回転ずしチェーン最大手のあきんどスシローと業界5位の元気寿司が9月29日、資本業務提携し経営統合を目指すと発表した(撮影:編集部)

「まさか神明さんが出てくるとは――」。回転寿司大手企業のある幹部は、驚きを隠せなかった。

回転ずしチェーン最大手のあきんどスシローと、5位の元気寿司は9月29日、経営統合に向けた協議を始めると発表した。経営統合を主導するのは、コメ卸最大手の神明だ。10月から11月の2回にわけて、スシローの親会社(スシローグローバルホールディングス)株の約33%をおよそ380億円かけて英投資ファンドのペルミラから取得し、その後、41%を出資する子会社の元気寿司との統合を進める。 

統合協議開始の会見の席上、神明の藤尾益雄社長は統合の時期など詳細は今後詰めていくとしながらも、「スシローグローバルホールディングスは上場会社なので、上場維持を考えている。法人格としてスシロー、元気寿司が(持株会社に)ぶら下がるというイメージ」と、持株会社化による経営統合の構想を語った。

スケールメリットは発現するのか


右からスシローグローバルホールディングスの水留浩一社長、神明の藤尾益雄社長、元気寿司の法師人尚史社長(撮影:尾形文繁)

年間売上高1477億円のスシローグローバルホールディングスと同349億円の元気寿司が統合すれば1800億円を超える売上高となり、業界2位の「くら寿司」を展開するくらコーポレーションの1136億円を大きく引き離すことになる。スシローと元気寿司は規模をテコに、成長戦略を加速する狙いだ。

スシローグローバルホールディングスの水留浩一社長が「2社がいっしょになって付加価値を高めていく。スケールを大きくすることで、コスト効率を高めていく」と語れば、元気寿司の法師人(ほうしと)尚史社長も「スシローとはマスメリットが期待できる。共同キャンペーンを展開するなどPR活動も積極化できる」と説く。

確かに、統合のメリットは小さくない。関西を中心とした国内約460店舗で回転ずし業界を牽引するスシローと、関東圏を軸に国内約150店舗で高速レーンを設置して「回転しないすし」を展開する元気寿司は、出店エリアのバッティングが少なく、店舗の特徴も重複しない。

海外展開でも、相乗効果が期待できる。スシローは2016年に米国店舗を閉鎖したことで、現在の海外店舗数が韓国での8店舗のみ。その点、元気寿司は米国やシンガポールなど11カ国で約160店を運営する。今後も積極的に取り組む方針だ。「元気寿司の海外ノウハウは我々の助けにもなる」(スシローグローバルホールディングスの水留社長)と、海外出店のノウハウを共有化していく構えである。

企業文化の違いで統合破談の過去も


西日本を中心に国内で約460店を展開するスシロー(記者撮影)

国内外での出店戦略などでメリットが描ける反面、仕入れ面での相乗効果は限定的になりそうだ。

コメ卸最大手の神明が筆頭株主になればコメの仕入れ面で迅速な供給や仕入れ安が期待できそうだが、スシローは現状、全農パールライスから供給を受けており、当面この体制を継続する方針だ。

そもそも、回転ずし業界では原材料費に占める割合が1割以下とされており、たとえ全農パールから神明に供給が切り替わったとしても、原材料全体の仕入れ安にはつながりにくいと考えられる。


元気寿司は国内で約150、海外で160店以上を出店(撮影:編集部)

高騰傾向にある魚介類の調達についても、「スケールメリットが出にくい」(前出の大手企業幹部)とされる。スシローグローバルホールディングスの水留社長は「天然魚はスケールが効く世界ではないが、養殖魚は長期的に取引をするケースが増えており、より大きな規模のほうがよい」と語る。とはいえ、すでに業界トップの規模を背景に交渉面で有利な位置にあるスシローが、経営統合でどれだけのコストメリットが出せるのかは疑問が残る。

そもそも、回転ずしの企業は創業者が一代で築き上げたケースが多く、調理方法や店舗運営方法などの企業文化にそれぞれ大きな違いがある。この企業体質の違いが表面化して、経営統合が失敗した例も少なくない。

2007年、ゼンショーホールディングスはスシロー前身会社の株式を創業家から取得し、傘下のかっぱ寿司との2社統合による再編を描いた。だが、企業文化の違いから現場の衝突が激化し、統合計画は白紙になった。

今回、経営統合を主導する神明も2013年から2014年にかけて、元気寿司とかっぱ寿司の統合を図ったが、こちらも計画が頓挫。「元気寿司は店内調理にこだわり、職人肌でおすしのおいしさを追求する。一方で、カッパはセントラルキッチンでネタをカットするなど効率化を重視する文化」と、神明の藤尾社長はかつての破談を振り返る。

「同じ、あきんどやな」

「先日、膝を突き合わせて4時間ほど話した。その際に水留社長のことを『我々と同じ、あきんどやな』と感じた」(神明の藤尾社長)。「ライフワークとしてスシローグローバルホールディングスの社長を続けたい。藤尾社長にクビを宣告されない限りは続けていきたい」(スシローグローバルホールディングスの水留社長)、「今回は素晴らしい出会いとなった。ナンバーワンとオンリーワン企業が出会った」(元気寿司の法師人社長)と、それぞれ蜜月関係を強調する。

スシローと元気寿司は企業文化の違いを乗り越えて経営統合を実現し、相乗効果を発現することができるか。統合の交渉は始まったばかりだ。