W杯ロシア大会へ向けて、ハリルホジッチ監督の手腕について考察した宮澤ミシェル氏

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サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第15回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、W杯へ向けて強化試合の続く日本代表のハリルホジッチ監督。10月はニュージーランドとハイチ、11月には強豪ブラジルとベルギーとの対戦が予定されており、その手腕があらためて問われることになるが…。

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ハリルホジッチ監督がW杯ロシア大会まで続投することが決まったが、私の採点としてはW杯アジア予選を通しての彼の手腕は100点満点なら70点といったところ。

最大の目的であったW杯出場権を獲得したことで及第点ではある。しかし、W杯2次予選のシンガポール戦に23本のシュート打ちながらも0-0で引き分けたり、最終予選の初戦でUAEに敗れるなど戦いには不満もある。諸手を挙げて合格とは言えない。

就任直後は日本人の気質があまりわかっていなかったように思う。「縦に速いサッカー」を浸透させるために強い口調で選手に伝えたら、そのサッカーができるような状況ではない試合展開でも、選手がその戦い方にこだわり過ぎるという現実を知ることになった。

例えば、埼玉スタジアムでのUAE戦は不可解な審判の判定もあったとはいえ、ガンガン前線からプレッシャーをかけていったことが結果的に裏目に出て負けてしまった。

あの試合でハリルホジッチ監督のメンタリティを垣間見た気がする。相手に対して最初から強い圧力をかけていく。だが、時折、気弱なところや慎重な面も見えた。もちろん、そういう部分はどの監督にもある。ただ、ハリルホジッチ監督は最初に強く出て「あれ? これは違うぞ」となった時に少しずつ変化していった。

また、「決断が一拍遅い」という傾向もあった。私も含めた多くの解説者たちが「本田圭佑のコンディションが悪いのであれば、彼よりもコンディションの良い選手から優先して使うべき」と昨年からずっと言っていたが、本田の起用にこだわった。

これまで日本代表を牽引してきた本田の経験値に敬意を払っていた部分もあったと思う。それでも、もっと早くに決断していたら最終予選はもっと楽に戦えた可能性は否定できない。今さら言ったところで、結果論になってしまうのだけれど。

その一方で、W杯最終予選の終盤で際立ったのが「瀬戸際での強さ」だった。後半戦、最初の試合になった今年3月のアウェーでのUAE戦、長谷部誠が故障で使えないとなった時にベテランの今野泰幸を招集し、GKに川島永嗣を起用。本田を先発から外して、勢いに乗っていた久保裕也を使って結果を出した。

出場権獲得を決めたオーストラリア戦では、右FWに浅野拓磨、左FWに乾貴士、中盤3枚には井手口陽介と山口蛍と故障から復帰したばかりの長谷部誠を起用した。最終予選が始まった頃から先発メンバーが大きく変わったわけだが、いきなりそうした布陣を敷く大胆な采配は外国人監督ならではと思う。

選手を招集したり、起用する基準が今ひとつ明確ではないが、それでも追い込まれた状況で力を発揮できるのは、監督としては重要な資質。ハリルホジッチ監督はそういう部分の強さを持っているといえるだろう。

最終予選の最後の試合となったサウジアラビア戦では、先発メンバーで新たな先発起用は柴崎岳だけだったが、個人的には杉本健勇を先発で起用してもらいたかった。

若い選手はどんどんプレーさせて伸ばしていくべき。日本代表は選手を育成する場ではないけれど、それでも日本の選手層は強豪国のような厚さがないのだから経験を積ませる裁量も必要だろう。

それに全くポテンシャルのない選手を伸ばせと言っているわけではない。杉本は186cmと日本人としては体格に恵まれていて、足元の技術も上手く縦に抜け出すこともできる。精神的には弱い面もあったが、それがようやくタフさを身につけつつある印象だ。

杉本がJリーグで2011年くらいに頭角を現した頃から大久保嘉人以来の逸材と信じてきた私としては、ようやく代表に出てきてくれたなと思っている。

余談だが、大久保のことは彼が高校を出た20年近く前から、試合中継を担当するたびに「彼の才能は別格」と言い続けてきた。そして最近、本人から「若い頃からそんな風に言ってもらえていたのを初めて知りました」とのことだった。選手は試合に出ていたら中継を観られないから仕方ないけど、少し寂しかったな(笑)。

何はともあれ、その大久保と同じように逸材と考えている杉本が代表で1トップとして使える目処(めど)が立てば、ロンドン五輪代表選考で杉本に弾き出された大迫勇也との争いになる。日本代表がチームとして活動できる時間が限られている中、代表強化をするには選手個々の競争を激しくするのが効果的。

新たな才能が代表で輝きを増すほど本田や香川といった実績のある選手たちを発奮させることに繋がり、日本代表が活躍するためにもそうした競争は欠かせない。それだけに、ハリルホジッチ監督には選手起用に関してこれまでよりも早い決断をすることを心がけて10月と11月のテストマッチに臨んでもらいたい。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル

1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。