校長主導でPTAを変える。義務や強制がないPTCAとは?(写真:学校提供)

うちの学校には世間一般でいうPTAがありません。代わりに、義務や強制が一切なく、会費すらもない、保護者と学校と地域の組織(PTCA)があります。活動はすべてやりたい人がやるボランティア方式でまわっています」

あるとき筆者は、こんな内容のツイートを目にしました。日本のPTAがみんなこうなったらいいのですが、残念ながら現実にはめったに聞かない話です。本当なのか? もしや外国の話?

半信半疑で尋ねたところ、外国ではなく、愛知県豊田市にある公立の学校とわかりました。聞けば2014年に新設された小学校と、2016年に新設された中学校で行われている取り組みだそう。なおPTCAの「C」は、地域(コミュニティの頭文字:C)を表します。

立役者はどうやら、ある校長先生のようです。さっそく学校に連絡を入れ、取材をお願いしました。

「浄水中PTCA」はこうやって運営されている


愛知県豊田市立浄水中学校校長・片桐常夫先生。新設校である浄水北小(2014年)、浄水中(2016年)でPTCAを立ち上げた。「日本一あいさつが短い校長(10秒)」としてTVで紹介されたこともある(著者撮影)

名古屋駅から電車で約40〜50分、名古屋鉄道豊田線・上豊田駅で下車。豊田市立浄水中学校は、ここから徒歩10分ちょっとのところにあります。

学校の周囲は、ゆったりとした住宅街です。新しい家やマンションが多く、畑や空き地も残るなか、時折昔からの住戸も見られます。住民はトヨタ自動車の関係者が多く、退職した高齢者も増えているそうです。

浄水中学校に到着。開校して2年目なので、まだ何もかもピカピカです。校長室で、じっくりお話を聞かせてもらいました。

浄水中学校地域学校共同本部。通称「浄水中PTCA」は、保護者代表7人・地域代表26人・学校代表3人・コーディネーター2人の計38人で運営されています。なお、浄水中学校の生徒数は516人(家庭数は474)です。

会長や副会長、会計などの役員は保護者代表が担当。地域代表は民生委員、保護司、老人クラブ、スポーツ推進委員、区長(自治会長のこと)など。学校代表は校長・教頭・主幹教諭、コーディネーターは保護者から出ています。

このメンバーが年4回ほど会議を行い、活動や予算のことを決定し、保護者や地域の人たちに参加を呼びかけているそうです。


PTCAの活動拠点となる「地域学校共働本部室」。校舎の1階、外から訪れると一番手前にある。ここはセキュリティが切り離されており、利用者は外から直接出入り可能。すぐ横は生徒の昇降口で、子どもたちの様子が自然と感じられる。居心地がよく、近所の人が気軽にお茶を飲みに来るそう(著者撮影)

「花壇をつくるときも、みんなに聞いたら、『ワシがやったろうか』という人が核になってメンバーを集めてくれました。参加されるのは会社を定年退職して第二の人生を楽しまれている地域の方が多いですね。

つい先日も、大人が10人くらいと、ボランティア部の子どもたち30人くらいで、楽しそうに花を植えていました」

学校行事の手伝いも、できる人をその都度募集しています。

校長がメールで「来られる人は来てください」

たとえば、3年前に新設された浄水北小学校では、運動会の2日前にとても気温が高くなったため、当時同校の校長だった片桐先生が急きょ、児童の席にもテントを立てることを提案しました。


前日にテントを組み立てる作業、当日の朝にテントを起こす作業、終了後は片付けの作業がある。みんな作業が早いので、それほど時間はかからないそう(写真:学校提供)

「ちょうど学校に来ていた保護者に『子どもたちの座るところにテントを立てようと思うんだけど、どう思う?』って声をかけたら、『立てよう!』ってことになり。すぐ教頭先生から各自治会に電話をしてもらって、テントを20張りくらい確保しました。

それから僕とその保護者でテントを学校に運んできて、保護者や地域の方たちにメールを打ったんです。『明日の夕方、子どもたちの席にテントを立てるので、来られる人は来てくださーい』って。それだけで、100人くらい集まってくれました

5〜6月に行われる運動会の時期の暑さは、確かに大人でもキツイもの。子どもたちのためのテントを学校が確保してくれるのであれば、「設営くらいは喜んで手伝おう」と思う保護者は少なくないでしょう。

夏休みのプール開放も同様です。受付などの補助作業を保護者が行いますが、当番制(義務)ではなく、手を挙げた人が担当しています(監視は学生バイトを雇用)。それでも今年の8月は、お盆と土日を除いたほぼ毎日、ボランティアの参加があったということです。

親が荒んでいて子どもがよくなるわけがない

筆者は常々、学校の手伝いの人集めはPTAが請け負うのでなく、学校、校長先生が直接、保護者に声をかけるのがよいと思ってきました。なぜなら、そうしないと残念なことに、しばしば強制動員に変わってしまうからです。

たとえ学校側に強制の意図がなくても、校長や教頭先生から「これくらい人手がほしい」と言われた役員は、ほかの保護者に対して「この人数、必ず来てください」と伝え、強制に変換してしまいます。すると末端では、仕事を休まざるをえなくなった母親たちが、ため息をつきながら学校に集まってくることになるのです。

「校長になって保護者とお話しして、やはりみなさん、そういうことで困られているのがわかったんですね。

役員決めもそうです。PTAは子どものためになる有意義なものだとわかってはいても、何時間も沈黙が続いて担当者も困り果て、クジ引きになる。そうすると大体、いちばんやるのがつらい方がクジを引くんです。

僕もそういう場面に居合わせたことがあります。会長のクジを引いたお母さんが困っていたので、そのときは市役所勤務の知り合いの保護者に声をかけて、『悪いけど、かわりに会長やってくれないか』と頼みました。

でも学校は大抵、そういうときに逃げてしまいます。『いや、それはPTAのことだから』と言って介入しません。

だけどそうすると、保護者の人間関係が荒んでいきますよね。つらい人に仕事を押し付けたり、陰で悪口を言い合ったり。大人がそんなことで、子どもたちがよくなるわけがないじゃないですか。だったら校長が介入して、みんながニコニコしてあいさつできる保護者間、地域にしなきゃダメ。

本来はそうやってPTAを変えるのは、PTA会長というのが当たり前の話ですけれど、1年か2年で交代する会長にはできないでしょう。それができるのは、やっぱり校長です」


地域学校共働本部室を案内してくださった若月教頭先生。「民生委員さんがよくここに集まるので、私もお話をしやすくて助かっています」。部屋に置かれたコーヒーマシンも人気の一因だとか(利用者は箱に100円を投入)。(写真:著者撮影)

確かに、そのとおりです。強制的なやり方が定着しているいまのPTAを、数年で交代する役員(保護者)が変えるのはなかなか難易度が高く、また役員が変えようと思っても、校長の同意を得られずに頓挫するケースも珍しくありません。

校長主導でPTAを変えることには異論もあるでしょうが、現実的にはベストなやり方の一つではないかと筆者は思います。

それにしても、こんなPTCAがどうやって実現したのでしょうか。義務や強制をやめ、活動する人は足りるのか? 次回、後編でお伝えします。

(後編に続く)