季節を映す上生菓子や、節句などに欠かせない行事菓子。その、美しく可愛らしい姿の中に、実は深い意味も込められていることを知っていますか?

「お正月におせちやお餅を食べるように、行事とともに受け継がれてきた食文化が日本には息づいています。和菓子でいえば、例えばひな祭りに草餅が食べられてきたのは、よもぎの強い香りが厄を除けるからといわれています。端午の節句の柏餅が柏の葉で包まれているのは、柏は新しい葉ができるまで古い葉が落ちないから。そこに家の継続、ひいては子孫繁栄の願いが込められているんです」(虎屋文庫・森田環さん)

秋、十五夜を「芋名月」、十三夜を「栗名月」「豆名月」と呼びそれらをお供えする風習があるが、これもまた、月に豊かな実りを感謝する意があると森田さん。食材を尊び、体に取り込むことで生きる力をいただく。日本人らしい考え方ともいえます。

まずは素材。その上で、職人が趣向を凝らす菓子の意匠には、より良く生きたいという、いつの世にも共通する人々の願いが込められているのです。

そんな“秋”を感じる縁起菓子がこちら!

紅葉

「紅葉の錦」とは、色づく紅葉を絢爛な錦に例えた秋の季語。華やかで艶やかな色彩は、春の桜に並んで日本人の心に深く刻まれ、思い描くだけで心を高揚させ、凛とした気持ちにさせてくれます。

とらや「秋の彩(あきのいろどり)」深まる秋とともに野山の木々が色づいていく様子を、紅と黄色のそぼろで表現したきんとん製のお菓子。¥486。1個より購入可能。販売期間(10/1〜15)。とらや 東京ミッドタウン店 東京都港区赤坂9‐7‐4 D‐B117 東京ミッドタウン ガレリアB1 TEL:03・5413・3541 11:00〜21:00 元日休(東京ミッドタウンに準ずる)

月見

中秋の名月を愛でる習慣は平安時代からあったようで、時とともに秋の実りを感謝する行事に。旧暦の9月13日は「後の月」ともいわれ、中秋と同じように月見が楽しまれてきました。

とらや「月下の宴(げっかのうたげ)」野山を駆けるうさぎがふと立ち止まり、美しく輝く月を愛でている。しっとりとした口当たりの薯蕷饅頭。¥486。1個より購入可能。販売期間(10/1〜15)。とらや 東京ミッドタウン店 東京都港区赤坂9‐7‐4 D‐B117 東京ミッドタウン ガレリアB1 TEL:03・5413・3541 11:00〜21:00 元日休(東京ミッドタウンに準ずる)

現代で菊というと仏花を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、菊は古くから不老長寿の象徴。日本の五節句のひとつ、9月9日の重陽の節句は菊の節句ともいわれ、とても縁起が良い花です。

とらや「小佐女菊(こさめぎく)」餡に小麦粉と寒梅粉を加えて蒸し、もみ込んだ生地(羊羹製)で、小雨(小佐女)に濡れそぼる花びらが繊細に表現されている。¥486。1個より購入可能。販売期間(10/1〜15)。とらや 東京ミッドタウン店 東京都港区赤坂9‐7‐4 D‐B117 東京ミッドタウン ガレリアB1 TEL:03・5413・3541 11:00〜21:00 元日休(東京ミッドタウンに準ずる)

かぼちゃ(南京)

日の出から日没までの時間が最も短い日「冬至」は、太陽が生まれ変わる日(一陽来復)とされ、運気向上のため「ん」が付く食べものが縁起が良いとされています。かぼちゃの別名は「なんきん」。旬を食べることが福そのもの。

鎌倉いとこ「かぼちゃきんつば」厄除けの食材、赤色の小豆が入った優しい甘さのきんつば。6個箱入り¥1,230より。店頭では1個売りもあり。神奈川県鎌倉市長谷3‐10‐22 TEL:0467・24・6382 10:30〜17:30(売り切れ次第終了) 不定休

「一に打ち鮑、二に勝ち栗、三に昆布」。打って勝って喜ぶという、戦国時代の戦前のげん担ぎの儀式に由来し、栗は、古くから勝負運を上げる食べ物として受け継がれてきました。

すや「栗きんとん」木曽の山の恵みを味わえる滋味豊かな栗きんとん。6個箱入り¥1,533より。販売期間は9月〜1月(早期終了の場合あり)。岐阜県中津川市新町2‐40(本店) TEL:0573・65・2078 8:00〜19:00(9月〜12月は8:00〜20:00) 水曜休(9〜12月は無休)

さつまいも

栽培が盛んになったのは江戸時代のことで、おせちの栗きんとんの餡に欠かせない食材。きんとん(金団)とはつまり、輝く財宝のこと。黄金色=おめでたい。そんなイメージが定着しています。

舟和本店「黄金色の芋金貨(プレーン)」芋ようかんの上品な甘さそのままに、薄焼き煎餅に仕上げた一品。50g¥389。東京都台東区浅草1‐3‐5(雷門店) TEL:03・5828・2701 10:00〜19:00(土曜9:30〜20:00、日・祝日9:30〜19:30) 無休

森田 環さん もりた・たまき 室町時代後期創業の和菓子店『とらや』にある資料室「虎屋文庫」の研究主査として、和菓子文化の歴史調査や資料収集などを行っている。

お菓子の価格はすべて税込みの金額です。

※『anan』2017年10月4日号より。写真・山口 明 スタイリスト・荻野玲子 構成、文・つるや ももこ

(by anan編集部)