画像は「トラベルミン」(エーザイ)のホームページより

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 私が経験した、乗り物酔いを防ぐための市販薬「トラベルミン」(エーザイ)を大量服用して、自殺企図した若年患者例について紹介したい。
 
 20歳代女性、会社員、精神科の通院歴なし。自分自身で薬店よりトラベルミンを購入し、60錠服用した。1時間後より頭痛、嘔気、めまい、耳鳴、気分不快を訴えた。しばらく自宅で様子を見ていたが、症状が改善しないため、自ら救急車を要請。服用から12時間後に病院に搬送された。

 意識は清明、血圧、脈拍も正常であったが、搬送時、血清CPK(クレアチンフォスフォキナーゼ)は23,990IU/L(正常値:40〜150)、ミオグロビン1,520ng/ml(正常値:70以下)、尿中ミオグロビンは3,000ng/ml(正常人は検出されない)と横紋筋融解症に進展していた。

 横紋筋融解症は、骨格筋の細胞に融解・壊死が起こり、筋肉の細胞成分であるCPKやミオグロビンが血液中に流出する病態のことを指す。四肢の脱力感、筋肉痛などを訴え、ポートワイン様の尿が排泄されるミオグロビン尿を呈する。このミオグロビンが腎臓の尿細管に取り込まれて、急性腎不全の原因となることがある。

 この患者の場合、幸いにも腎機能に異常はなく、大量の点滴などの治療を試みた。後日トラベルミンの主要成分であるサリチル酸ジフェンヒドラミン(以下ジフェンヒドラミン)とジプロフィリンの血中濃度の測定を行ったところ、前者は459ng/ml(トラベルミンの1回常用量である1錠服用時は82ng/mlである)、後者は464ng/mlと高値を認めた。

 しかし、翌日にはジフェンヒドラミンは82.6ng/ml、ジプロフィリンは32.5ng/mlと減少し、入院後4日目には供に測定感度以下に改善した。第5病日に無事退院となった。 

トラベルミンと同成分の「ジフェンヒドラミン」を含有する軟膏を誤飲した高齢者

 次に、2013年に薬剤師の竹増氏によって報告された、認知症と脳梗塞を併発していた99歳の女性の例の報告について紹介しよう。

 この患者は就寝時の薄暗い状況下で、処方されたジフェンヒドラミン含有軟膏100g(ジフェンヒドラミンとして2,000mg)を誤飲し、意識レベルが低下し、不穏、呂律困難、振戦などの症状を呈した。

 誤飲から3.5時間後に胃洗浄を行ったが、ジフェンヒドラミン血中濃度は前後で1,150ng/mlより1,050ng/mlと僅かながらも減少した。さらに輸液などの治療にて胃洗浄を行い、6時間後には710ng/ml、翌日には420ng/ml、誤飲から4日目では90ng/mlと著明に低下した。第9病日に退院となった。

ジフェンヒドラミンの大量服用では死亡例も存在する

 2015年の日本中毒学会で、旭川医科大学法医学教室の清水恵子医師は、元来は健康であった20歳代の女性が、自宅のベッド上で死体となって発見された事件について報告した。

 自宅内には、薬物の空き箱などは認められなかった。若年の健康女性であったため、死因に不審を抱き、司法解剖となった。

 その結果、女性には死因となる外傷は認められず、死体の血液より致死量の「ジフェンヒドラミン」が検出された。死因は急性ジフェンヒドラミン中毒であると結論づけられた。

 後日の警察の捜査で、この女性は近隣の薬局より「トラベルミン」を100錠以上、購入していたことが確認された。

急性トラベルミン(ジフェンヒドラミン)中毒とは?

 酔い止め防止の市販薬「トラベルミン」は、抗ヒスタミン作用を有する「ジフェンヒドラミン」と本誌の第36〜38回にて報告したカフェインやテオフィリンと同じキサンチン誘導体の「ジプロフィリン」の合剤である。後者はテオフィリンよりも毒性が低いとされ、本剤の中毒症状は前者が主体を成す。

 ジフェンヒドラミンの中毒症状は、全身の発疹、眠気、倦怠感、頭重感、めまい、動悸、悪心、嘔吐、下痢などの多彩な症状を認め、重症例では、昏睡、呼吸困難、ショックに陥り、最悪のケースでは死に至ることもある。

 致死量は2,800mg以上(本剤70錠以上)。私が経験した症例では、20歳代女性が2,400mgを服用したことになるが、幸いにも救命できた。しかしながら、旭川医大の症例では、放置され、発見に至るまで長時間を要したため、死亡したものと思われた。

 本剤を大量服用した際には、出来るだけ早期に医療機関を受診し、胃洗浄や輸液などの適切な治療を受けることが是非とも必要であろう。

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

横山隆(よこやま・たかし)
小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。