KDDIが入居するガーデンエアタワー(「Wikipedia」より)

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 406兆2348億円――。これは、財務省が公表した2016年度の企業の内部留保額だ。企業が得た利益から株主への配当などを差し引いた利益剰余金(金融、保険業を除く)は、前年度より28兆円増え過去最高を更新した。企業は、ひたすらため込んでいるのだ。第2次安倍政権が発足した12年度以降、内部留保は124兆円積み上がった。

 膨大な内部留保を背景に、事業会社がスタートアップ企業に投資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が増え続けている。

 CVC投資は11年頃から目立ち始めた。口火を切ったのは通信会社だ。NTTドコモはNTTドコモ・ベンチャーズ、KDDIはKDDIオープンイノベーションファンドを立ち上げた。

 他方、ソフトバンクグループは別格だ。今年5月、サウジアラビアなどと共同で10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立した。

●KDDIがIoT通信ベンチャーを破格の200億円で買収

 KDDIは今年8月、設立から3年に満たないベンチャー企業を200億円で買収した。KDDIが傘下に入れたソラコムは、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT向け通信サービスのベンチャーだ。国内のベンチャーを対象としたM&A(合併・買収)では、過去に例がない高値となった。

 ソラコムを創業した玉川憲氏は1976年、大阪府生まれ。東京大学大学院工学研究科博士課程修了。米国カーネギー・メロン大学MBA(経営学修士号)、同大学院MSE(ソフトウエアエンジニア修士号)を取得。IBM東京基礎研究所を経て2010年、アマゾン データサービス ジャパンに入社。アマゾンのウェブサービス、AWSの立ち上げを主導してエバンジェリストを務め、AWSの顔となった。エバンジェリストとは、主に技術的な話題を社内外にわかりやすく説明する職種をいう。

 玉川氏はアマゾンを退社後、14年11月にIoTのプラットフォームを構築するため、ソラコムを設立。15年9月にサービスを開始した。中小企業を中心に7000社の顧客を持つ。

 このIoT通信ベンチャーには、名だたる企業が出資した。投資会社のスパークス・グループが運営する未来創生ファンド(スパークスのほかトヨタ自動車、三井住友銀行が出資)をはじめ、三井物産、国内外の投資ファンドが顔を揃えた。

 ベンチャー企業は新規上場して、IPO(株式新規公開)の際にファンドなどの出資者は資金を回収するのが常道とされてきたが、玉川氏はソラコムを身売りすることを選択した。KDDIに超高値で譲渡することで、出資者はハイリターンを手にした。

 KDDIに買収された後も、社名、社長、ブランド名はそのまま残した。玉川氏ら創業メンバーは、株式を持ち続ける。大手企業に属さない独立系では資金的な制約があるため、グローバル企業に飛躍するのは難しい。KDDIの傘下に入ることで独立性は失うが、グローバルなIoT企業になるという野望を追い続けることはできる。

 KDDIは、16年度からの3年間で5000億円規模のM&Aの投資枠を設定している。狙いはIoT分野だ。今年2月、クラウドサービス開発のベンチャーであるアイレットを買収した(買収額は非公開)。ソラコム買収資金も5000億円の投資枠から出ている。

 これまでCVC投資は、IPOが資金回収の場だった。NTTドコモも人工知能(AI)やIoTの分野を中心に、本業である携帯電話やIT(情報技術)サービスとの相乗効果が見込めるベンチャーに出資してきた。投資額は1社につき1億〜2億円程度だ。リスクを分散するためには、この程度の出資額が、いわば常識だった。

 それだけに、KDDIによる200億円かけた買収はケタ外れといえる。その分、リスクは高くなるが、株式市場はKDDIのベンチャー投資を評価した。7月下旬まで、NTTドコモとKDDIの株価は格安スマホの台頭で下落していたが、KDDIの株価はソラコムの買収発表を機に底を打った。

 CVC投資の巧拙が株価に反映する時代になったといえる。
(文=編集部)