役所で働くお笑い芸人、半田あかりに見る「官民の越境」

写真拡大 (全2枚)

「役所で公務員として、普通の実務までしている”芸人さん”は、この人しかいないと思うんですよ」

鹿児島県鹿屋市の前副市長、福井逸人の言葉である。

この人とは、お笑い芸人の半田あかりのことだ。半田は松竹芸能に所属しながら、2016年4月に鹿児島県鹿屋市役所農林水産課の職員(地域おこし協力隊)として働き始め、役所の実務までこなす。当時副市長であった福井が、鹿屋市の名産品である豚やカンパチなどをPRしていくために、知り合いの松竹芸能関係者に依頼をしたことがきっかけだった。

都会から田舎、収入は3分の1に

半田はその仕事の話を、所属していた松竹芸能から聞いた。大阪生まれで都会で育ち、鹿屋の存在は知らなかったうえに、俗に「田舎」と呼ばれる場所で暮らしたこともなかった。逆にその環境に面白味を感じてあえて飛び込んだが、収入は3分の1となった。

松竹芸能にはスカウトをされて所属した。当時の相方と路上ライブを始めて3カ月も経たないタイミングだった。もともとは事務所に入るつもりはなかったが、『松竹芸能』という大手芸能事務所であったため所属を決意した。仕事は順調で、コンビで出演していたレギュラー番組は5本ほどあったが、相方が活動を辞めてしまう。その後、一人で活動を始めてから2〜3年が経った頃に鹿屋の仕事の話が舞い込んだ。

鹿屋市役所での初めての仕事は「農林水産課」ということもあり、豚、カンパチ、薔薇など鹿屋の特産品をPRが主だった。テレビ・ラジオ出演、イベントや式典の司会をはじめ、レポート作成、地産商品の創出や助言にも関わった。

お笑い芸人であることを生かして地元のテレビに出演する際は、自ら仕事が来るのを待つだけではなかった。役所を回ってテレビ局が関心を持ちそうな話題を発掘して提案したり、テレビ局スタッフと一緒に脚本の制作まですることもあった。話題性がありながらも、テレビ局に負担が小さい企画を提案することで出演が増え、それが結果的に特産品をPRに繋がった。

朝4時からカンパチをさばき、出勤

何か面白いことができないか、と考え試みたのが「カンパチの解体ショー」だ。自ら出刃包丁を買って、近くの市場で修行させてもらった。朝4時から8時までカンパチをさばく練習をして、そのまま市役所に向かい、通常業務をこなす生活を続けた。



しかし、鹿屋に来て全てが順風満帆というわけではなく、農家など住民とぶつかることもあった。しがらみが強い地方では、合理的だからといって物事が進むものではない。むしろ、地域で力のある人が言ったことに従うことこそが、合理的であったりもするくらいだ。

しかし、ここで半田は持ち前のコミュニケーション能力を発揮。伝え方を工夫しながら本音で話をすることで住民から信頼され、愛される存在となっていった。今では『半田あかりさんを囲む会』まで開かれるほど、多くの地域住民が集う場も生まれた。

大阪はハードな内容の方が笑いに繋がるが、「鹿屋では分かりやすくて皆が共有できるものが好まれる」と半田。この分析はまさにプロらしい発言だが、今でも日々、新しいことがあり、勉強の連続だという。

官民における”越境”の可能性

既に鹿屋市で働き始めて1年半が経つ。仕事で意識していることを聞くと、「とにかく鹿屋の人たち皆に笑ってほしい」という答えが返ってきた。

近頃、”越境”という言葉がちらほらと聞こえるようになって来た。この半田の事例は「現役のお笑い芸人」×「地方自治体職員」という、今までになかった”越境”とを象徴するものではないだろうか。

この想像を超えた事例を鑑みると、我々が今まで思いもよらなかったような”越境”の可能性が、あちこちに転がっているように感じる。この事例もまさにそうだが、特に私は、日本の官民における”越境”を期待したいと願うのである。