Facebookは今後10年をどう見据えているのか(撮影:今 祥雄)

初めまして。フェイスブック ジャパン代表取締役の長谷川晋です。今回東洋経済オンラインに5回連続で寄稿できるという貴重なご機会をいただき、まずは大変光栄に思います。

私は2015年10月に事業会社からフェイスブック ジャパンの代表取締役に就任いたしました。現在、世界で20億人が使うようになったFacebookが世界中の、そして日本の皆様に今後どのような価値を提供し、どのような役割を担おうとしているのかについて、10月2日から6日まで5日連続の連載でお話しさせていただきます。

第1回では、私の簡単な自己紹介とともに、今年6月に変更されたばかりのFacebookのミッションの下、Facebookが目指すものや、今後10年をどう見据えているかについて紹介したいと思います。

さまざまな変化を経験したこれまでの人生

私は兵庫県宝塚市で生まれたのち、2歳から9歳までの幼少期を米国で過ごしました。 9歳で日本に帰国後、 多くの逆カルチャーショックを経験しましたが、剣道やハンドボール、ラグビーなどのスポーツを通じて、多くの日本らしいともいえる文化や慣習を学ぶことができました。

京都大学卒業後は、東京海上日動火災保険、プロクター・アンド・ギャンブル、楽天に勤務し、2015年にフェイスブック ジャパンに代表取締役として入社しました。特にプロクター・アンド・ギャンブルでの10年は私のキャリアの基礎となっています。その中でも最後の3年はシンガポールで多国籍のチームをリードし、北南米やヨーロッパ、アジアのチームと仕事をすることで真の多様性を学べたことは非常に大きな経験でした。

2012年に楽天シンガポール支社に入社し、グローバルマーケティングオフィスの立ち上げにかかわり、その後2015年に、フェイスブック ジャパンに入社しました。なぜそのタイミングで移ったか。理由は大きく3つあります。1つはFacebookが掲げるミッションに深く共鳴したこと、2つ目はFacebookで働く人の魅力に圧倒されたこと、3つ目はテクノロジー業界という未知のキャリアに挑戦したいと考えたことです。

ミッションについては次項で詳しくお話しいたしますが、その同じミッションを共有し、そこに向かって働く人の魅力には大きく心を動かされました。Facebookには、「1. 頭がよくて 2. 性格がよくて、3. 人生を楽しんでいる」、その三拍子がすべてそろっている人が多く、そのような魅力的な人に出会い、自分自身の伸びしろがまだまだあると感じたことを覚えています。また、3つ目の理由ですが、当時の私はアナログ人間で、テクノロジーが得意ではなかったからこそ、あえてそこに飛び込みたいという思いもありました。

では、ここで私がFacebookへの入社を決めた最大の理由である、ミッションについてお話しします。

Facebookが“コミュニティ”にフォーカスした理由

2017年6月、Facebookには大きな変化がありました。創業以来、グローバルの全社員が指針にしてきたミッション「世界をよりオープンでつながったものにする」を進化させ、「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」という新たなミッションを策定したのです。

ここで、新しいミッションがコミュニティに焦点を当てた理由についてご説明します。

今年、Facebookの月間アクティブ利用者数は20億人、Instagramの月間アクティブ利用者数は8億人を超えました。創業時に掲げたミッションのとおり、つながりの“広さ”については一定の手応えを感じています。ただ、昨今のグローバルでの課題、特に「分断」された世界、などともいわれるように、つなぐだけでは世界はよりよいものにはならないと考えたのです。では、次に何をすべきかを考えたときに、今後はつながりの“深さ”なのでは、と思い至りました。単に人と人をつなぐのではなく、同じ目的や興味を共有するコミュニティづくりを私たちが応援する。その結果、人と人のつながりがより密接になり、ポジティブな影響が拡散していくような世界を私たちは思い描いています。

また、コミュニティを応援する背景の1つとして、日本でも、グローバルでも、かつてコミュニティとしての役割を担っていたものの存在が薄くなっている傾向があります。欧米なら教会が思い浮かびますし、日本でも自治会や地域の行事など、地域のコミュニティに参加する人が減り、人々のつながりが希薄になっていると感じている人も多いのではないでしょうか。もちろんそれにはさまざまな要因があると思いますが、われわれのテクノロジーを使ってそうした課題にアプローチできないか、失われつつあるコミュニティの機能をオンラインなつながりで補完できるのではないかと考えています。

私たちが運営するFacebookやInstagramでは、そんなつながりの好例がすでに芽生えはじめています。

ここで、私が注目しているコミュニティの例をいくつかご説明します。薬物中毒だった方が立ち上げた「Affected by Addiction Support Group」というFacebookグループでは、薬物中毒やアルコール中毒の経験者や治療中の人々、その家族や友達が集い、さまざまなサポートを提供したり、個々の経験やエピソードを共有することで、中毒から抜け出ようとする人々がコミュニティに支えられていることを実感し、そして前へ一歩踏み出せるように支援しています。

フェイスブック ジャパンが注目している、日本のコミュニティもあります。「FMふたばプロジェクト」は、福島県双葉郡広野町を中心に地元高校生が地域の農業にかかわりながら、その模様をFacebookページを通じて情報発信しているコミュニティです。


FMふたばプロジェクトのFacebookページ

当初は、東北大震災からの復興を目的の1つとして活動を開始しましたが、畑で収穫した野菜を使った料理イベントを開催したり、海外の学生さんと交流したり、ふるさとを元気にするさまざまなイベントを開催しています。生徒さん自らが休耕畑で育てた野菜を、Facebookで募った希望者に送るというコミュニケーションもありました。

また、今年の8月19日には、収穫した野菜を販売するファーマーズマーケットを主催。その開催費用がクラウドファウンディングで集まるなど、バーチャルなつながりの中からオフラインでの活動を応援する人々の存在も見て取れます。


もう1つ、私がおもしろいと感じたのが「キモノでジャック」というコミュニティです。和装文化を盛り上げて地域振興に貢献しながら、共通の趣味をもった友達作りの場を提供するという目的で、街を着物姿の参加者で埋め尽くす(ジャックする)イベントを主催しています。

わずか11名の着物好きが京都ではじめたのですが、Facebookでの発信が共感を呼び、今では全国29カ所、そしてアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリアなど全世界31カ所に“支部”を展開するまでに成長し、毎週世界のどこかで「キモノでジャック」のイベントが開催されているそうです。

バーチャルならではの拡散力で日本の一都市から世界にまでポジティブな影響が広がった、大変興味深い事例だと思っています。


「キモノでジャック」のFacebookページ

ロードマップで取り組むべきことを定義

では、私たちがコミュニティを支援するために、具体的に何をするのか。人と人のつながりにはさまざまな枠組みがあり、1人の人間の中にもたくさんのニーズが混在しています。

当然、1つの施策や1つのプラットフォームでカバーできるものではないので、3年、5年、10年という期間に分けたロードマップで取り組むべきことを定義しています。


10年ロードマップ(画像:Facebook)

まず、直近の3年は現在のメインのプラットフォームであるFacebookとInstagramを通じて、比較的オープンなつながりやコミュニティを応援していきます。コミュニティ運営をサポートするような機能のアップデートとともに、さまざまなテクノロジーを提供してくださるパートナー様とともにエコシステムを構築するフェーズになります。

一方、5年スパンでは、もう少し身近なつながりの支援を対象に製品の充実を図ります。少人数のつながりを支援するFacebookのグループ機能では、現在、グループをまとめるコミュニティのリーダーの役割を担う管理者をサポートする機能に注力しています。

今年の6月にはコミュニティのリーダーを集めたコミュニティサミットが米国で初めて開催され、新機能のアップデートも報告されました。このような機能を5年かけて拡充していきます。1対1や少人数のつながりを応援するためのMessengerやWhatsAppといったプラットフォームも深いコミュニケーションを行ううえで大切になっていくでしょう。

企業の社内コミュニケーション用にも

さらに忘れてはならないのが、多くの人にとって仕事場も重要なコミュニティだということ。企業の社内コミュニケーション用として開発されたWorkplaceは日本でも今年の5月に発表され、日本における導入企業数も堅調に推移しています。コミュニケーションを活発化させ、生産性を向上するWorkplaceのさらなる機能向上もこの5年スパンで考えています。

友だちや家族とオープンにつながるFacebook、ビジュアルの驚きや感動でつながるInstagram、より身近につながるMessengerやWhatsApp、働く仲間とつながるWorkplaceと、3年から5年かけてさまざまな枠組みのコミュニティを支援するしくみを整え、人と人がつながるうえでのあらゆるニーズにお応えしていくつもりです。

ただ、どれだけニーズをカバーしても、私たちが応援を届けられない人々も数多く存在します。世界にはインターネットにアクセスできない人が約40億人もいるからです。より大規模な事業を扱う10年スパンの施策の1つは、世界中の人々がインターネットにアクセスして情報を得たり、発信したりできる環境構築です。

その一つ、エクスプレスWiFiでは、パートナーシップを結んだ地域の起業家の方や、通信会社などの企業様にインターネットの普及をビジネスとして立ち上げていただきます。その際に必要な技術をFacebookが提供することで、低コストで利用できるインターネット環境を構築し、つながりに加わる人を増やしていきます。すでにインドでの運用はスタートしており、ほかの地域にも随時拡大していく予定です。

ドローンを使ったネット環境の提供にも挑戦

またConnectivity Labという、空からインターネットを届ける壮大なプロジェクトにも挑戦しています。太陽光だけで飛行できる無人ドローンから省電力の赤外レーザー光線で情報を伝達することで、地球の最奥地でもインターネットにつながることができます。


無人ドローン「Aquila (アキラ)」(写真:Facebook)

10年スパンの取り組みには、さらにVR、AR、AIなどの先進技術もありますが、これらは次回詳しく取り上げます。特にVR、ARといったイノベーションによって、コミュニケーションはより進化すると考えています。次回はそんなコミュニケーションの未来像をテーマにお話しします。