【オトナの社会科見学】驚きの職人ワザ!マツダ車を輸出する巨大運搬船に潜入してきた

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四方を海に囲まれた島国、日本。あらゆる品物の輸出入は、陸上輸送以外のなんらかの手段によって運ばれます。中でもクルマは、我が国の製造業にとって最大の輸出品であり、2016年には約411万台の乗用車が日本から海外へと輸出されました。

輸出されるクルマのほとんどは、船によって運ばれます。セキュリティの問題から、通常では見ることができない輸出船への積み込み作業ですが、マツダでは1996年から社会貢献活動の一環として、児童・生徒とその保護者を対象に、船積み見学会を開催しています。今回はその見学会に同行。巨大な自動車運搬船の内部や、積み込みスタッフの妙技を目の当たりにすることができましたので、その模様をご紹介しましょう。

2016年、マツダは乗用車と商用車を合わせて約161万台強を生産しました。このうち日本国内の工場で生産されたのは約100万台。そのうち、日本市場で販売されたのは20万台あまりですから、ざっと80万台ほどが、日本から北米やヨーロッパ、オセアニアといった世界各地に向けて輸出されたことになります。

日本は四方を海に囲まれていますから、クルマや工業製品はもちろん、石油などの資源の輸出入も船舶や航空機で運ばれますが、重量ベースで見ると、そのうち99%以上が船舶によって輸送されているのだとか。そして、コンテナ貨物を運ぶ“コンテナ船”、原油を運ぶ“原油タンカー”という具合に、積荷に適した専用の輸送船が用意されており、効率化が図られているのはご存知のとおり。では、クルマは何で運ぶのでしょう? もちろんクルマにも、PCC(Pure Car Carrier)と呼ばれる専用の運搬船が用意されています。

見学会では、広島にあるマツダの宇品工場にある岸壁で、川崎汽船の自動車運搬船「ブラジリアハイウェイ(BRASILIA HIGHWAY)」への積み込み作業が公開されました。“K”LINEのロゴマークでお馴染みの川崎汽船は、2017年3月現在、コンテナ船のほか原油やLNG、LPG向けのタンカーなど、560隻を運航する総合海運会社。また同社は、日本における自動車専用船のパイオニアでもあり、実に93隻もの自動車運搬船を運航しているそうです。

ブラジリアハイウェイは、今治造船丸亀工場で2009年8月に竣工した自動車運搬船で、全長は約200m、全幅は約32m、高さは約45m(水上部約35m)、総トン数は5万9440トンという巨大サイズ。船内は12層のデッキに分かれていて、小型車が約6000台積載可能となっています。

今回は山口県のマツダ防府工場で2070台、そして宇品工場で2670台の計4740台を積み込み、スペインのバルセロナ、ベルギーのアントワープとジーブルージュに向け、約1カ月の航海に出るそうです。

さて、車両の積み込み方法ですが、ブラジリアハイウェイをはじめ、自動車メーカーが新車輸送に使う運搬船では“RO-RO(Roll-on/Roll-off)方式”、つまり、車両甲板への積み下ろしを自走で行うのが一般的で、こうした点から、自動車運搬船は“RO-RO船(ローロー船)”とも呼ばれています。ちなみに、コンテナ船などではクレーンやリフトを使用して貨物を積み下ろす“LO-LO(Lift-on/Lift-off)方式”が採られています。かつては、クルマもLO-LO方式で積もり下ろししていましたが、荷役作業に時間がかかることなどから、新車輸送では見られなくなりました。

実際の積み込み作業は“ギャング(Gang)”と呼ばれる専門スタッフのグループが、1台ずつ車両を運転して行いますが、今回は5組のギャング、計150〜200名が入れ代わりで作業に当たったのだとか。ちなみに、約2000台を積み込むと聞くと、途方もなく時間が掛かりそうですが、朝8時半から夕方17時までにはすべて終了するそうです。

ひとり当たり10台ほどを約8時間で、と思えば、「確かにできそうかも…」と感じられるかもしれませんが、車両甲板での積み込み作業は、実に緻密な車両コントロールが要求される、まさにプロの仕事なのです。

ブラジリアハイウェイは12層の車両デッキを備えていますが、各デッキはさらに細かく区画が分かれており、車両は積み込みプランに沿って指定の区画に収められていきます。ちなみに車両同士は、前後30cm、左右10cmというわずかな間隔で積み込まれるのですが、ドライバーは仲間の指示に従って、寸分のズレもなく決められた位置に駐車していきます。

拝見したデモンストレーションは、前進で積み込み区画に進入、バックで方向転換し、指定場所に駐車…という内容でしたが、その正確なステアリングさばきはまさに、職人のワザ。見学者からも、思わず「おぉーっ!」という声が漏れるほどでした。

しかし、これほどピッタリ詰め込んでしまうと、船の揺れなどで車両同士が接触するなど、運搬中にクルマがダメージを負うこともあるのでは? と不安になりました。しかし、車両の前後は、専用の金具やロープを介して甲板へしっかりと固定。こうした装備やノウハウによって、運搬するクルマがダメージを負うことは、ほとんどないとのことです。

その後、乗組員の居住区をとおり、この巨大貨物船の操船を司る操舵室にもお邪魔しました。現代の貨物船ですから、チャートテーブルの上にはコンパスや分度器、海図が…ということはなく、操舵室にはアナログの計器類のほか、超音波により水深を計測する音響測深機、GPS、レーダーなど、デジタル表示の計器やカラーのディスプレイがズラリと並んでいます。例えば“ECDIS(電子海図表示システム)”には、自船の位置だけでなく、航路上の危険海域といった情報も鮮明に表示されており、その様子はまるで、SF映画のようでした。

なるほど、クルマは長年にわたって、日本の輸出品目のトップであるため、積み込み作業も特別なノウハウの集合体ですし、船も最先端装備が満載なんだな、と感心させられる一方、いくつかの疑問もわいてきました。

そのひとつは「もっと大きな運搬船を建造すれば、さらに効率がアップするのでは?」ということ。しかし実は、船のサイズにはいくつかの指標があり、今以上に大型化するのは、そう簡単ではないそうです。

自動車運搬船に限らず、貨物の運搬はスピードもまた重要な課題であり、そのために、太平洋とカリブ海を結ぶパナマ運河、地中海と紅海を結ぶスエズ運河をとおるルートを航行します。特にパナマ運河は、幅が狭く、水深も浅いため、通過できる船のサイズに制限が設けられていて、運河を通過できる船の最大サイズを“パナマックス”と呼んでいます。

ちなみにパナマックスは、全長965フィート(約294m)、全幅106フィート(約32.3m)、喫水37フィート(約11.3m)というサイズ。特定の航路だけでなく、世界各地をめぐることもある自動車運搬船は、このパナマックスサイズに沿って建造されることが多く、ブラジリアハイウェイも同規格を満たしています。

しかし2016年、パナマ運河は拡幅工事が完了。全長1200フィート(366m)、全幅161フィート(約49m)、喫水50フィート(15.2m)がネオ・パナマックスサイズとなりました。川崎汽船では、すでに2015年に、従来のパナマックスサイズを越える全長200m、全幅37.5m、7500台積みの次世代自動車専用船を就航させています。

一方、自動車運搬船をはじめとする貨物船の航行速度も、意外に知られていない“謎”ではないでしょうか。実はタンカーやコンテナ船といった船の種類、積荷、エンジンの出力により異なりますが、航行速度は15ノット(27km/h)から24ノット(44km/h)ほど。ちなみにブラジリアハイウェイの場合、外洋では最大19ノット(約35km/h)で航行しているそうです。理論上とはいえ、数千台ものクルマを積み、24時間で約840km、1カ月では地球半周を超える2万5000km以上を進む計算になりますから、自動車運搬船、侮りがたし、といえるでしょう。

さて、今回の見学会に参加して感じたのは、日本車の高品質イメージは、自動車メーカーだけでなく、海運会社やその積み込み担当者の皆さんによっても支えられているのだ、ということ。自動車運搬船をはじめとする最新の装備はもちろん、積荷にダメージを与えない繊細かつ正確な作業にも、日本らしいクオリティへのこだわりが感じられたのでした。

(文&写真/村田尚之)