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梶原由景の「間違いだらけのアプリde飲食店選び」



食にも精通するクリエイティブディレクター梶原由景が足で見つけた”間違いない名店”を毎月紹介する。

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今月の間違いない名店

Mission Chinese Food

アメリカ/サンフランシスコ

住所:2234 Mission St, San Francisco, CA 94110-1812

電話:+1 415-863-2800

ニューヨークは最近ローワーイーストサイド、しかも今まで見向きもされなかったかなり下の地域が盛り上がっている。これは世界中のどこの都市でも言えることなのだが、そういった動きの中心には必ず「食」の存在がある。日々新しいレストランがオープンしているのではないかと思うほどの変貌ぶりだ。ある時、話題のチャイニーズレストランがあるということで連れて行ってもらった。その名は「ミッション・チャイニーズ・フード」。実はそのレストラン、以前から気になっているものだった。

サンフランシスコのミッション地区の「バー・タルティーン」。べーカリーの素晴らしさは、すでにこの連載でも報告済みだ。クロワッサンが抜群だが、焼き菓子も美味しく、毎回ここを訪れるとお土産に大量買いしてしまう。この創作料理のレストランで働いていたアンソニー・ミントはある時フードトラックを休みの日に借りて、サンドウィッチを売り始める。彼は世界中を旅して来た若者だった。その体験に基づいたユニークな味は評判となり行列までできるに至った。驚いたことにここでの収益は全て寄付していたそう。しかしあまりの人気振りにトラックの周りの住民から苦情が相次ぎ、このプロジェクトは終わりを迎える。

当然こういう男は次に何かやる。ミッション地区の中華料理屋に週に1日だけ店を貸してくれるよう交渉する。その店はすでに店内営業行っていなかったようだが、彼が借りる日もデリバリーやテイクアウトの営業は行なっており、厨房は異なる店の料理が同時並行する有様だったという。当然ここにも行列ができる。やがてこの店は彼だけが営業を行う「ミッション・チャイニーズ・フード」となった。内外装はその当時の間借りした店「龍山小舘(ラン・シャン・レストラン)」のままで。

以前その近くにはニューヨークのファッションブティック「フリーマンズ・スポーティング・クラブ」のサンフランシスコ支店があった。現在のアメカジは日本人によるアメリカン・カジュアルスタイルの整理と再解釈の結果であるが、それは当のアメリカ人にとっても新鮮かつ興味深いものだったようで、近年アメリカのメンズ・カジュアルシーンにおいて一大潮流となっている。この「フリーマンズ・スポーティング・クラブ」はその象徴的な存在かもしれない。今はセイコーのプロジェクトで僕も一緒に仕事をしているのも不思議な感じだが、以前彼らのYouTubeのチャンネルに「ミッション・チャイニーズ・フード」が出て来た。調理風景をかなりエグく、エキセントリックに描写したその映像は印象深かった。つまりニューヨークの店を訪れた時、その印象が蘇ったのだ。チャイニーズなのになぜかピザがあったり(実はシェフがイタリアン出身だったと知ったのはずいぶん後のことだが)、羽根突きの餃子がやたらと美味かったり。

そして今回本店を訪れた。ネットで予約も取っているようだが、基本店の前の表に書き込み呼ばれるのを待つスタイル。この時カクテルグラスのイラストを書き添えておくと、それは隣のバーで飲みながら待っているという意思表示となるらしい。

 

青島ビールで乾杯。手羽先の揚げ方の繊細さにまず驚いた。麻婆豆腐もいわゆる王道ではないが、美味しい。胡瓜の下に敷かれたソースは中華じゃない。嬉しいフュージョンだ。全て美味しいが全てが普通じゃない。こんな楽しい食事、それは待つわけだ。もっと色々食べてみたいのだが、この日は友人二人とのディナーであったので、麺を頼んでもうおしまい。また必ず来るだろう。

  

ちなみに、いまも食事をすると一皿あたり0.75ドル寄付されることになっているそうだ。初心忘れるべからず、だろうか。素敵なお店の素敵なエピソード。

文/梶原由景

梶原由景(かじわらよしかげ):幅広い業界にクライアントを持つクリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。デジタルメディア『Ring of Colour』などでオリジナルな情報を発信中。

※『デジモノステーション』2017年11月号より抜粋