エマ・ワトソンが主演の『ザ・サークル』は11月10日から全国公開。ネットとプライバシーとの関係に一石を投じる作品だ(東洋経済オンライン読者独占試写会への応募はこちら) © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

「インスタ映え」という言葉を耳にする機会も多い昨今。世間からの「いいね!」を得るために、自らの生活を超小型カメラで24時間映し出し、すべてを世間にさらけ出すとしたら――。

エマ・ワトソン×トム・ハンクスという豪華キャストで、SNS時代の光と闇に焦点を当てた映画『ザ・サークル』が11月10日より全国公開される。

すべての行動をSNSで見られているとしたら


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本作の舞台となるのは、世界ナンバーワンのシェアを誇る超巨大SNS企業「サークル」。同社が手掛けるのは、実名で登録すると、ワンアカウントでやりたいことが何でもできる、という総合ネットサービス。

このサービスでは会員同士がオープンにつながり、互いの体験をシェアすることを推奨している。その創始者であり、カリスマ経営者として名を馳せるベイリー(トム・ハンクス)が掲げる理想は、全人類が見聞きした美しい景色や、刺激的な体験を、SNSを通じてみんなで「シェア」すること。個人の情報すべてを何ひとつ隠すことなくオープンにする完全な社会だ。

自分の趣味から、銀行口座、マイナンバーに至るまで、個人の情報はすべてオンラインで処理されるようになっている。また、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどで、個人の情報がどんどんとオープンになってきている。どこかに旅行に行き、おいしいものを食べれば、その情報をタイムラインに「シェア」し、閲覧者からの「いいね!」をもらう。時には「インスタ映え」を求めて、あえて特別な場所に遊びに出掛け、「いいね!」をもらう。それによって行動範囲が広がって楽しく過ごし、かつ経済が活性化するのならば、それはそれでいいのではないか、という意見もあるだろう。

そんな「シェア」社会をもう一歩推し進めるべく、ベイリーは新サービス「シーチェンジ(See Change)」を立ち上げる。「シーチェンジ」とは、遠く離れた場所にビー玉ほどの大きさの超小型カメラを仕込み、その様子をネット上で見ることができるというシステムのことである。「サーフィンが趣味なので、出掛ける前にその日の波の様子が知りたかった」と開発の動機を語るベイリーだったが、このシステムを使って犯罪やテロを根絶し、世界を改革しようという思惑もあったようだ。

ちなみに余談だが、アメリカの人気アーティスト・ベックが、2002年に『シー・チェンジ(Sea Change)』というアルバムを発売したことがあるが、劇中では、「サークル」社内でそのベックがライブをするシーンが出てくる。そんな細かい配慮も面白い。

日本でも、カメラを通して人々を監視する社会が広がりつつある。警視庁が2002年に新宿・歌舞伎町に監視カメラを設置したのを足掛かりに、渋谷、池袋、六本木といった都内繁華街の各所に監視カメラが設置されるようになった。また、コンビニやマンションなどに防犯カメラが設置されているのは周知の事実となっている。かつてはプライバシーの侵害であると非難する声もあったが、今となっては防犯上それもやむなし、という声も増えてきているようにも思われる。そしてそれは世界的な流れにもなってきている。

ネットの監視によって犯罪や事故を防げるが…


巨大SNS企業のカリスマ経営者を演じるトム・ハンクス(左)と、主人公メイを演じるエマ・ワトソン(右) © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

本作の主人公であるサークル社の新入社員メイ(エマ・ワトソン)も、とある海難事故に見舞われるも、たまたま「シーチェンジ」を見ていた会員のおかげで九死に一生を得ることになる。そんな経験を経て、メイは「シーチェンジ」の実験モデルに抜擢される。自分の体に小さなカメラを身に着けた彼女は、24時間、トイレに行くとき以外自分の行動をすべてネットに映し出す。暮らしのすべてをさらけ出した彼女のフォロワーはうなぎ上りに増えていき、あっという間に1000万人のフォロワーを獲得。瞬く間にアイドル的な人気を誇るようになる。

とはいえ、メイも、最初はそれほどSNSにのめり込むようなタイプではなかった。しかし憧れの最先端企業「サークル」に入社した彼女は、同僚から「どうしてタイムラインに投稿しないの?」と疑問を投げられる。そして「週末をどう過ごすかは個人の自由だし、企業として“課外活動”を強いるわけではない。ただ君が体験したこと、感じたことはみんなとシェアしてほしい」と言われる。そして同僚も「それは当たり前のことだよね?」と、まったく疑いも感じていない様子。それは、よくあるSF映画のように、惑星を支配するほどの超巨大コンピュータがわれわれの行動パターンを監視する、というものではないが、それでもゾッとするほどにわれわれの身近な物語としてリアルに迫ってくる。

ネット社会となり、個人情報漏洩のニュースはしばしばニュースを騒がせている。誰もがプライバシーを守りたいと考える世の中で、「自分の情報はすべて透明化します」というメイのような、逆にさらけ出してしまう女性が現れたら、絶大なる人気を誇るようになるのもよくわかる。

しかし視聴者の欲求は「もっと見たい!」「もっと面白いものを!」と高まる一方。送り手側もその声に応えようとするべく「もっともっと過激なものを」という形にどんどんとエスカレートしていく……。

この映画の面白いところは、そんなメイを、『ハリー・ポッター』シリーズで注目を集め、今年公開の主演作『美女と野獣』も世界的なメガヒットを記録したエマ・ワトソンが演じているということ。

彼女自身、ツイッターのフォロワー数は2600万人以上を誇り、フェミニズムをはじめとした自分の信条を積極的に発信しているインフルエンサーのひとりでもある。しかも子役時代から世界的に注目を集めてきた彼女は、その行動や発言がその都度、世界を駆け巡るなど、周囲の目にさらされながら生きてきた、という意味ではメイと大いに重なる部分がある。エマ自身、「ご存じのとおり、若い頃から人目にさらされてきた人間として、公私の線引きはいつも重要だと感じてきた。この映画を通して、以前よりもずっと強く思うようになったわね」とコメントを寄せるなど、感じるところも多かったようだ。

ネットとプライバシーとの関係に一石投じる


サークル社は、ユーザーの期待に応えるために、どんどん過激なサービスを発表していく © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

ネット社会になり、他人のプライバシーへの配慮がどんどん希薄になっている。ひとたび凶悪事件が起きれば、「あいつは凶悪犯なんだから個人情報を明かしても問題ない」という大義のもとに、その犯人の名前、家族構成、国籍といった個人情報が瞬時にさらされてしまうことが多々ある。劇中でも、そんなネット社会のあり方が赤裸々に描かれ、メイも次第に恐ろしさを感じるようになっていく。

しかしこれはネット社会となった現代ゆえの寓話なのだろうか。社会学者の古市憲寿氏は、本作のために寄せたコラムの中で「少し昔の社会に、大したプライバシーなんて存在しなかった。隣家の親子関係から経済状況まで知っているなんてことは珍しくもなんともなかった。ほとんどの情報は近所に筒抜けだったのだ。いわゆるムラ社会である」と指摘している。それゆえに劇中のサークル社が実現させようとしている「体験や悩みなどはみんなでシェアしよう」というSNSの”新たなムラ社会”は、むしろ日本のほうが相性がいいのかもしれない。

一見、個人主義のようにも思えるアメリカでこのような映画が生まれたことに興味深さを感じる。ネットの利便性とプライバシーの関係性について一石を投じるこの作品が、考えるきっかけを与えてくれる。