企業理念はどこまで社員に浸透している?
多くの会社が「わが社の企業理念」を定めています。でも、それが社員にどれだけ浸透しているか、知っていますか? 気になりますよね。そこで「企業理念、どこまで覚えていますか?」という内容で、ビジネスパーソン100人を対象にアンケートを実施してみました。必ずしも「覚えてる=浸透している」というワケではありませんが、企業理念に対する社員の共感度を知る指標になりそうです。「あたりまえでしょ!? スラスラ言えます」という立派な回答から、「企業理念なんて見たことがない」というザンネンな回答まで、バラエティ豊かな集計結果となりました。
経営の核!?
「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」―。江戸後期の思想家、二宮尊徳は経済と道徳は、どちらが欠けても「ダメ」と指摘しました。このなかにある「道徳」という言葉は「企業理念」と置き換えることができそうです。企業理念は会社として実現したい価値、組織が目指すべき方向を指し示したもの。単なる「人の集合体」を力強い「組織」に変換するパワーがあるんですね。
たとえば、世界規模で事業を展開するトヨタ自動車は、創業者・豊田佐吉の考えをまとめた「豊田綱領」の精神が経営の核となっています。その内容は以下のようなものです。
一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし。
一、研究と創業に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし。
一、温情、友情の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし。
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし。
トヨタ自動車では、この創業者の精神を受け継ぎながら、時代の変化を読み取り1992年には新たな企業理念として「トヨタ基本理念」を策定しています。
企業理念は、社員の目に触れる場所に掲げられていたり、パンフレットや手帳にして社員に配られている場合が珍しくありません。朝礼などで唱和するしている会社も多いでしょう。
ただ、実際に働いている社員にはどのくらい企業理念が浸透しているのでしょうか。
必要がないので覚えない!?
企業理念を働く社員自身がどのくらい認識しているのかを調べるために、ビジネスパーソンに対して「企業理念、何も見ずに言えますか?」という質問をしてみました。
【アンケート概要】
調査地域:全国
調査対象:会社員
男女比:男性55人、女性45人
平均年齢:36.2歳
有効回答数:100サンプル
会社員として働く人たちが、自分の会社の企業理念をきちんと言えるかどうかを、それぞれ0%、20%、40%、60%、80%、100%という割合で換算したらどのくらいになるかを回答してもらいました。また、なぜそのくらいの割合なのかについても合わせて聞いています。
【「0%」の回答例】
・そのようなものがないので、知らない。あったとしても覚える必要性はない(男性、49歳)
「全然、言えません…」と回答した人の多くが、「企業理念そのものを知らない」「企業理念がない」と答えています。う〜ん、「道徳なき経済は…」になっていないか、心配になってしまいます。
【「20%」の回答例】
・企業理念は、私の担当の仕事には影響がないので、覚える必要がないので。(男性、49歳)
・末端にいると企業理念は覚えていないです。特に意識しないで仕事しています。(男性、39歳)
「ちょっと言えます」と回答した人の多くは、「あるのは知ってるけど、覚える必要がない」と思っているようです。企業理念の意味・意義が浸透していない典型のように感じます。
長すぎるから覚えられない!? 【「40%〜60%」の回答例】
・新入社員の時に暗唱していたが、数が多いので一部忘れたので自信がない(男性、33歳、40%の意見)
・毎日唱和しているので、ある程度は言えますが怪しい部分もあります。(女性、32歳、60%の意見)
・企業理念が細かく多岐にわたり、暗記できる長さではなかったからです。(男性、33歳、60%の意見)
「半分くらいなら、なんとか」と回答している人の会社では、企業理念の浸透を図る取り組みがなされてはいるようです。でも、日々の仕事と理念が結びついていない、そんな様子がうかがえそう…。
【「80%」の回答例】
・毎日朝礼で言っているのでほとんど覚えているが、長いので全部間違わずに言えるかはわからない。(男性、46歳)
「ほとんど覚えています!」と回答した人は、「いつも唱和しているから」という理由を掲げたケースが多く見られました。「暗記=浸透」ではありませんが、組織に横軸を通そうと、積極的に理念浸透にコミットしている様子が感じられます。
【「100%」の回答例】
・毎朝、朝礼中に全社員が大声で言うのでいつの間にか自然と暗記しました。(男性、27歳)
「完璧に言えます」とした人は、朝礼など日常のなかで斉唱する機会があるため「自然に覚えた」という回答が多く見られました。
覚えている人が多い会社は楽しそう!?
少し変わった少数派の意見もご紹介しましょう。100%から0%まで、目についた回答をまとめました。
【変わった回答】
・分かりやすいキャッチーな企業理念なので何も見なくても全て言えます。(女性、31歳、100%の意見)
・定期的に上司による面談があり、理念を言って想いを話すという場面があるからです。(男性、28歳、60%の意見)
・生きていく為の生活費を稼ぐ為に働いているので、愛社精神に欠けているので全部を暗唱できない。(男性、37歳、60%の意見)
・今、働いている会社にはなんの興味もありません。いいところがあれば、すぐにでも転職したいと思っています。そもそも企業理念があるか疑問です。(男性、32歳、0%の意見)
・まったくでたらめで理念やビジョンのない経営がなされています。困っています。(男性、37歳、0%の意見)
面談で理念が話題に上る会社があったように、企業内で理念が浸透しているところもあるようですね。また、企業理念がしっかり頭に入っている人のなかには、企業理念自体がリスペクトできるような理想をかかげていたり、共感を得やすい内容であったりする様子もうかがえました。会社の雰囲気も楽しそうですね!
自分も理念づくりに参加し、取引先の評価も得た人は企業理念に誇りを持っている様子がうかがえましたね。理念浸透をはかるヒントになりそうです。
一方で、全く覚えていないケースでは企業理念はもちろん会社そのものにも興味がなく、不満を抱いていることもあるようです。そのため、100%言えるという人とは真逆で、会社や企業理念をリスペクトすることはできないのかもしれません。殺伐とした空気が伝わってきそうです。
まとめ ―想いを伝えるのは難しいけれど…
経営学者のピーター・ドラッカーも「複雑なものはうまくいかない」と言っています。経営者の大切な想いであっても、あまり詰め込みすぎると社員には伝わらないのかもしれません。社員にも理解しやすく浸透しやすい企業理念ならば、社会からも共感されて親しまれるのではないでしょうか。想いをわかりやすく伝えるのって、難しいですね。
あるベンチャー企業の経営者は「暗記しているかどうかより、判断に迷った時、企業理念がその人にとってビジネスパーソンとしての指針になればいい。仕事だけではなくひとりの人間としての生き方の“道標”になってくれたら最高」と話していました。
「企業理念って、そもそもどうなの?」と冷めた考えをもっている方がいるのだとしたら、社長や上長に「どんな想いでこの企業理念をつくったんですか?」と質問してみてはどうでしょう? 意外な発見があるかもしれませんよ。