数字は大事ですが活用法を間違えている会社は少なくありません(写真:Garsya / PIXTA)

「数値化なんて、意味がないどころか害悪じゃないか!?」

現実に起こっている事象を数値で把握し、それを分析して問題のありかと根本的な原因を探り、解決策を考えて実行したら、その結果をまた数値で把握・分析する──。このサイクルをスピーディに回しながら、超高速で問題を解決していく。

これが、いまや日本を代表する企業に成長したソフトバンクグループを創業時から率いる孫正義さん流の「数値化仕事術」です。

社長室長という最も距離が近いポジションにいた私は、孫さんからこの仕事術を徹底的にたたき込まれました。正直、最初はそうとう苦労しましたが、それを体得していくにつれ、「数値化」によって多くの問題を驚くほどの速さで解決できることを実感するようになったのです。

そうした経験から、『孫社長にたたきこまれたすごい「数値化」仕事術』など私はこれまでの著作で、たびたび数値化の大切さを説明してきました。ところが、講演会などで話をすると、決まってこんな声をよく耳にします。

「すでに社内に数値はたくさんあるし、その資料を作成するのに忙殺されている。にもかかわらず、売り上げも利益も一向に上がらない。数値化なんて、意味がないどころか害悪じゃないか!?」

おっしゃるとおり、こうした現実があることは私も認めます。

「数値化メタボ」に陥る企業

成果につながらないムダな数値化を繰り返す「数値化メタボ」に陥り、生産性や現場の士気が低下している日本企業は少なくありません。特に経営不振に苦しむ企業では、こうした傾向が強いようです。

ただしこれは、「間違った数値化」によるものです。ここでは、「数値化メタボ」に陥る企業が犯しがちな間違いのうち、代表的なものを3つほど紹介します。

計測している数字がゴールと結び付いていない

数値化は、あくまで問題解決のための手段です。数値化をするからには、解決したい問題があり、達成したいゴール(目標)があるはずです。

ところが「数値化メタボ」に陥る企業では、肝心のゴールがあいまいなまま、数字だけを集めようとします。

あなたも、「上から『とりあえず調べておけ』と言われたから」「会議で報告するのが慣例になっているから」といった理由で、データを調べたり資料を作成したりしているのではないでしょうか。

たくさんのデータを収集したり、膨大な数字を眺めたりしていると、何となく仕事をしている気になりがちです。しかし、ゴールに結び付かない数字をいくら集めたり分析したりしても、意味がありません。目標達成の役に立たない数字は、無用の長物でしかないのです。

まずはゴールを明確にし、そこから逆算して必要な数字を計測する。それをしないかぎりは、どんな数字も役に立たずに終わってしまいます。たとえ上司から「とりあえず数字を調べておけ」と指示されても、ただ言うとおりにするだけなら、そのために使う時間も労力もムダになります。

「これは何のゴール(目標)のために集める数字なのか」を上司に確認し、目指す地点を明らかにしてから、何がゴールにつながる数字なのかを自分で考え、適切な場所へ取りにいく。それをやろうとする意志を持つ人しか、数値化を問題解決に役立てることはできません。

現状に合った数値化をしているか

数字の「マンネリ化」 

大企業や歴史ある企業でよく陥りがちなのが、「数字のマンネリ化」です。

昔から数字の取り方や資料作成のフォーマットが決まっていて、時代が変わってもそれを使い続けている。そんな会社が多いからです。

すると、現状に合った数値化ができないので、当然ながら問題も解決できません。

問題解決のためには「商品ごとの数字」を見なくてはいけないのに、「毎月の営業会議では、店舗ごとの数字を報告する」というのが慣例になっているために、誰も商品ごとの数字を取りにいこうとしない。そんなことが起こりがちです。

長年、店舗ごとの数字は計測してきたので、そのための仕組みは整っています。ラクに数字が取れる仕組みがあるだけに、いつの間にか「取れる数字しか見ない」というマンネリ化が起きてしまうというのが、この手の企業が陥りやすいわなです。

しかし、店舗ごとの数字をいくら見ても改善しないなら、それは計測の仕方が現状に合っていない証拠です。その場合は、何らかの仮説を立て、別の数字を計測して、問題のありかを突き詰めるべきだということです。

マンネリ化した数字に疑問を持ち、「店舗に置いてある商品ごとの売り上げを出してみたら、何かわかるかもしれない」と考え、実際に数字を取りにいけば、「数字が悪い店舗では、利益率が高い商品Aの販売数が少ない」といった新たな事実がわかるかもしれません。

さらに掘り下げれば、「現場のアルバイトに『商品Aを積極的に販売するように』という指導が行き届いていない」といった原因も見えてくるでしょう。

そこまで来てようやく、「アルバイト店員への指導を徹底する」といった改善策が見えてきます。次のアクションに結び付かない数字をいくら眺めていても、何も改善しません。

数値化の手法や基準はずっと固定せず、その時々の状況に応じて、必要な数字を取りにいかなくてはいけないのです。

頭の中であれこれ考えるだけ…

PLAN(分析)ばかりで DO(実行)していない

ビジネスは「実行ありき」です。

どれほど綿密な計画を立てても、はっきりいえば未来のことなんて「やってみなけりゃわからない」のです。

数字の分け方や取り方も、「何が正解なのか」と机の前で頭を悩ませたところで、答えはわかりません。まずは実行して、確かな実測値を手に入れ、それを基に軌道修正しながら、正解にたどり着くしかないのです。

ソフトバンクが勝ち続けているのは、とにかく「DO」することで、数値化の精度をどんどん高めているからです。

ADSL事業に参入したときも、成功の確率がどの程度あるかなど、誰にもわかりませんでした。当時ADSL事業を手掛けていたのは、ごく小さな新興企業が数社あっただけ。ユーザー層も限定的で、「ADSLは一部のマニアが使うもの」というのが一般的な認識でした。

よって、このビジネスがそもそも市場として成り立つのかさえ、通信業界では疑問視されていたのです。

そんな不確実な状況で、いきなり100万件規模の加入者を想定して、ADSL事業に乗り込むことなど、普通の会社なら絶対にしないでしょう。計画段階で「過去の事例もないし、市場性も不透明だ」という結論になり、結局はやらずに終わってしまうはずです。

ところがソフトバンクだけは、一般の常識を覆して、計画を「DO」に移しました。

しかも100万台ものモデムを用意し、日本全国で販促キャンペーンを展開するという、とてつもない規模での実行でした。

同じ業界の人たちは、なんという無謀な挑戦だと思ったでしょう。しかしソフトバンクの強さは、「DO」の後にこそ発揮されます。

「DO」の後に精度の高い「PLAN」ができる

とにかく短期間で大々的に実行すれば、たくさんの数字を計測できます。あらゆる実測値を集計し、当初のビジネスプランとすり合わせて新たに数字を組み直して、より現実的な計画へと仕上げていくことも可能です。

つまり「DO」するからこそ、その後に精度の高い「PLAN」ができる。それをまた高速で実行するから、最短最速でゴールへ到達できる。ソフトバンクにおける「PLAN」と、実行せずに頭の中であれこれ考えるだけの机上の計画とでは、そもそもの意味がまったく異なります。


実行前に作る計画や目標は、あくまで牴消屬〞で構いません。

「販促キャンペーンを展開するのに、どの広告を使うのが効果的か」

そんなことは、いくら頭で考えてもわかりません。

だったら、たとえば、とりあえず「チラシとWeb広告とタクシー広告で展開する」と仮の計画を立て、まずは少額の予算で3つとも一気にやってみればいいのです。


そうすれば、3つの広告を比較できるし、費用対効果も計測できます。もし3つともよい数値が出なければ、ほかの広告を検討するという新たな選択肢も見えてきます。

そのうえで、本格的な予算配分を決めれば、より現実的で即効性のある「PLAN」が出来上がるはず。あとはそれを迅速に実行し、PDCAをスピーディに回していけばいいだけです。

いつまでも「P」で留まらず、できるだけ速く「D」へ移ること。これも数値化を成果につなげるための鉄則です。