契約締結や物品購入に不可欠な稟議書。若手社員もこれから多くの稟議書を作成することになるが、そのコツとは?(写真:uusan / PIXTA)

ある程度の規模の会社に入ると、若手社員でも「稟議書(りんぎしょ)」を作成することになる。

稟議書とは、新規取引先との契約や高額な物品の購入、人材の採用など、個人や直属の管理職である課長の決裁権限を超えるような案件に関して、上司などの許可を得るための書類。会社の規模にもよるが、役員や事業部長など、数人〜十数人の上位役職者がチェックする。会社によっては、「起案書」や「決裁書」といわれていることもある。

「通らない稟議書」の特徴とは?


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文書を作成して、回覧するケースが多いが、電子文書でやりとりしたり、社内のイントラネットに組み込んだりする会社も増えてきている。

稟議書が必要な案件は、言い換えれば、失敗すると会社に小さくない損失が発生するということ。当然、上司などは、シビアに稟議書をチェックする。稟議が通らなければ、その後の仕事の予定が大きく狂うことになる。

「素早く確実に稟議書を通せるようにならないと、多くの仕事をこなせず、成果も挙げられません。若いうちから稟議書を通すノウハウを身に付けたほうがいいですよ」と話すのは、企業研修やコンサルティングを手がけるシナプスのチーフコンサルタント・海老原一司氏。かつてIT企業で新規事業を手がけていた時、年間100本の稟議書を通していたという強者だ。

そんな海老原氏や現役ビジネスパーソンへの取材を元に、「若い社員がやりがちな『通らない稟議書』の特徴」をまとめた。6つの特徴を順に紹介しよう。

1. 必要な5つの項目が書かれていない

「部下が『集客用資料追加発注、10000部、〇〇円』しか書いていない稟議書を出してきた。さすがにこれはないだろう、と突き返した」(流通・40歳)

これは極端な例だが、若手社員の稟議書は「必要な項目がモレていること」が非常に多いという。海老原氏は、稟議書に共通する必要な項目は次の5つだという。

<稟議書に必要な5つの記載ポイント>
・承認を求める案件の具体的な「内容」
・その案件を実行する「目的」
・その案件に関してかかる「費用」
・その案件を実行した時に得られるであろう「リターン」
・その案件を実行した時に、発生する可能性のある「リスク」

会社が用意している稟議書のテンプレートは、これらの項目が明確に示されていない場合が多いが、稟議書を書く際は、上記の5項目が漏れていないかどうか、チェックしよう。

2.リスクに対する対処策がしっかり書かれていない

1で挙げた項目のうち、とくに念入りに書いたほうが良い項目は、「リスク」だ。

「稟議書は、一言で言えば『あら探し』をする書類。会社に損失を与えるようなことにゴーサインを出したとなれば、その上司の責任になりますからね。だから、リスクの部分はとくに注目します。ところが、若い人はリスクの記述が甘い人が多い」(海老原氏)

リスクに関しては、単にリスクの内容を書くだけでなく、そのリスクに対処していることを書くことが必要。たとえば「権利関係はクリアしている」「景品表示法に抵触していないかチェック済み」といったことを書くことで、初めて上司は安心する。

リターンの可能性は明確に記せ

3.リターンに関する記述が甘い

リスクに加えて、どれだけの成果や効果が見込めるのかという「リターン」に関する記述が甘い人も少なくない。契約でも物品購入でも、お金をかけた以上は、必ずリターンがあることを示すことが必要だが、「実際には『大口顧客だから値引きして』といった程度しか書いていない稟議書をよく見かけました」(海老原氏)。「今回の取引で値引きすることで、もっと高額な製品の受注につながる」といったリターンの可能性をきちんと明示することが必要だ。

4.ダラダラと書かれていて、まとまっていない

「部下が出してきた稟議書が、長々と書かれている上、意味がさっぱり理解できない。思わず、『日本語がわからん』といって差し戻した」(通信・42歳)というように、現役ビジネスパーソンからは、「内容の前に、文章が意味不明な稟議書を、ちょくちょく見かける」という声が聞かれた。そうした稟議書に共通するのは、ダラダラとたくさん書かれていることだ。よく読まなければわからない稟議書を提出すれば、忙しい決裁権限者をイライラさせるだけ。これでは通るものも通らなくなる。

パッと見てわかるよう、できるだけ少ない文章で、簡潔にまとめることを心がけよう。

また、決裁権限者が補足説明を求めて、呼び出す場合もある。その際に、しっかりと説明や質問事項に対する受け答えができるよう、きちんと要点を整理しておいたほうがいい。

5.「すぐに稟議が通る」と甘く見積もってしまう

「部下が『この稟議書を3日以内に通さないと間に合わない』と泣きついてきた。そう言われても自分だけで決められないので、サポートにも限界が。というか、もっと早く出せるだろう、と叱りました」(インテリア・43歳)

稟議は予想以上にかかるもの。忙しい決裁権限者が出張などで不在にし、1週間以上放置してしまうことも珍しくない。また、稟議に通らなければ、もう一度作成し直すこともある。にもかかわらず、「すぐに稟議が通る」と甘く見積もってしまう若手は少なくない。その結果、その案件に関するスケジュールが大幅に狂ってしまう可能性もある。

そうならないためには、稟議が通るまでの期間は長く見積もった上で、スケジュールを組むこと。また、できるだけ早めに稟議書を作成し、早めに稟議申請をすることも大切だ。

また、上司や役員の長期出張などの不在の予定を、秘書や同僚などに聞いて把握しておいたほうがいい。そうした状況をつかんでおけば、「いつまでに提出」というスケジュールも逆算することができる。

稟議書を出す前の「根回し」

6. 根回ししないで、稟議書を申請する

ここまで稟議書の書き方について言及してきたが、稟議書を通す上で最も大切なポイントは別にある。それは、「稟議を回す上司などに根回しすること」だ。

海老原氏は、稟議書を提出する前に、必ず上司たちに「こんなことをやろうと思うんですが、良いですかねえ?」と軽く伝えていたそうだ。

「上司たちが嫌うのは、自分が聞いていない案件が、いきなり稟議書で回ってくること。そういった案件は『何かリスクがあるに違いない』といつも以上に警戒するのです。だから通りにくくなる」(海老原氏)

稟議書をあげてから「リスクが大きいので却下」といわれると、それを覆す理由を作るだけで大変な作業になる。しかし、事前に伝えておけば、その警戒感はなくなる。また、事前にダメ出しをされていれば、その部分を修正すれば、通りやすくなるし、そもそも「稟議書の内容説明のための呼び出し」という手間や、却下の可能性も少なくなる。

事前に伝える時のポイントは、稟議にかかわるすべての人に伝えること。「俺は聞いていない」となると、その人がダメ出しをしてくることもある。また、話は数分程度で済ますこと。忙しいなか、時間をとらせると、嫌がられるからだ。

また、その際に、「再来週には発注したいので、来週の前半までに決裁いただけると助かります」と、スケジュール感を伝えておくのも重要だ。

「いかにも日本的なムダな風習だ」と根回しを嫌がる人もいるかもしれないが、そんな小さなコミュニケーションをするかどうかが、後に大きな差となってあらわれる。そう考えたら、やらない手はないだろう。

以上の基本中の基本を守っていれば、稟議書が通らずに困ることはぐっと少なくなるだろう。稟議書を作成する必要がでてきたときには、ぜひ意識してほしい。