ファッションブランドの『MIU MIU』が女性監督に、"21世紀の女性らしさを鋭い視点で称える作品"を制作してほしいという依頼から始まったショートフィルムプロジェクト「MIU MIU WOMEN'S TALE (女性たちの物語)」で、最新作を手掛けた監督のセリア・ロールソン・ホールさん。

現代社会の問題への核心を突いたメッセージをミュージカル仕立てで描きいた、第14弾となる『(THE (歴史の終焉の幻想)』は、今年のヴェネチア国際映画祭で初公開され賞賛を浴びることに。

コスモポリタンでは、そんな今注目すべき女性監督を直撃! ダンサー、振付師でもあるセリアさんの創造力に迫ってみました。

『(THE (歴史の終焉の幻想)』

「放射性物質から身を護るために最適な場所は、地下シェルターです」。1950年代のテレビから聞こえてくるCMナレーターがこう語る。地下約8mの豪邸にはジャグジー2台、プール、ミニゴルフコースが備えられ、玄関の扉を開くとタップダンスを踊る双子が陽気に出迎えてくれる。家の中には絶品のクロワッサンを焼くバレリーナ、現代版の人魚がいて、まさに絵にかいたような愉快な家庭。しかし、それは核攻撃の警報サイレンが鳴り始めるまでのことだった…。

―この映画の美しい世界観は各国のジャーナリストからも賞賛されていました。セリアさんのアーティストとしてのインスピレーション源は?

絵画を眺めているような感覚を、私の映画でも味わってほしい

よくギャラリーや美術館に出かけるのですが、絵画から着想を得ることが多いです。何千もの貴重な作品を展示する美術館の中を歩いていると包まれる幸福感、そして気に入った絵を眺めながら、その絵の中の世界に入り込んでしまう感覚…。そんな気持ちを私の映画でも味わってもらえるよう、心がけています。

それに現代社会はすべてのペースが速いですが、座って考え事をしたり絵を描く時間も大切にしています。リラックスできるし、脳への刺激にもなるので!

―『(THE (歴史の終焉の幻想)』の制作でこだわっていたことは?

ブランド側は「あなたが好きな映画を自由に作っていい」と、私を信用してくれました。

まずMIU MIUの最新のコレクションを目にしたとき、その色や素材から、登場人物や舞台のアイデアがどんどん浮かんできて。舞台に選んだのは、実際に冷戦時代に大金持ちが建てた地下にある核シェルター。

そして登場人物は、例えば花が裾に散りばめられたワンピースを見たとき、畑に座ってお花に囲まれている姿を思いついてガーデニングをする女の子を登場させたり、ファーコートを見たときに、鳥が羽を動かしているように見える動きをする女の子を登場させました。

また、この映画での表現方法はダンス。登場人物もみんなプロのパフォーマーです。タップダンス、バレエ、シンクロナイズドスイマー、モダンダンス…13分間で様々なダンスを取り入れています。

―ファッション性の高いこの映画で、なぜ核問題をテーマに取り上げたのですか?

この映画は2016年のアメリカ大統領選挙の後に、私が感じていたことが反映されています。

正直、ドナルド・トランプ大統領の政策においてアメリカの未来が心配なのです。そしてアメリカのみならず、現在進行中の北朝鮮問題では他国までが恐怖に陥っている。

そして過去からそうだったかもしれませんが、今のアメリカではさらに女性蔑視や人種差別が増しているように感じます。こういった政治状況のなか何をするべきかを熟考した結果、アーティストとして美しい表現で共感や理解を広めたいと思ったんです。

―監督ご自身の経験で、男女の不平等を感じることはありますか?

人口の約半分が女性だからこそ、女性の感覚で作る映画を大切にするべき

正直なところ毎日です。映画産業は男性優位の社会なので。男性と同じリスペクトや機会が得れていないと感じるし、男性だと信じられるけど、女性だと信じてくれないことも多い。今私が積み上げたものも、きっと私が男性だった場合の半分の結果なのではと感じることも多々あります。そして映画業界に長くいるほど、それは思い込みではなく真実だと感じています。

でも、人口の約半分が女性だからこそ、女性の感覚で作る映画を大切にするべきだと思っています!

―そのような現代社会で、女性はどう変わるべきだと思いますか?

声をあげて発言しないと、だれも気づかない

一番大切なのは、きちんと発言することだと思います。声をあげて自分の意見を言わないと、せっかく持っている才能も素晴らしい考えも、眠っているままで発揮できずに終わってしまいます。多くの女性が人生でしたいことを追って、大きい夢があっても「私になんて無理」と思わないでほしい。シャイにならずに周囲の人に自分の野望や意見を話したり、気をしっかり持つことが大切だと思います。

そして、平等じゃないと感じるときも率直に声を上げること。声を発さないと、誰も気づきません。実際、男女の不平等について今少しずつ変化は生じていると感じています。でも、全体が変わるにはまだまだ時間がかかる。だからこそ、この話題を常に表に出して、話し続けることが大切なんです。

女性は身体的にも精神的にも、男性が感じることのできない特有の不安と共に生きています。だからこそ、女性が自分の人生を思いっきり楽しむことができる、そんなきっかけになれるようなことをしていければと願っています。

―セリアさんは、現在は女性映画監督のミア・リドフスキーさんと交際されています。彼女との関係は、作品にも影響していますか?

もともと私はストレートで、結婚もしていました。信仰深い家庭で育ったこともあり、当時はパートナーは男性という以外の選択肢はなかったんです。でもNYに移ってダンス、振付、映画監督など幅広い仕事をしていくうちに、奥底にある本当の自分自身に向き合うことが多くなった。そんな30代前半の頃、自分の中に潜んでいたアイデンティティーに気が付きました。そして2年半ほど前にミアとデートをし始めて以来、お互い良い刺激を受け続けています。

パートナーとして、映画監督同士として、お互い創作過程でアイデアを語り合って、アーティスティックな部分や作品の方向性に影響を与えあってきました。私の作品の多くが、女性が中心で、女性を勇気づける映画です。そしてそんな作品を作るうえで、彼女は私を大胆にしてくれ、そばでいつも勇気づけてくれています!

―最後に、今後の目標を教えてください!

今、フロリダで次の撮影を今しているところです。気候変動の影響でフロリダ州は遠くない将来に洪水の増加などがおこると予想されています。そこで被害にあったとき、予算がなくて脱出できない人はどうすればいいのか? それらの疑問を、ダンスを取り入れて映画にしているところです!

多様なアートを自分自身の中に取り入れ、独創的な世界観を表現するセリアさん。幻想世界と現実世界が混ざりあっている彼女の作品だからこそ、強いメッセージが心に響くのかもしれません。