「通だね」と言われる行きつけを銀座に作りたい。誰もが一度はそんなふうに憧れるのではないだろうか。

それが銀座の中でも「大人の銀座」と言われる8丁目界隈であれば、そのハードルはさらに上がってしまう。

「粋な銀座の大人」になるため覚えておきたい名店『玉木』を、旬の料理や名物とともに紹介しよう。



オーナーシェフの玉木氏。フランス料理からスタートし、表参道『重よし』で3年間腕を振るい独立。同店では玉木流の洋食を提供している
男なら、店をやるなら銀座で勝負をしたかった

高級クラブや、重役クラスの紳士たち…。その場に満ちる大人の雰囲気に飲み込まれそうになる銀座8丁目というエリア。

そんな「銀座の中の銀座」と言われる場所に名店『玉木』はある。老舗日本料理店など数々の名店がひしめくこの界隈に、『玉木』が広尾より移転したのは2011年こと。

「どうせ店をやるなら銀座でやりたい」。そんな玉木氏の言葉には、銀座という街への敬意が潜む。



こちらも旬の一皿「鰹の薫製 みょうが添え」。毎日店前で藁炙られる鰹。皮目をこんがりと焦がし、藁の良い香りをまとわせている。ソースは自家製マスタード、九条ネギとみょうがを合わせて召し上がれ

その想いを象徴するようなとある常連客との会話も教えてくれた。なぜこの地にオープンしたか聞かれ、「男ですからね、一生に一度は勝負してみたいじゃないですか。」と答えた。

すると「そう、街は『銀座』だけだもんな。」とその方は言ったそうだ。玉木さん自身もその言葉に身が引き締まる思いだったという。やはり「東京の街の代表」はここ「銀座」なのである。

「銀座という街はとてもパワーのある街です。いい加減なことをしていたのではその土地の持つ力に負けてしまう。どっしりと腰を据えて、しっかりといいものを出していなくてはいけない」と、玉木氏は銀座出店当時を思い返し熱く語る。



「しいたけのスープ」。9月末から提供を開始する旬の逸品。干しいたけと昆布を蒸して取った出汁で、新じゃがをほくほくに炊く。
通い慣れた常連客に「今日も美味しいものをお願い」と任せられる喜び

外から見ると看板も最小限、メニュー表はなく、値段も不明。チラリとのぞく店内はテーブルセットが施され……と一見、入りにくさを感じるのも、敢えてのことだ。

こうすることで、いい店に通い慣れた人のみが入ってきてくれて、実際に入ればしっかりと『玉木』の良さを感じてもらえる。そして、良さを知った人は必ずまた来てくれる。

そのいいサイクルを生むために絶妙なバランスで作られた店構えも『玉木』の魅力のひとつと言える。


出汁が染みたあっさりメニューから、絶品メンチカツまで! 気が利いたメニュー構成はさすが!



「神戸牛のメンチカツ」(3,500円)。野菜やフォンドボーなど、約5〜6時間ほど煮込み作られるデミグラスソースは、神戸牛の甘みに合うよう赤ワインをふんだんに使用し、酸味がきいているのが特徴。
『玉木』マジックが作り出す絶品料理の数々!

何も知らず「フランス料理」を食べに行くというだけの頭で『玉木』を訪れ、メニューを見ると意外に思うかもしれない。

ラタトゥイュ、エチュベなどフランス料理で見かける文字も、もちろんあるが多くは普段聞き慣れた料理名ばかりだ。

なかでもおすすめは「神戸牛のメンチカツ」。広尾時代の裏メニューを、銀座移転を機に定番料理に変更した。

神戸牛のもつ脂の甘みを、衣で包み閉じ込めたメンチカツは箸でスッと割れるほど柔らかくジューシー。一瞬で口から消えていったと思うと、後から肉の旨みがじんわりと押し寄せてくる。

これが『玉木』の名を銀座に轟かせたきっかけの逸品とも言える名物である。



「野菜のエチュベ」(2,000円)。『玉木』提供中の料理のなかで一番難しいと玉木氏。野菜の食感はしっかりと残しつつ、蒸し上げられ、シャキッとした歯ごたえと凝縮した旨みが、噛むほどに弾けていく

玉木氏の料理は、「日本の食材を可能な限り手を加えずに美味しく仕上げる」がテーマだという。

そんな想いが現れているのが「野菜のエチュベ」だろう。塩、レモンで蒸煮にした野菜と、ひと言で表現するのは容易いが、これが手間暇かかった品なのだ。

まずマッシュルームをレモン汁で炊き、出来上がったマッシュルーム出汁入りのレモン汁に、塩をプラス。そして鍋に野菜を固い物から順番に入れ、コショウ、コリアンダー、ローリエを入れ、レモン出汁で蒸し上げていく。

蒸してすぐだと、酸味と塩味がとがっているため野菜の旨みを引き出しつつ2〜3日寝かせてから提供しているという、玉木氏渾身の一皿なのだ。



コース主体。21時以降はアラカルトでの注文も可能となる(写真右)右.ワインはフランス産中心。グラス(1,000円〜、ボトル7,000円〜)

30代後半〜80代まで幅広い世代に愛される『玉木』。アラカルトは、ノンオイルとオイルを分けて記載されているのも、年配のお客様にも毎日楽しんでもらえるようにという玉木氏の配慮である。

サービスも上質で、食後ふと気づいたら次の皿に代わっている。きちんと美味しい食事をしながら、接待や会食に利用するのもピッタリだ。

昔は、どの店に入っても「粋に食を楽しむ大人」「お手本にしたい大人」に出会えた銀座。

今ではそういう大人に出会える店も少なくなりつつあるが、ここ『玉木』にならそれがある。

銀座で大人の階段を上るなら、覚えておきたい名店である。