日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。

彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。

これまで、職業を盛って騙し合う港区男女、浮気をする彼氏に罠を仕掛ける女、スマホを覗き見る女、そしてSNSで彼女を突きとめた女の三角関係の末路を紹介した。

第9回は、独身生活を謳歌する男vsそんな男に一目惚れした、結婚願望強めの女性。




「結婚するならこの人」10歳年上の男に一目惚れした女


香織(27)と言います。青山のアパレルメーカーで、プレスをしています。

プレスは、華やかに見える職業です。展示会の様子をインスタにあげると、“いいね”は普段の倍近くにも上り、コメント欄にも「きらきらしてて羨ましい」といった類の言葉が飛び交います。

でも実際は、裏方の仕事が大半。休日出勤などざらですし、展示会の準備は各所との調整に追われ神経を尖らせるばかりです。

そんな中、2か月前に心惹かれる出会いがありました。取引先で、PR会社を経営している洋平さんです。

10歳年上の37歳ですが、とても若々しい見た目をしています。浅黒い肌に凛々しい眉、一見鋭いのに笑うとくしゃっとなる切れ長の目。

それでいて、年齢相応の落ち着いた雰囲気を纏っているのです。

イベント現場でトラブルが起きた時の冷静な対応とか、飲み会での落ち着いた様子とか…同世代の男性にはない穏やかな余裕が、輝いて映りました。

私は人生で初めて、一目惚れをしました。

さりげなく周囲に聞いたところ、彼は独身とのこと。

「結婚するならこの人だわ」

そう直感した私は、仕事の相談を口実に、彼を食事に誘いました。


洋平との仲を深める香織。しかし、思わぬ落とし穴があった…?


週末には、会えない人


職場の人に見つかると気まずいので、行った先は西麻布のイタリアン。最初は仕事の時と同じ距離感でしたが、ワインが進むにつれ、徐々に緊張の糸がほどけてきました。

「私、洋平さんに一目惚れでした」

お食事がひとしきり終わった頃、どうにでもなれ(どうにかなりたい!)という勢いで気持ちを吐露しました。

彼は一瞬驚いたような反応を見せた後、優しく微笑んでくれました。

「もうちょっと、一緒にいようか」

その夜は私にとって、一生忘れられないものだと思います。

それから私たちは、平日の忙しい夜の合間を縫ってデートを重ねるようになりました。

でも1か月ほど経った頃から、不安が私の心を支配するようになりました。彼とはいつも、平日にしか会えないんです。

「たまには休日にデートしよう?」

そんな風に誘っても、いつも「予定が詰まっているんだ、ごめん」という答えばかり。

でも、女性の影がある様子でもないのです。

代々木にある自宅に何度か行っていますが、1LDKの部屋には最低限の家具しかなく、生活感がまるでない。彼曰く「寝に帰るだけ」のための家で、女性が出入りしているような気配もありません。

だけど、なぜか週末は会えない。普段一緒にいる時も、どこか捉えどころがない。根無し草のような、ふわふわした人でした。

私は次第にそのつかめなさに苛立ちを覚え、彼のSNSを過去まで遡ってチェックするようになりました。

そこで見つけてしまったのです。




「洋平の引っ越し祝い」と題し、友人にタグ付けされている3か月前のFacebookの写真を。

彼は、湘南にも家を持っていたのです。


彼のテリトリーに入りたい女


湘南に引っ越してから1か月後に、代々木に引っ越すということはあり得ないですよね。

つまり彼は、2つ家を持っているのです。湘南が本宅だとすれば、代々木の家の殺風景さにも合点がいきます。

―なぜ、何も教えてくれないの…?

写真の中で能天気にビールを掲げる洋平さんに激しい憤りを覚えながら、彼にLINEしました。

すると、すぐに返事が来ました。

―もう少ししたら話そうと思っていた。ごめんね。週末は湘南にいるから、中々会えなかったんだ。

それならそうと、言ってくれればよかったのに。湘南にだって、いつでも会いにいくのに。

―じゃあ、来週末は湘南を案内して。

そう提案することで、高ぶる気持ちを何とか落ち着けました。

私、結婚したいのです。初めて出会った、理想そのものの彼と。

そのためなら、彼のライフスタイルに自分を合わせることなど苦にもならない。平日は東京、週末は湘南。そんな半移住生活も、彼と一緒なら憧れすらあります。

これからもっと彼のテリトリーに入り、ライフスタイルを受け入れていくことで、彼にとってなくてはならない女になりたい。

絶対に、あきらめません。


二重生活を楽しむ経営者


初めまして、洋平(37)と言います。PR会社を経営しています。

住まいは2つあります。本宅の湘南マンションと、仮住まい用の代々木のマンション。

今の仕事は時間が不規則で会食も多いので、都内にも家を借り、平日はそこに帰るようにしています。

自分のためだけにこんな風にお金を使えるのは、独身の醍醐味ですね。僕は独身をやめられない。この先も、辞めるつもりはない。

けれど、女性は常に結婚を意識するイキモノだから、願望がないことをうまくぼかさないと恋愛もできない。

これまではうまくやってきましたが、今、香織という女性に詰め寄られています。


「湘南を案内して」。香織のお願いに、洋平は…?


彼女からの好意は、仕事をしている時から感じ取ってはいました。

告白された時に彼女を受け入れたのは、クライアントだから無下にするのも…と気にした部分もありますが、彼女の可愛さに負けた、というのが本音です。

しかし、こんな風になるなら、あの夜何事もなく別れておけばよかった。

僕は割り切った大人の関係だと思っていたのに、彼女はどうやら僕と結婚したがっているみたいなのです。


湘南という憩いの場に、都会の毒を入れたくない


「結婚したい」とは言いませんが、彼女が僕のテリトリーにぐいぐいと浸食しようとしてくる様子から、そんなことは明白です。

今までにも、僕の前から香織のような女性達が何人も通り過ぎていきました。今後も結婚する気はないし、自由な時間を一切邪魔されたくない。

湘南は、都会に毒された僕の心身を浄化してくれる、憩いの場なのです。

土曜は昼からサーフィンをし、地元の人とバーで朝まで飲み尽くし、寝て、また日曜の昼からサーフィンをする。

そのサイクルに彼女を入れるなんて、想像もできません。だから「湘南を案内して」と連絡が来た時は背筋が凍りましたが、半ば押し切る形で、彼女は週末に湘南を訪ねてきました。




僕は断ることもできず、地元のショップや海辺のカフェを案内しました。

そうすると、地元の仲間たちが「あれ、彼女!?」冷やかしで声をかけてくるんですよね。

仲間に絡まれるたびに彼女が嬉しそうな視線を投げてくるのを、苦々しい思いで見ていました。

もし彼女が、自分もこの場所で共に生活することを想像していたとしたら…僕には叶えてあげることはできません。

日焼けを忌み嫌っているかのような真っ白な肌に、爪には真っ赤なマニキュア。マスカラがたっぷりのった漆黒の睫毛に、流行りのボルドー色の唇。

そんな都会用の装備万端の子は、湘南に住むにはあまりにも似つかわしくありません。



『材木座テラス』で潮風に吹かれながら夕飯を食べていた時。

「この後、家に行ってもいいでしょ?」

聞きたくなかった言葉を吐く彼女に、僕は海の方を見つめたまま答えました。

「ごめん。湘南の家には、女性を入れない主義なんだ」

彼女の顔がみるみる凍っていくのが、横を見なくても分かります。

「申し訳ないけど、終電で帰ってほしい。送っていくよ」

そう言いながら彼女の方に向き直った時です。

「洋平じゃん!」

すぐそばのカフェで働く知人の女の子がたまたまいたようで、声をかけてきました。

「先週のホームパーティ楽しかったね。今度は彼女も連れてきなよ〜」

彼女は楽しそうに一方的にまくし立てた後、颯爽と去っていきました。

その背中を見送った後、僕は、恐る恐る香織の方に向き直りました。案の定、先ほどまでの悲しそうな表情は、激しい怒りを湛えた形相に変わっていました。

「…何で彼女はよくて、私はダメなの?」

怒鳴り出したい気持ちをこらえるような低い声でつぶやいた後、香織は静かに席を立ち、そのまま去っていきました。



次の週末。

多少の罪悪感を引きずりながらも、面倒事がなくなり解放感にあふれた僕は、シェアハウスに住む友人が主催する飲み会に参加することにしました。

湘南のシェアハウスではよく飲み会が開催されていて、出入り自由で開放的な雰囲気なんです。

サーフィンを終えてシャワーを浴びた後、ほてった体のまま弾む気持ちでシェアハウスに到着しました。

「洋平、ちょうどよかった。友だち紹介するよ」

出迎えてくれた友人が笑顔でそう言うと、そこには地元メンバーと楽しそうに談笑している、華やかな雰囲気の女性がいました。

そう、香織です。

僕の姿を認めた瞬間、彼女は満面の笑みで手を振り、言いました。

「洋平さん。明日皆で海に行こうよ」


煮え切らない独身男vs一目惚れした男を追う女…勝負の結果は?


彼女を家に入れない洋平と、それをとことん追いかける香織。

最後に幸せをつかむのは、洋平?それとも香織?

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恋愛の「協力するよ」は信用するな。思惑渦巻くお食事会