モドリッチ(右)はマドリーのいわば「影のリーダー」。相手がC・ロナウド(左)でも構わず叱咤する。(C)Getty Images

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 キャプテンシーの発揮の仕方というのは、選手によって千差万別だ。例えばレアル・マドリーの主将セルヒオ・ラモスは、ハートで引っ張る典型的な熱血漢タイプ。声を荒げて落ち込みそうになっているチームメイトを盛り上げ、チームの結束を高める。
 
 その一方で、言動やプレーで周囲を引っ張るタイプもいる。いわば腕章を巻かないキャプテン。マドリーで言えば、モドリッチがその一人だ。
 
「僕ももう31歳(9月9日には32歳の誕生日を迎えた)。周囲には年寄り扱いする人間が増えている。でも、自分ではいまキャリア最高のプレーができているという自負がある。これからも年齢を重ねるごとにパフォーマンスを高めることが僕の目標だ。それが難しくても、少なくとも現在のレベルは維持したいね」
 
 昨年10月にマドリーと契約延長した際、モドリッチはこう語っていた。チームメイトによれば、モドリッチは鋭い観察眼の持ち主で、普段はいたって無口だそうだ。ロッカールームではフクロウのように静かに鋭い視線を送って、周囲で起こっているありとあらゆる出来事を観察しているという。
 
 普段はスペイン人グループとともに行動することが多く、在籍年数を重ねるごと(今シーズンで入団6年目)に存在感と影響力がアップ。そうした持ち前の観察眼によってチームメイトの特徴を完全に把握し、攻守にゲームをコントロールする一方で、ピッチ外でも自らの振る舞いによって周りの行動指針となっている。
 
 人並外れたプレービジョンや状況判断力は、そうした日々の行動によって培われた部分もあるかもしれない。チームメイトが守備をサボったりすると、一転して強面になって注意を喚起する。ガレス・ベイルやクリスチアーノ・ロナウドといったスーパースターが相手でも、まったく遠慮することはない。そうした気の強さは、小柄な身体をものともせずに激しいコンタクトプレーでボールを奪うガッツ溢れるプレーからも垣間見える。
 
 もちろん一番の特徴は、中盤の羅針盤としての役割だ。トニ・クロースほどの圧倒的なパス成功率を記録することはないが、チームが攻撃の糸口を見つけられずに苦しんでいる時に、手を上げて積極的にボールを要求し、パスやドリブルで攻撃のルートを指し示す。
 
「モドリッチにボールを渡せば、必ず解決策を導いてくれる」
 
 そんなチームメイトからの絶大な信頼が、モドリッチのプレーを見ていると伝わってくる。
 
 その熱い魂は常にチームを盛り上げる。今シーズンで言えば例えばレバンテ戦(リーガ・エスパニョーラ3節)のようにベンチメンバーから外れた試合でも、ピッチのすぐ隣から熱い指示を送り続けることもある。本来であれば貴賓席で観戦するのが決まりだが、その日のモドリッチはチームメイトのそばでともに戦っていた。
 
 第4審判から警告を受けて退去を命じられた後も、ロッカールームへの通路のスペースに隠れて声援を送り続けた。
 
 日頃は寡黙でクールだが、納得できないことがあれば黙っていられない真っすぐな面を持ち合わせる。昨年のクラブワールドカップでビデオ判定が導入された際に、真っ先に異を唱えたのもモドリッチだった。
 
 ロッカールームでも、そしてフロント幹部に対しても、意見を求められれば率直な意見をぶつける。そうしたモドリッチの言葉だからこそ周囲は集中して耳を傾け、フロレンティーノ・ペレス会長からも一目置かれる存在となったのだ。2015年夏のマテオ・コバチッチの獲得も、「僕の理想の後継者だ」というクロアチア代表の先輩からの進言を受けて実現したものだ。
 
 2013-14シーズンのチャンピオンズ・リーグ決勝では、CKからロスタイムのS・ラモスの劇的な同点弾をアシストするなどクラブ悲願のデシマ(10回目の欧州制覇)達成に大きく貢献。昨シーズンのファイナルでも、3点目をアシストした。タッチランを割って外に出そうなボールを懸命に追いつくや間髪入れずに走り込んできたC・ロナウドに絶妙なマイナスのクロスを送り込むという、モドリッチの長所が凝縮されたプレーだった。
 
 モドリッチは言動でもプレーでも引っ張れる貫禄あるリーダーとして、今やマドリーにとってピッチ内外で絶対不可欠な存在になっているのだ。
 
文:エレオノラ・ジオビオ(エル・パイス紙/レアル・マドリー番記者)
翻訳:下村正幸
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