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孤独死や特殊清掃にまつわる取材をしていると、関係者から「セルフネグレクト」という言葉を聞くことがある。直訳すれば、自己放任。必要最低限の食事を摂らなかったり、具合が悪くなっても医療を拒否したりするなど、自身の健康を悪化させるような行為を指している。

社会問題となっている孤独死やゴミ屋敷の背景には、高い割合でセルフネグレクトの傾向が確認されているという。しかも、これは決して特殊な話ではない。病気や失業などをきっかけに、誰もがそのリスクに直面することがありうるのだ。

もし、自分や家族がセルフネグレクトになってしまったらどのような結末が待っているのか、解決策はあるのか。最前線で日々奮闘している特殊清掃業者や、家事代行業者の現場を追った。(ノンフィクション・ライター 菅野久美子)

●「ついにこの季節がやってきた」

「毎年ついにこの季節がやってきたか、って思うんですよねぇ。孤独死の件数ってゴールデンウィーク明けに増え始めるんです。理由は簡単。気温が上昇して腐敗が進みやすいから、近隣の人がその悪臭に気付いて通報するんです」

プルプルプルプル――。そう話す間にも、特殊清掃会社「マインドカンパニー」(本社・東京都大田区)代表の鷹田了さんのスマートフォンには引っ切りなしに依頼の電話がかかってくる。相手は懇意にしている不動産会社からだった。この夏、鷹田さんは不動産会社や遺族から殺到する依頼を受け続け、ほとんど休みなくフル稼働で現場を飛び回った。

その大半が部屋の中で孤独死した人の清掃だ。ピークを迎える夏は、1日2〜3件、現場を飛び回ることも珍しくない。そのくらい孤独死現場の依頼が多いということだ。

2011年に民間のシンクタンク「ニッセイ基礎研究所」が発表した調査結果によると、日本では年間約3万人が孤独死(孤立死)している。そして、孤独死はこれからますます増えていくと予測している。この調査結果では、孤独死の8割がセルフネグレクトだと結論付けている。

鷹田さんも、「孤独死される方は、セルフネグレクトの方ばかりですね」と、実感している。

「今年の孤独死の清掃も、ほぼすべてと言っていいほどセルフネグレクトのお部屋でした。物を片付けられないごみ屋敷だったり、酒浸りだったり、インスタント食品が転がっていたりとか、そういう不摂生な生活であることが部屋に入った瞬間にすぐに分かります。

意外に思われるかもしれませんが、孤独死される方って、40代後半から50代がすごく多いんですよ。性別でいうと、男性の方が多いです。健康に不安がある高齢者とは違って、まだ本人も元気だと思っていて安心しているというのもあるかもしれません。属性を細かくみていくと、離婚歴がある方が目立ちますね」

孤独死現場に共通しているもの

鷹田さんは、これまで手掛けてきた孤独死案件の現場写真を見せてくれた。

東京都東久留米市の1Kのアパートには、うず高く積もったコンビニとスーパーのごみの山で、窓の外が半分しか見えなくなっていた――。住人の男性(40代)は、食べ物の袋や雑誌などのごみの下に埋もれて息絶えていたのだという。また、東京都江東区の1DKのアパートでは、布団の周囲に鍋や酎ハイの缶などがこれでもかと積み重なっていて、故人の男性(50代)が寝ていた布団は、赤黒い体液でぐちゃぐちゃになっていた。

この男性は、いずれもセルフネグレクトの特徴を示していたという。

「どこか体を壊している人が多いんです。顕著なのは足腰ですね。つい最近手掛けたのは、一人暮らしの男性の賃貸アパートでの孤独死だったんですが、ロフトだけで生活していたみたいで、ロフトの上に大量のペットボトルがあるんです。

ペットボトルの中身は全部尿です。便も垂れ流し。ロフトから降りるのがきつかったみたいで、最後はトイレに行くのも苦痛だったんだと思います。部屋の中に尿を溜めこんでいる人は多いですね。寝ている範囲から動きたくないんだと思います。

亡くなる場所は、布団だったり、ベットだったり様々ですが、玄関で亡くなる方も結構いらっしゃるんですよ。それは、やはり外まで這って行こうとして、力尽きて亡くなったんだと思います。苦しくて外に助けを求めようとしたんのでしょう。あと、孤独死する人は、社会的に孤立している人が多いと感じます。人との繋がりが感じられない人がほとんどですね」

孤独死が起きると・・・

一度孤独死が起こると、近隣住民、遺族には多大なる負担となる。鷹田さんによれば、今年の夏は、発見まで1〜2週間かかったケースが多かったというが、それでも短期間の間に階下まで体液が染みてしまうという。

費用はケースによって異なるが、鷹田さんの会社では、純粋に汚染箇所の特殊清掃のみだと、1Kで約25万〜30万(遺品整理は除く)。下の階まで体液が漏れ伝うなどすると、その2倍〜3倍の費用がかかってくる。

埼玉県の分譲マンションで起こった孤独死のケースでは、死後1か月が経過していた。体液が下の階にまで漏れ伝わったため、階下の年配の夫婦は2週間以上のホテル住まいを余儀なくされたのだそうだ。

たまたま、住民が孤独死の特約が付いた火災保険に入っていたため、費用は全額保険会社の負担となったが、階下まで被害が及ぶとなると苦情は必至だろう。警察は、ほとんどのケースで遺族を探し出すが、肝心の遺族は、その費用ですらまともに支払うことができなかったり、相続放棄して拒否するなどして、トラブルに発展することも珍しくない。

このように、様々な問題を引き起こす孤独死であるが、それを防ぐには、やはりその前段階のセルフネグレクトに目を向ける必要がある。

後編(ゴミ屋敷に埋もれた「大切なメッセージ」…孤独死防止へ「御用聞き」が心の大掃除 → https://www.bengo4.com/internet/n_6714/)では、実際に家族がセルフネグレクトに陥ったらどうすればいいのか、「片付けられないお部屋」と真っ正面から向き合っている、ある家事代行業者の取組みから解決策に迫る。

【著者プロフィール】

菅野久美子(かんの・くみこ)

ノンフィクション・ライター。最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の現場にスポットを当てた記事を『日刊SPA!』や『週刊実話ザ・タブー』などで執筆している。

(弁護士ドットコムニュース)