【コラム】堅実で末恐ろしい“名波ジュビロ”…布陣変更は来季も見据えたチーム力の「上積み」

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 ともすれば消化不良に陥りそうな0−0に、ジュビロ磐田は確かな意味を持たせていた。戦い方の幅を広げる、期待の人材の実戦感覚を呼び覚ます。

 FC東京と引き分け、連勝を逃した30日の明治安田生命J1リーグ。この勝ち点1、なかば織り込み済みだったんじゃないかと思う。

 新たな試みは4バックだった。板についた3−4−3の布陣をこの日は4−2−3−1に鞍替え。理由について名波浩監督は明言を避けたが、単なるFC東京対策ではない。中村俊輔によれば、来季も見据えたチーム力の「上積み」だ。戦術の選択肢、多いに越したことはない。

 もちろん、簡単に事は運ばない。3バックの時より全体を押し上げ、厚くした中盤を軸に主導権を握る狙いは当たらなかった。選手間の距離が縮まり、パスコースは増える。慣れない分、迷いが生じる。「『次、オレ?』って動きづらくなる。イメージを共有して『せーの』で仕掛けようとすると遅くなる。結果、アダ(イウトン)や川又(堅碁)のダイナミックさが失われる」。背番号10の解説が全てだった。

 枠が増えた中盤に加わったのは山田大記。カールスルーエから3年ぶりに復帰した28歳にトップ下で初先発が巡ってきた。本人の言葉を借りれば「自分で勝ち取ったというより、名波さんが与えてくれたチャンス」。ドイツではボランチが主戦場だった。久方ぶりの2列目、3年前とは顔ぶれが変わった古巣でのプレーは勝手が違った。

 パスを受けては戻す動作が繰り返され、前への仕掛けは皆無。「もっとチャレンジしてもよかった。しっかりボールを回せない展開で、個で打開できれば歯車がかみ合ってきたりもするので」。名波監督も「正直、出来は良くなかった」と認めた。

 もっとも監督、こんな声をかけて山田をピッチに送り出している。「リハビリのつもりでリラックスして入ろう」。不出来は織り込み済みだったということか。「2列目の『空気』を忘れていたから。試合のアタマから出れば、また彼の中に新しいものが芽生える」。磐田を次の段階に引き上げるため、元10番の融合は欠かせないとの決断。やっぱり長い目で見た先行投資の起用だった。

 現役時代の名波監督を思い出す。一つひとつのパスに意思を込め、2手、3手と先を読んで試合を組み立てるプレーメーカーだった。指導者に転じてのチーム作りもそう。一つひとつの打ち手に意図がある。一つひとつ積み木を置くように底上げを図り、わずかな積み木の乱れを見逃さない。大宮アルディージャに快勝した前節は、もたついた終盤に綻びを見つけた。「交代で入った選手は、突破なりキープなり、わかりやすい判断をしてほしい。次への課題として落とし込みたい」。春先に中村俊は気づいていた。「試合で出た課題を、慌てず、少しずつ練習に採り入れてポジティブに持っていってくれる。その微調整がうまい」

 現在6位。3位以上のAFCチャンピオンズリーグ出場圏が視界に入るけれど、その向こうの黄金時代再来に名波監督は挑んでいる。このタイミングで4バックを敷いたのも周到な計算あってこそだろう。仮に試合が壊れても次節まで2週間。修正の時間が十分にある。

 先手、先手の名波ジュビロ。堅実で、末恐ろしい。

文=中川文如