17/18シーズンに入り、マインツですでにリーグ戦3ゴールを記録している武藤嘉紀【写真:Getty Images】

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1ヶ月前に味わったかつてない屈辱を乗り越えて

 今月6日にニュージーランド戦、10日にハイチ戦と親善試合2連戦に挑む日本代表。愛知県内でトレーニングを開始したメンバーの中に、ひときわ強い思いを秘めている男がいた。武藤嘉紀である。1ヶ月前の日本代表戦ではベンチ外も経験した25歳は、大ケガを乗り越え、マインツでもがき、飛躍的な成長を遂げてきた。(取材・文:元川悦子)

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 2018年ロシアW杯本大会への本格的なサバイバルのスタートとなる、10月のニュージーランド戦(6日=トヨタ)・ハイチ戦(10日=横浜)に向け、1日から愛知県内で強化合宿に入っている日本代表。

 2日目の10月2日には川島永嗣(メス)や吉田麻也(サウサンプトン)ら欧州組5人と槙野智章、遠藤航の浦和レッズコンビのを合わせた7人が合流。16人でトレーニングを行った。

 秋本番を感じさせる冷たい雨の降りしきる中、選手たちは2グループに分かれて調整を実施。この日合流組はランニングのみで上がったが、初日からいる9人はやや負荷の高いメニューに取りくんだ。

 最後のサッカーバレーの途中に突如として停電が起き、練習を途中で切り上げるアクシデントに見舞われたが、植田直通(鹿島)は「だいたいあそこで終わりだったと思うので、ちょうどよかったんじゃないですか」と涼しい顔。選手たちは特に気にならなかったようだ。

 この日合流した欧州組の1人である武藤嘉紀(マインツ)は9月30日のヴォルフスブルク戦で豪快なヘディング弾を決め、気分よく代表に加わった。今季すでにドイツ・ブンデスリーガで3得点を挙げ、昨季までの指揮官、マルティン・シュミット監督が就任したばかりのヴォルフスブルク相手に傑出した得点能力を見せつけたことは、大きな自信につながったはず。「公式戦で点を取れてるってことは自分自身のモチベーションとしても非常に重要ですし、コンディションもいいので、とにかく楽しみです」と本人も笑顔をのぞかせた。

 とはいえ、1ヶ月前の最終予選終盤2連戦ではかつてないほどの屈辱を味わった。8月31日のオーストラリア戦(埼玉)ではまさかのベンチ外となり、9月5日のサウジアラビア戦(ジェッダ)も出番なしに終わったからだ。前回2連戦に呼ばれたFW陣で出場チャンスがなかったのは武藤だけ。これには納得できない部分が少なくなかったはずだ。

「前回のベンチ外に関するハリル監督からの説明? ないですね(苦笑)。監督が何かしら足りないと思っているからこそ、そういう判断になったんだと思います。あの悔しさっていうのは過去に味わったことのない悔しさだった。いろいろと悔しさは経験してきましたけど、また何かちょっと違う、言葉にしづらい悔しさでしたね」と彼自身も苦渋の表情を浮かべる。

「パターンがないのが自分の良さ」

 どん底から這い上がるためにはネガティブになっている暇などない。がむしゃらに、積極的にやるということだけを考えて、武藤はこの1ヶ月間プレーしてきた。その明確な答えが9月の3得点だ。9日のレバークーゼン戦で挙げた今季リーグ初得点は前半終了間際、左サイドバックのダニエル・ブロジンスキが上げたクロスをファーサイドで待ち構えて左足で合わせるスーパーゴールだった。

 20日のホッフェンハイム戦での今季2点目は前半16分、華麗なドリブルで複数の相手DFをかわして左足を振り抜く一撃だった。そして前述の通り、ヴォルフスブルク戦のゴールは打点の高いヘディングシュート。実に多彩なパターンで得点を重ねているのがよく分かる。

「(決まった)パターンがないのが自分の良さでもあると思うんで。マインツ1、2年目はケガをして体の調子が上がり切らず、難しい時もありましたけど、今、どこからでも点をとれるFWになりつつあるし、そういう自信もある」と本人も語気を強めたが、日本代表はさまざまな形から点の取れるFWを喉から手が出るほど欲している。武藤がその枠に該当する選手の1人になろうとしているのは紛れもない事実。本人の言う「シーズン15得点」も夢ではない。

 もちろんゴールだけではない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のデュエルを重視するサッカーに置いて、前線のターゲットマンは非常に重要な存在だ。昨年11月のロシアW杯最終予選・サウジアラビア戦(埼玉)以降、大迫勇也(ケルン)が不動の1トップに君臨するようになったのは、前でボールを収めて時間を作る能力を高く買われているからと言っても過言ではない。

 サイドアタッカーとトップの両方をこなせる武藤はそういうタイプではないと見られてきたが、今季マインツで1トップに入ることで、体を張ったポストプレーも目覚ましいレベルアップを遂げている。

2度の大ケガ乗り越え…1トップとして飛躍的に成長

 昨年の冬からパーソナルトレーナーをつけ、ドイツで二人三脚で肉体改造に取り組んだ成果もあって、屈強なドイツ人DFに囲まれても決して倒れることはなくなった。そのタフさと逞しさは今や大迫に匹敵するものがある。

 ジョン・コルドバや新加入のクラウディオ・ピサロのサポートを得られるケルンの大迫以上に、マインツの武藤は攻撃陣のサポートが満足にない状態でボールを収める仕事をこなしている。そこは特筆すべき点。かつて岡崎慎司(レスター)もマインツで同じ状況に置かれて飛躍的成長を遂げたが、武藤も絶対的1トップとして他を圧倒しつつあるのだ。

 そんな今だからこそ、ハリルホジッチ監督は彼を代表の最前線でトライすべきではないか。

「自分はそんなに体が大きいわけでもないし、収めるのがすごくうまいわけでもないですけど、代表の場でもそれができるってところを見せないといけない。すべてにおいて柔軟な対応をしていきたい」と武藤も意欲満々に語っている。

 少し前の彼は優等生的なイメージが強かったが、2度の大ケガに見舞われ、ドイツや日本代表で逆境に直面する中で、いい意味でのエゴを身に着けた。点取り屋にはそういったメンタリティが多少なりとも必要だ。そういう意味でも、武藤抜擢への期待は高まってくる。

 2010年南アフリカW杯最終予選突破を決めた2009年6月のウズベキスタン戦(タシケント)でベンチ外の屈辱を味わった香川真司(ドルトムント)が翌年には代表攻撃陣の看板選手に上り詰めたように、武藤もオーストラリア戦ベンチ外からの逆転は可能なはず。

「そのチャンスは誰にも等しくあると思うんで、あとは掴むか掴まないか。ホントに持ってるか持ってないかってところだと思う」と彼自身も勝負をかけていくつもりだ。長年の夢であるロシアW杯の大舞台に立つべく、この2連戦では見る者をくぎ付けにするパフォーマンスを見せたいところだ。

(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子