トッテナムでの通算ゴール数を「110」にまで伸ばしたケイン。トップのデフォー(139)に並ぶ日もそう遠くはないはずだ。(C) Getty Images

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 狩猟解禁となった途端の大猟――。トッテナムとイングランド代表の若き“ゴールハンター”ハリー・ケインが、9月に見せたパフォーマンスはまさにそんな感じだった。
 
 シーズン開幕月である8月、ケインはクラブで定位置を勝ち取った3年前から1度もネットを揺らせずにいる。今シーズンもそうだった。しかし、自ら「8月も終わったしね」と苦笑を浮かべた9月1日のロシア・ワールドカップ欧州予選のマルタ戦で決めた2得点を、皮切りに怒涛のゴールラッシュは始まった。
 
 9月30日のプレミアリーグ7節のハダースフィールド戦(〇4-0)は、月間5度目の1試合・2得点。代表戦を合わせた1か月の得点数を自己ベストの「13」に伸ばし、イングランド人FWとしては歴代最高の数字だ。
 
 同時に欧州全体でも、あのリオネル・メッシ(2012年3月)とクリスチアーノ・ロナウド(2010年10月)が保持する月間最多得点記録で肩を並べた。となれば、「いよいよワールドクラスの仲間入り」と、イングランド国民が騒ぐのも無理はない。
 
 過去3シーズンに渡ってプレミアで20ゴールを記録してきたケイン。それだけに今シーズンは開幕前から、ワールドクラスの実力の「証明」が求められていたが、開幕2か月目にして早くも「承認」する声が聞こえ始めている。
 
 元イングランド代表DFで、現在は英国メディア『スカイスポーツ』の解説者を務めるガリー・ネビルは、「同じ土俵で語れる」として、バイエルンのロベルト・レバンドフスキと、パリSGのエディンソン・カバーニの名を挙げて、ケインを評している。
 
 7節で2017年の得点数を通算36点としたケインが、両者の数字を抜いたことを受けての発言だが、たしかにハダースフィールド戦での2ゴールは、レバンドフスキやカバーニと比較しても遜色のない、欧州屈指のCFと言って然るべき得点シーンだった。
 開始早々の9分にカウンターから敵陣を独走して決めた先制点は、チャンスを予期する嗅覚の賜物。彼にボールが渡る前に相手DFが対処すべきではあったが、それこそケインの威圧感がミスを誘ったとも言える。
 
 GKとの1対1で、軽く外側にボールを叩くお馴染みの持ち出しからシュート体勢に入り、右足でニアポストに決めたフィニッシュワークは、冷静沈着にして正確無比だった。
 
 23分に決めた自身2ゴール目は、ワンタッチの軽快なビルドアップからベン・デイビスが決めたチーム2点目を凌ぎ、この試合でのベストゴールに挙げられる。
 
 バイタルエリアでボールを持った時には3人のDFに囲まれていたが、素早いターンで背後の1人を剥がすと、残る2名も置き去りにするように中央へと流れ、コースが見えた瞬間に左足を一閃。絶妙なカーブのかかったシュートは、相手GKのセーブが及ばないファーサイド上隅を射抜いた。
 
 試合後のケイン本人は、「いい感じのクロスやスルーパスを送ってくれる仲間がいるから勇気百倍。自分は単にチャンスを締め括っているだけさ」と普段通りに淡々と自身のパフォーマンスを総括している。
 
 指揮官のマウリシオ・ポチェティーノからして、4日前のチャンピオンズ・リーグのAPOEL戦(〇3-0)でハットトリックを決めた時点で、「ゴール前で必殺の特技を見せる世界最高のストライカーの1人」と認めていたケインを欲しがる欧州ビッグクラブは、今後、増え続けるに違いない。
 
 すでに今夏にも国内ではマンチェスター・ユナイテッド、さらに海外からはレアル・マドリーの興味が伝えられたが、トッテナムが3年連続でプレミア優勝争いに敗れることになれば、来夏に浮上する退団の噂の数と熱量は、その比ではなくなるだろう。
 
 ケインが本領を発揮し始めたこともあり、トッテナムは優勝を本命視されるシティとユナイテッドのマンチェスター勢に次ぐプレミア3位に浮上した。しかしそれは同時に、“ワールドクラスのCF”流失を防ぐ戦いが本格的に始まったことも意味している。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。