「慢性膵臓炎の原因は、長年のアルコールの飲みすぎによるものとも言えます」
 こう注意を促すのは、都内総合クリニック医師だ。
 「アルコールをたくさん摂っていると、膵臓が刺激されて膵液が過剰に作られます。すると、膵臓の中にある膵管に多量の膵液がある状態になり、膵管の中の圧力が上がってしまう。すると、膵液の消化酵素によって膵臓の組織に小さな炎症が起き、その炎症を繰り返すことで膵臓が線維化、破壊されてしまうのです」

 では、アルコールをどのくらい摂っているとなりやすいかは、目安のようなものがあると同院長は言う。
 「だいたい1日に80グラムのアルコールを10年以上摂り続けると、慢性膵臓炎になる危険性が高くなると言われています。ちなみに80グラムは、ビールでは大瓶3本、ワインではフルボトル1本ぐらいで摂取する量です」(同)
 中には、こうした話を聞いて「ならばビール2本なら問題ないだろう」と思う人もいるかもしれない。しかし、アルコールの摂取は糖尿病などの病気とも関係してくるため要注意。また、アルコール依存症を治療している人であれば、アルコール量は1日20グラムに抑えられている。いずれにせよ、慢性膵臓炎を患うような状態は、単体の臓器の病への対応だけではダメだということだ。

 慢性膵臓炎は完治させるのが難しいと言われる。治療法は“膵石”に体の外から衝撃波を当てて砕く方法が広まっているが、手術と比べ体への負担は少ない一方、再発する確率も高いという。
 東京都府中市に住む会社員、大塚尚治さん(仮名=59)は、昨年9月、夜中にみぞおちに激しい痛みを感じた。そこで翌朝、近所の内科クリニックで受診すると、紹介先の大学病院で慢性膵臓炎と診断された。CT検査で膵臓に7ミリの石が見つかったというのだ。
 膵臓は前述の通り、消化酵素を膵液として十二指腸に出し、血液の中の血糖を調整するインスリンを分泌する。慢性膵臓炎になると、何らかの原因で活性化された消化酵素などによって、膵臓自身に炎症が起きる。大塚さんも同じ状況だった。

 入院中の大塚さんは、断酒と脂肪を抑える食事で様子を見ていたが、担当医とコミュニケーションを重ねるうちに、治療は容易ではないと覚悟したという。
 「膵臓炎は飲酒やストレスが原因の一つだと言われました。遺伝性の場合もあるという話でしたが、よく考えると、仕事が忙しく、休みもあまり取れなかった。この病気の特徴として、患者の6〜7割が膵石を持っているそうです。私も同じように膵石がありましたが、それが問題なんです。医者が言うには、膵臓から消化酵素を十二指腸に送り出す膵管を膵石が詰まらせる。そうなると痛みを招くことになり、私も同じ状態。これを放置していると、膵臓の炎症を悪化させてしまい、進行すると膵がんになるという。怖くなって、石を除去しなければ、という思いを強くしました」(大塚さん)

 大塚さんは見舞いに来た知人から、ネットで調べた膵臓炎の治療法を紹介され、衝撃波で膵石を砕くことを知らされた。そこで意を決し、担当医にセカンドオピニオンの相談を持ち掛け、今年3月、名古屋市の藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院に入院した。
 同病院の膵石破砕の治療法は、確かに以前の治療とは違った。装置の上の寝台にうつ伏せになった状態で約1時間、3000発の衝撃波を照射する治療を週2回のペースで受けたという。
 そして計6回の治療を終えた後、十二指腸に入れた内視鏡から細長いカテーテルが膵管に抽入され、その後、砕けた石が取り除かれた。
 「石が取り除かれると、何か体が軽くなったような気分になりました。手術をせずに石が取り出せたのは、本当にありがたい。ただ、安心はしていません。再発の可能性もあると言いますから、医師のアドバイスを受け、しっかりと再発防止に努めます」(同)