要であるし、そのときまで役者として演技を続けていなければならない。そして、朝ドラの母親役を演じられる、以前とは違った自分になっていなければいけないからだ。

 それでも朝ドラには、毎年たくさんの俳優たちがキャスティングされるし、昨今のキャスティング発表でも、初出演と聞いて、「え? あの人朝ドラに出たことなかったの?」と反応してしまうこともある。

 今回も、ヒロインの母親役の木村佳乃は以前にも出演したことがあるし、そのほか、羽田美智子、菅野美穂、和久井映見なども過去に朝ドラ出演経験がある。

 これらヒロインの母親世代(40歳前後)の女優たちの活躍も、この『ひよっこ』で印象に残った部分ではないだろうか。

 しかも、この年代は娘役を卒業し、30代でキャリアウーマンや、恋に揺れる役も演じ、そこからどういう方向性に向かうのかの分岐点の年齢でもある。だからこそ、この作品で母親世代の女優たちは、また違った顔を見つけ出せたのではないかと思える。

 例えばみね子の母親・美代子を演じた木村佳乃は、近年は『ファーストクラス』のクリエイティブ・ディレクターや『僕のヤバイ妻』の資産家令嬢など、都会的なイメージが強かった。しかし、この作品では、奥茨城村の農家で夫の帰りを待つという女性を演じた。

 彼女と対照的な存在として登場するのは、女優として東京で活躍する川本世津子役を演じた菅野美穂だろう。彼女は、朝ドラ初出演の『走らんか!』で、主人公が男性ではあったが、ふたりいる女性ヒロインのひとりを担っていたと言ってもいい。そして、前作の朝ドラ『べっぴんさん』では、ヒロイン・すみれの母親を演じているから(程なく亡くなってはしまうが)、ヒロインと母親を演じたと考えてもいいだろう。

 この世津子役も、菅野のどちらかというと、年齢を重ねてもちょっと少女っぽいところが残っていて、明るいイメージの逆を行く、大人で落ち着いたキャラクターとして登場した当初は新鮮であった。しかし、そんな世津子には、複雑な生い立ちもあり、女優という立ち場の中に自分を押し込めている部分があったのかもしれない。最後に「あかね荘」という居場所を見つけて、いつもの菅野美穂が演じるような明るく自然な雰囲気のキャラクターに戻っていく様子は、後半の見どころのひとつとしても機能していたように思う。

 この美代子と世津子は、谷田部実というひとりの男性を愛したという関係性もある。夫・実の再プロポーズの話を翌日にはあっけらかんと友達に話してしまう美代子と、「雨男(実の記憶喪失のときの名前)さんとの思い出は私ひとりだけのもの」と語る世津子の対比がせつない。

 けれど、みんなが次々とあかね荘を離れていく中、世津子も女優業を再開し、あかね荘という場所を離れるのかという雰囲気を匂わせながらも、「まだいてもいいかな、ここに」と言ったあとの、肩透かしをくらったみね子たちとのやり取りは、『ひよっこ』らしいコミカルな場面であった。そして世津子にとって雨男との時間は、どこか「仮」の場所にいるような感覚であったのだなと思えた。

 朝ドラで“不倫”が描かれることは、『カーネーション』でも見られたが、『ひよっこ』でも、世津子のエピソードだけでなく、あかね荘の大家さん・立花富さんのエピソードでも登場した。

 週刊誌報道で誰かの不倫が常に話題に上り、不倫を肯定すべきとは言わないが、一方的に叩かれて消費されていく様子にも、どこかいびつさを感じる現在、岡田惠和の不倫の解釈が垣間見られるドラマも見てみたいと思った。(西森路代)