人とビジネスを動かすのは言葉だ。わかりやすく論理的な書き方・話し方ができていますか?(写真:T-STUDIO/アフロ)

当世のビジネスパーソンは忙しい。仕事に追われるだけでなく、英語に会計、ITスキルなどを学び、自身に付加価値をつけることに余念がない。だがそういった意欲にあふれた人でも、おろそかにしがちなスキルがある。国語=日本語である。

活字離れといわれる昨今だが、ビジネスにおける言葉の重要性は決して小さくなっていない。メールやSNSのような、文章コミュニケーションツールはいまや業務に不可欠。企画書やプレゼンテーションで、受け手に主旨をずばりと理解してもらうにも、言葉の力が必要だ。にもかかわらず、「わかる」「説得力がある」日本語を学ぶ機会というのは、ほとんどない。

『週刊東洋経済』は10月2日発売号(10月7日号)で「学び直し 国語力 ビジネスに効く!『書き方』『話し方』」を特集。わかりやすく論理的な書き方・話し方を網羅している。スキルは何でも、全体を要素に分解し、より効果が高い要素を繰り返し練習することで学べる。大人が国語を学び直す場合も、同様だ。文章を1文の単位に分解し、よりわかりやすい文を書けるようにすることが不可欠だ。

典型的な悪文の4例から学ぼう


以下の4つはすべて、典型的な悪文だ。何が問題で、どう直すべきなのか、指摘できるだろうか?

(1)アナウンサーだった東氏のよき伴侶である聡子夫人は、岡田氏の長年の飲み友達でもあるらしい。

(2)田中が私の親友の西野に私がいらだつほど大嫌いな駒井を紹介した。

(3)新サービスはインターネット上で話題となったうえ、実際に導入した先からも好評を博したことにより、前年度比15%増の売り上げを期待している。

(4)日本の原油輸入は8割以上が長期契約となっており、中東ドバイ原油の平均価格を基準に決められる契約形態が大部分である。

(1)の文が抱えている問題は、文章の意味がふたとおりに解釈できることだ。アナウンサーだったのが東氏なのか、聡子夫人なのか判然としないのだ。もしアナウンサーが東氏なら、「アナウンサーだった東氏の、」と読点(、)を入れる、聡子夫人なら「東氏のよき伴侶で、アナウンサーだった聡子夫人」と語順を入れ替え、さらに読点を加える必要がある。

アナウンサーだったのが聡子夫人だった場合の理想例は以下のとおりだ。

(1の理想例)東氏のよき伴侶で、アナウンサーだった聡子夫人は、岡田氏の長年の飲み友達でもあるらしい。

(2)の文の問題は、語順に違和感があることだ。日本語は英語や中国語に比べ、語順があいまいだ。だが、だからといって何でもいいわけでは、もちろんない。パッと聞いてわかりやすい語順のルールがあるのだ。理想的な語順については、ジャーナリストの本多勝一氏がロングセラー書の『日本語の作文技術』の中で明快かつ鋭い分析を披露している。

長い修飾語はなるべく前に

詳細は実際に読んでいただきたいが、この例文に関しては、「長い修飾語(私がいらだつほど大嫌いな)を文中に置いている」のが問題。長い修飾語はなるべく前に持ってくるのがよいので、この文を「私がいらだつほど大嫌いな駒井を」で始めるのが理想的。また文書であれば、「駒井を」の後に読点を打つとより読みやすいだろう。理想例は以下のとおりだ。

(2の理想例)私がいらだつほど大嫌いな駒井を、田中が私の親友の西野に紹介した。


ブログやSNS、メール、報告書などを書くうえでも役立ちます(写真:naka / PIXTA)

の問題は、主語と述語の関係がねじれていることだ。現状では、主語「新サービスは」には、「話題となった」「好評を博した」「期待している」の3つが述語だ。だが3つ目の「期待している」は、述語としてふさわしくない。ヒトではない新サービスが、何かを期待することはないからだ。

この場合は、「好評を博した。」と一度文を区切り、「これにより、売り上げは前年度比15%増が期待されている」と新たに正しい主語・述語の組み合わせを作るのがよい。理想例を示してみよう。

(3の理想例)新サービスはインターネット上で話題となったうえ、実際に導入した先からも好評を博した。これにより、前年度比15%増の売り上げが期待されている。

こういった主語と述語のねじれは、会話においては頻繁に起こる。だがねじれたままの文を書き記すと、仮に意味が通じたとしても、幼稚な書き手だと受け取られる。多くの言語において、話し言葉と書き言葉は同じではない。

話し言葉は基本的に、その言語に囲まれて育てば誰でも使えるが、書き言葉は一定の教育を受け、実践を重ねて初めてきちんと書けるもの。起こりがちな間違いだからこそ、「教養がない」「知性に欠ける」と思われないために、注意したいポイントだ。


(4)の文は、1文に2種類の事柄についての情報が入っている「一文二意」であることが問題だ。1文にひとつの事柄だけを書く「一文一意」が望ましい。二意でも必ずしも文法的に間違っているわけでもなく、意味が通じることもある。だが、よりわかりやすい文を目指すには、二意は避けたほうがよく、三意、四意はもってのほか。「〜で」「〜しており」といった言葉を文章に多用する人は、この問題をはらみやすいので要注意だ。

この文章の場合は、「長期契約である」ことと、「平均価格を基準とした契約が多い」ことという2つの事柄に分けて、2文で構成するのが正解だ。

(理想例)日本の原油輸入は8割以上が長期契約。長期ドバイ原油の平均価格を基準とした契約が多い。

文には相当程度の正解がある

このように、「わかりにくい言葉」「違和感がある言葉」にはすべて理由がある。長年、国語は感性で学ぶ教科であり、答えが明確ではないとみられてきた。だが少なくとも、文には相当程度、正解があるのだ。このルールを多くの人が軽視しているからこそ、気づいて学び直した人には武器になる。秋から何かを学ぼうか、という意欲を持っている人はぜひ、国語もその選択肢に入れてほしい。

『週刊東洋経済』10月2日発売号(10月7日号)の特集は「学び直し 国語力 ビジネスに効く!『書き方』『話し方』です。