安倍首相(写真:UPI/アフロ)

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 小池百合子東京都知事が25日、国政政党「希望の党」を立ち上げ自身が代表に就くことを発表し、急展開が始まった。28日、野党第1党の民進党は両院議員総会で、希望の党に事実上合流するという前原誠司代表の提案を了承した。同日、自由党の小沢一郎代表も希望の党に合流する考えを示した。
 
 バラバラだった野党が希望の党のもとにまとまり、自公与党の強力な対抗軸になろうとしている。こうした事態を、25日の記者会見で衆議院解散を表明した安倍晋三首相は、予想していたのだろうか。政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏は、こう解説する。

「『大義なき解散』と小池さんも批判しているように、安倍首相はとってつけたような理屈は並べましたが、要は一番傷が浅いかたちで選挙をやりたかったということです。政権支持率が落ちているなか極秘裏に進めていた世論調査で、30〜40議席は落とすかもしれないけれど、少なくとも過半数は取れる。時間が経てばもっと支持率は落ちて、傷は深くなるかもしれない。若狭勝さんと細野豪志さんが新党をつくろうとしているけど体制は整っていないし、野党がバラバラ。今の時期にやったほうが得だという判断で、解散を仕掛けたんですね。小池さんが希望の党を立ち上げて、野党が一丸となってくるということは、想像だにしていなかったことです」

 安倍首相は28日、自民党選挙対策本部の会議で「看板を変えた政党に希望は生まれない」と強い口調で希望の党を批判したが、自民党は実際のところ、どのように受け止めているのだろうか。

「戦々恐々でしょう。特に一番影響を受けるのが、東京の25選挙区。都議選で大惨敗をしたわけですから。9月27日になって、鴨下一郎さんが無投票で自民党東京都連会長になりましたけど、会長の座はそれまでは空席でした。都議選惨敗の責任を取って、会長だった下村博文さん以下、幹部全員が責任を取って辞めました。次はどうするのかということで、『自民党もオープンにしましょう』『選挙に決めましょう』と言っていた。これから選挙をしようという矢先に、衆院解散という話が出てきた。だから先週まで、東京都連の通達で会長名は下村さんでした。通達で会長名が空白ではおかしいので、下村さんの名前になっていた。このままで衆院選に突入するわけにはいかないので、慌てて無投票で鴨下さんに決めたというくらい、東京都連は組織としてガタガタの状態。

 全員落選とまではいかないでしょうが、かなり追い込まれまれるでしょう。『自分は大丈夫なのか?』と不安に駆られている人は、いっぱいいます。それでは、これは東京限定なのか。25日からテレビの情報番組は、朝からずっと『小池』『小池』じゃないですか。全国的な波になるかどうか、ちょっとまだ流動的ですが、かなり影響力は大きくなるでしょう」

●絵図を書いている人物

 前原代表の 「名を捨てて実を取る」との言葉で、希望の党への合流を決めた民進党。捨て身とも見える戦法に、なぜ打って出たのだろうか。

「これにはベースがあります。2012年の総選挙の時に、イタリアの野党再編に倣った『オリーブの木』構想というのが浮上して、滋賀県知事(当時)の嘉田由紀子を代表にして『日本未来の党』が結成されました。1選挙区ごとに1人の当選者を選ぶのが、小選挙区制。野党から2人も3人も候補者が出ていると、政権への批判票が割れてしまって当選できない。自民党と公明党は、政権支持票が割れないように、同じ選挙区に両方が立たないように調整しています。野党も一本化しようというのが、『オリーブの木』構想なわけですが、日本未来の党はみごとに失敗しました。これは嘉田さんの政治経験が浅かったことと、当時の民主党はじめ、他の野党でもいろんな思惑があって、1つにまとまりきれなかったことが要因です。前原さんはそのことを忘れていません」

 今回、野党の候補1本化は、民進党、共産党、自由党、社民党で進んでいたが、民進党の希望の党への合流で、これは白紙になった。

「きちんと裏は取れていないのですが、今まで取材してきた蓄積から総合的に考えると、絵図を書いているのは、小沢一郎さんですよ。嘉田さんを担いで日本未来の党を立ち上げさせたのも、小沢さんですから。蓮舫さんが辞めて、民進党の代表戦に前原さんが出馬、そして勝てると踏んだ時点から始まっていると思います。それまでに温めておいた策を、前原さんは小沢さんと一緒に協議を重ねてきたのだと思います。小池さんというタマを引っ張り出すという仕掛けで、彼女がそこに乗っかったという構図でしょう」

 確かに代表に就任にしてから前原氏は、共産党との共闘の見直しをほのめかしていた。それが現実のものとなったかたちだ。共産党の志位和夫委員長は28日、国会内で開いた党会合で「民進党の候補者が希望の党の公認候補となった場合には、原則として候補者を擁立して戦うのは当然だ」と述べ、対立候補を擁立する考えを示した。

「今はそう言っていますが、降ろすでしょう。4党の野党共闘が進んでいた時には、重点選挙区としている15選挙区以外は、立候補予定者を降ろすと言っていました。希望の党と選挙協力は結ばないと思いますよ。だけど、降ろすのは自由ですよね」

 希望の党への対立候補を共産党が立てて票を食い合うようなら、自公の思うつぼだ。共産党も、そんな愚はおかさないということか。

「もし自公以外の党で過半数を取ったとして、共産党が政権に入るかといったら、それはわかりません。拒否するかもしれない。そもそも選挙協力しないのですし、『自分たちは小池さんを信用できないから、チェックする側に回る』と言う可能性もあります」

●小池知事の立候補は?

 現在までのところ本人は否定しているが、小池氏が都知事を辞めて衆院選に立候補する可能性はあるのだろうか。

「かつて橋下徹氏は、『2万%ない』と言っていた大阪府知事選に立候補しました。(10月5日に)都議会が終わってみないと、小池さんが出るかどうかはわからないですよ、多くの人は出ると思っているけど、彼女だけがサプライズなのかといえば、そんなことは決してないでしょう。それだけで勝てるほど甘くはない。もっといろんなことが出てきて、大きな展開になると思います」

 希望の党の勢いで野党が一本化された場合、自公が過半数を割る可能性はあるのだろうか。

「まだ候補者も出そろっていないし、サプライズに何が出てくるのかわからないような現状では、予測は難しいです。政権交代の可能性がないとは言えない、起こる可能性が大きいとも言えない。投票率が大きなカギです。

 前回14年の総選挙は、史上最低の52.66%という投票率でした。有権者の半分程度しか投票していない。無党派層といわれる人たちがほとんど投票に行かないなかで、熱心な自民党支持層とか、公明党の支持母体の創価学会員の票で、自公が3分の2を占める圧勝を果たしました。投票率が低いと固定の層を持っている党の強みが出るので、共産党も8議席から21議席という躍進を果たしました。

 今回、自民党は今のような状況になることを予測してなかった。ああいう解散をして、大義なき解散と批判されていますが、逆に見ると、有権者が『なんだこれは?』と白けて『そんなつまらない選挙は行きたくない』となって投票率が下がれば、自公に有利になるわけです。希望の党には、連合という労働組合がついていますが、今の組合員が組合幹部の言うことに従うでしょうか。これは固定票とは言えません。カギは無党派層がどれくらい投票するかです。今回、誰も安倍首相に期待感を持ってない選挙です。だから無党派層といわれる人たちが、どれだけ小池さんに期待感を持つかどうか。そこにかかっていると思います」

まだ不透明感の強い、希望の党。有権者をどれだけ覚醒させてくれるのだろうか。
(文=深笛義也/ライター)