということにも触れておきたい。
 
「面白かっただろ?」
 風間監督はこう筆者に言い残してスタジアムを後にしたが、もちろん岐阜のサッカーを含めて、この日の試合内容を指した言葉であることは間違いない。両者が持つ攻撃の哲学が、高次元でシンクロした一戦は、サッカーの持つ魅力を存分に示してくれたと言えるだろう。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)