福山雅治、“人間味”が薄い役が似合う理由 『三度目の殺人』と『ガリレオ』シリーズの共通点を読む

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 現在公開中の映画『三度目の殺人』で、死刑がほぼ確実とされている被告の弁護を受け持つことになる弁護士・重盛を演じた福山雅治。真実の追求ではなく裁判に勝つこと(本作の劇中では、無期懲役への減刑を勝ち取ることだ)にこだわり、そのためには手段を選ばないという、弁護士という職業に従事する者の正直な姿を描き出したキャラクターだ。

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 弁護士をはじめ法曹に携わる人物を主人公にしたドラマや映画となると、「司法」という決して一般的ではないジャンルを、どうにか観客に近づけようとするあまり、裁判に勝つという命題をそっちのけで真実の追求に走りがちである。その点では、司法の世界、とりわけ「裁判」という極めて形式的に執り行われるものの冷酷さを物語る本作の中で、この重盛のような“人間味”の薄いキャラクターの存在は、主人公という立場を抜きにしても重要になってくる。

 まず死刑制度への疑問符を提示し、結論を劇中で描かず、あくまでも観客に考えるという選択肢を与えるスタンスを貫くためには、一般人が共感できるキャラクターに主人公をさせてはならない。「死刑制度とは何なのか」という疑問に最もぶつかっていく主人公へ感情移入されてしまっては、観客の思考にバイアスをかけてしまいかねない、ということだろう。

 それゆえ、主人公を除いた周囲のキャラクターは、一貫して形式的な設定が重ねられ、観客に近い存在となる。同じ事務所には志の高い若手弁護士がいたり、少し抜けた雰囲気の同期弁護士がいたり、はたまた重要な証人となる少女は誰にも言えない秘密を抱えている。そして、主人公を翻弄するように供述を次から次へと変えていく被告。

 その中で、福山演じる重盛という弁護士の葛藤は、まさに接見室で被告と対峙しているのと同じように、観客との間に一枚の分厚いガラスが立ちはだかっているのだ。いわば、供述を転々とさせる被告の姿は、死刑制度についての考えを模索している観客の姿が投影されているかのようでもある。

 そんな観客からもほかの登場人物からも隔たりを持った重盛という役柄は、これまで福山が演じてきた様々なキャラクターから考えると、実に適役であったと思える。そもそも福山雅治は歌手なのか俳優なのか、はっきりと断言できないほど多くの肩書きを持った、オールマイティな才能の持ち主で、その時点でもかなり“人間味”が薄い。

 中でも彼のイメージとマッチしていたのは、代表作である『ガリレオ』シリーズの湯川学准教授だろう。不可思議な事件を前に、科学で解明できないことはないと断言し解決していく、頭の切れる物理学者の役である。過去に『古畑任三郎』で爆弾の入った置物を親友にプレゼントする冷酷な化学者を演じたように、クールな風貌で誰よりも頭の切れる(そして周囲を見下したような)キャラクターを演じると、彼の右に出るものはいない。

 しかしながら、湯川学役と本作の重盛役は共通して、“人間味”の薄い冷酷さの中でも、ある意味では熱い部分を感じさせる男なのである。自分が追求したいと思った事柄に関しては、誰の力も借りずにひとりで考え、気が済むまで没頭し、解決させていく。誰もが憧れるような情熱と自信の持ち主であり、そこもまた福山のイメージとも重なる。

 ところが『三度目の殺人』で(とても曖昧な描かれ方ではあるので、おそらく、としか言えないのだが)、没頭の末に辿り着いた先にあったことは、重盛の視点から見れば満足のいく解決とは言いがたい。その結末は、本作で二度目のタッグとなった是枝監督作で、彼が前回演じた『そして父になる』と同じように、冷酷で自分の信念のみを貫いてきた役柄が、もうひとつの異なる視点を理解し、“人間味”を取り戻した瞬間だったのではないのだろうか。

 息子として育ててきた少年との時間よりも血縁を重んじたことが、間違いとは言い切れないが、“家族”というものには様々な形があると理解し、真の意味で父親になった『そして父になる』の野々宮良多。そして、職業人としてのプライドとして勝ちにこだわってきたが、形式的な裁判のシステムの中に埋もれてしまった真実に途方に暮れる重盛朋章。

 弁護士として間違いのないスタンスを貫きながらも、一般的に求められるような真実を追求する弁護士の姿に、少しだけ近付いた重盛。『そして父になる』にちなんで、“そして弁護士になる”といったところだろうか。是枝裕和作品での福山雅治は、彼のイメージとその変化の過程を描くことによって、観客に多様な視点を理解させる役割を果たしているのだ。

■久保田和馬映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。