元彼の結婚。

適齢期の女性にとって、これほどまでに打ちのめされる出来事があるだろうか。

元彼がエリートだったら、なおさらだ。

どうして私じゃなかったの。私になくて、彼女にあるものって何?

東京で華やかな生活を送るエリートたちが、妻を選んだ理由、元カノと結婚しなかった理由を探ってみる。

先週、マザコンの元彼・圭太の結婚が明らかに。さて、今回は…?




「奈緒ちゃん、久しぶり!これ、お土産のボディクリームなんだけど、良かったら使ってね」

かつての同僚である理沙子は、商社マンである旦那の赴任先・バンコクに駐在している“駐妻”である。

今日は、旦那の出張に合わせて一時帰国中の彼女とランチなのだが、奈緒はお鮨を食べに来たことを激しく後悔していた。

理沙子がお土産でくれたボディクリームは甘ったるいバニラの香りを強烈に放っており、カウンター越しの店主が顔をしかめているのが気になって仕方ないのだ。

だが理沙子は、そんなのお構いなしにバンコクでのセレブ自慢を延々と続けている。

「そういえば奈緒ちゃん、彼とは順調?」

一通りの自慢を終えた理沙子が、一応の気遣いで奈緒に聞いた。

「えーっと、理沙子さんが知ってる彼って・・・」

「ほら、外交官の彼と付き合ってたじゃない?」

-・・・康作!そういえば今どこにいるんだろう。

記憶の彼方に追いやっていた昔の彼。久々にその名前を聞いて、奈緒はある衝動に駆られた。

そして、ランチを終えると早速Facebookで康作を探した。

だが数分後、奈緒はがっくりと肩を落とすことになった。

-探さなきゃよかった・・・。

康作は数ヶ月前に結婚し、現在は妻とともにインドネシアのジャカルタに赴任中であることが判明したのだ。


駐妻に憧れる奈緒。康作に積極的にアピールしていたが…?


“海外好き”アピールに感じる違和感


奈緒と康作が出会ったのは、4年前の食事会だった。

康作は、浅黒い肌に彫りの深い顔立ち、身長180cmのがっしりした体型に真っ黒なロングコートを羽織っており、欧米人に引けを取らないオーラを纏っていた。当時、康作は32歳。

駐妻に強い憧れを抱いていた奈緒は、康作と付き合い始めた直後から結婚を意識し、「将来は駐妻だね」と周囲に煽てられ、奈緒もすっかりその気になっていた。

プール付きの家で家事はメイドに任せて、運転手さんの送迎で語学学校へ通う。

夢が膨らむばかりの奈緒は、はやる気持ちを抑えきれず、駐妻ブログを読み漁って来たる日に備えていた。



ある平日の夜、ロンドン出張帰りの康作と西麻布の『ハウス』を訪れた。

康作のお土産のジョーマローンのキャンドルは、上品で官能的なフリージアの香りで、奈緒をふんわりと包み込む。

その香りで気分が良くなった奈緒は、遠回しに「海外慣れしている自分」のアピールを始めた。

「私ね、海外旅行が大好きで、毎年どこかに行くのが楽しみで」

「そうなんだ?」と期待通りの反応をくれた康作に、奈緒は意気揚々と語った。

「バリにハワイ、イタリア、あと韓国にも行ったわ。中でも一番良かったのはバリかなぁ」

そうして、バリのどんなところが良かったか尋ねる康作に、奈緒は「アヤナ リゾート&スパ バリ」のプールやレストランの素晴らしさ、ホスピタリティの高さを話し続けた。

さらに「写真あるよ!」と、Facebookにアップした「Trip to Bali」のアルバムを康作に見せ始めた。




白いビキニに大きめのサングラスをかけて、ビーチベッドにごろんと横たわり、カラフルなカクテル片手に微笑む奈緒。

サンセットの美しいレストランで、大きなロブスターに嬉しそうにかじりつく奈緒。

草花に囲まれたガーデンで、バスローブ姿でくつろぐ奈緒…。

「奈緒ちゃん、バリの街中には出かけなかったの?」

「ここは館内で十分楽しめるのよ。それに街中は治安も心配だし、衛生的にも不安で。あ、でも免税店は行ったよ。フェラガモが安くてお土産にバッグ買っちゃった」

ほかにもイタリアや韓国の写真を見せた奈緒は、「やっぱり海外って良いよね。次は康作さんと行きたいな」と可愛く訴えるが、康作の反応はなく、何かを考えこんでいる様子だった。



翌月、2週間のアフリカ出張から戻った康作に誘われ、奈緒は食事に出かけた。

出張中の康作から連絡がきたのは、たったの3回。LINEもなかなか既読にならないし、返信も素っ気ない。

-何かあったら、どうしよう…。

康作の出張中、奈緒は心配で胸が張り裂けそうだった。

康作と結婚したらこんな日々の繰り返しなのだと思うと、正直耐えられる気がしなかった。

だから康作を一目見るなり、安心してつい涙をこぼしそうになったほどだった。

「奈緒ちゃん、心配かけてごめんね。これ、お土産だよ」

康作は困った顔をしながらも少しだけ嬉しそうに、ある物を差し出した。

「なにこれ・・・」

奈緒はそれを受け取るとともに、固まってしまった。

潤んでいた瞳が一瞬で乾いてしまうくらい、衝撃的なものが目の前に置かれたからだ。

それはラッピングもリボンもない、気味の悪いキリンの置物。

-嫌がらせ…?

そんな思いが奈緒の脳裏に真っ先に浮かんだが、なんでこんな嫌がらせをされなければいけないのか、皆目見当もつかず、やり場のない怒りがこみ上げてきた。

それにこんな気味の悪いもの、「彼からのお土産」としてSNSにも投稿出来ないし、捨てるに捨てられない。

今までお土産でもらったジョーマローンやHugo & Victor、Bath & Body worksを投稿した時のいいね!の数を思い返しながら、目の前のキリンを睨みつける。

気まずい無言の時間が二人の間を流れる。

その雰囲気を察したのか、店員がお会計を持ってきた。だが当然2軒目もなく早々に切り上げ、帰路に着いた。

それから3ヶ月後、アフリカ・ジブチの大使館に赴任することになった康作から別れを切り出され、破局を迎えた。

奈緒は、恋人も駐妻という夢も失って、未だかつてないほど落ち込んだ。

しかし奈緒は、もし康作に付いていくことになったとしても、名前すら聞いたことのないアフリカの小国で暮らすなんて絶対に耐えられないとも思った。


康作が奈緒に感じた違和感とは一体…?


“海外好き”という名の自分好き


康作は、休暇で妻の有香とバリを訪れていた。

街を散歩していた時、偶然「アヤナ リゾート&スパ バリ」の看板を見つけ、思わず「あっ」と声に出してしまった。

ー奈緒は今、どこで何をしているんだろう。

父親の仕事の都合で中学、高校をアメリカで過ごした康作は、日本に帰国後、日本人の“海外好き”に疑問を抱いてきた。

外交官になった今、その思いは強まるばかりだ。




妻の有香とは、友人主催のホームパーティーで知り合った。

有香は、「康作さんのお話を聞かせてください」と、目をキラキラさせながら康作の世界各地での思い出話を聞いていた。

有香と付き合い始めて間もない頃、アフリカのボツワナ出張を終えた康作が、当地の名産品であるダチョウの卵の殻で出来たブレスレットを渡すと、有香は感嘆の声を上げた。

「ありがとう。とてもきれい!ダチョウの卵がこんなに白いなんて知らなかったな。このブレスレット、どうやって作るんだろう」と、興味津々なのだ。

有香は、ボツワナの話に熱心に耳を傾け、康作にあれこれ質問し、「僕はボツワナ人じゃないからわからないよ」と、康作を苦笑いさせた。

聞けば有香は、父親の仕事の関係で転校を繰り返しており、色々苦労してきたらしい。

自分を分かってほしかったら、まずは相手を知る努力をする。

そんな人間関係の基本が、出来ていない女性は多い。

有香は当たり前のようにしていた。そうして康作の心は、有香にがっしりと掴まれた。



康作が、奈緒をはじめ多くの日本人に感じていた疑問。

それは、“海外好き”と言いながら、他国の文化に一切の興味関心を示さないことだ。

奈緒が見せてくれた海外の写真は、バリやイタリア、韓国のどれも同じだった。なぜなら、奈緒しか写っていないからだ。

5つ星ホテルに泊まり、星付きレストランで食事し、高級スパを満喫する。お土産は免税店のハイブランド。

結局、彼らは自己顕示欲むき出しのアピールをしている“自分好き”で、素敵な自分を演出するアイテムがあれば、極端な話、海外である必要はないのだ。

奈緒の、康作に対する想いもそうだ。

キリンのお土産を渡した時、康作は「ああ、やっぱり」と確信し、落胆したのだった。

-“駐妻”である私。それを引き立てるプール付きのレジデンスや運転手やメイド。

-外交官の夫。彼に求められる私というアイデンティティ。

奈緒にとってお土産も恋人も、自分を引き立たせるアイテムに過ぎない。奈緒はそういうアイテムが欲しいだけなのだ。康作は、そう感じた。

お土産の反応や海外にまつわる話で見極めた康作。

奈緒は今も、毎年海外に出かけては水着姿を惜しみなくSNSにアップし、エステ、免税店を満喫している。

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