街の本屋をこよなく愛する3人が、書店を取り巻く状況について熱く語り合った(編集部撮影)

書評サイト「HONZ」代表の成毛眞氏、東京・下北沢で「本屋B&B」を経営する嶋浩一郎氏、日本橋浜町に「Hama House」という複合型書店を立ち上げたイベントプロデューサー水代優氏。"街の本屋"をこよなく愛する3人が、9月1日、リアル書店を取り巻く状況について熱く語り合いました。読者の皆さまをお招きしてスルガ銀行ANA支店 Financial Center(東京・日本橋)で行われたセミナーの模様をここに再録します。
なお同セミナーの模様は9月19日放送の「AbemaPrime」(2000年のピークから4割減、姿消す“町の本屋さん” 生き残り賭けたサービスとは?)でも報じられました。こちらの記事と動画もあわせて御覧ください。

B&Bが引っ越しの危機に


成毛 眞(なるけ まこと)/1955年北海道生まれ。中央大学卒業後、アスキーなどを経て、マイクロソフト日本法人に入社、1991年より社長を務める。2000年に退職後、インスパイアを設立。現在は書評サイト「HONZ」代表、スルガ銀行の社外取締役などを務める。『ノンフィクションはこれを読め!』(中央公論新社)ほか著書多数

成毛:まずはそれぞれの自己紹介から始めましょう。北海道出身の成毛眞、61歳です、髪の毛は染めています。マイクロソフトに20年おりまして、インスパイアというベンチャーキャピタルとプライベートエクイティの会社を自分で作りました。VCとしてはそこそこ成功していると思います。あとは、「HONZ」という書評サイトをやっていますので、今回の鼎談のコーディネーションをしてほしいということで声が掛かりました。それではお二方も自己紹介をお願いします。

水代:good morningsの水代優です。愛媛県の松山出身です。今月、「Hama House(ハマハウス)」という体験型の書店を作りました。主な仕事は場づくり・街づくりです。これまで、丸の内カフェという10年くらい続いたものの運営。神田の街づくりとか、場としてのカフェを作ってきました。そのときに確実に必要なのが本でした。本は表情を作りますし、その人の人格が本棚を作るんだなと思っています。本自体が街づくりで、まさに知育だと思っています。僕自身は編集者の目線で作っているので、この企画ならば誰が買ってくれるかなあと思いながら、町の場をつくっています。場づくりを編集にとらえて街づくりをしています。

:下北沢の南口で「本屋B&B」という書店を2012年にスタートさせました。契約が切れるため、ホームページで引っ越し先を募集したら、結構情報をいただきまして、近所に引っ越せることになって一安心しています。決まるまではずっと胃が痛かったです。

成毛:嶋さんでも、胃が痛くなることがあるんですね。


嶋 浩一郎(しま こういちろう)/1968年東京都生まれ。上智大学卒業後、博報堂入社。朝日新聞社への出向などを経て、2006年に博報堂ケトルの社長に就任。本屋大賞の設立メンバーとして、現在も理事を務めるほか、下北沢で本屋B&Bを経営する

:僕は1993年に博報堂入社し、主にPR関係の部署におりました。社長の記者会見とか、プレスリリースを出したりです。12年前に、博報堂ケトルという会社をスピンオフして社長をやっています。会社は企業のマーケティング課題をさまざまなコミュニケーションで解決する仕事をしていて、資生堂、トヨタ、ソニーなどのCM、デジタルコンテンツなどを作る仕事をしています。同時に本に関する仕事もしていて、90年代から集英社や講談社の雑誌の創刊キャンペーンを手がけたり、15年前にできた「本屋大賞」の立ち上げメンバーで、今も理事をやっています。

8年前に『ブルータス』の取材で、個性派本屋を回って記事を書きました。そこで経営が厳しいという声を多く聞きました。僕はマゾなんで、本当かなと思って。自分の生活の動線に本屋があるのはすばらしいですよね。買い物や、待ち合わせの途中で本を買ったり。ビジネス的に21世紀に自走できる書店はできないかという挑戦でB&Bを作りました。大手出版社の人から「今どき本屋なんか作ったって儲からないよ」と言われましたが……。その人たちはデスノートに名前を書き込んでます(笑)。

本屋は共産主義的なビジネスモデル

本屋は小売り流通としては共産主義的なビジネスモデルです。売値も仕入れ値も全部決まっていて、高く売ろうとか安く仕入れようという融通が利きません。しかも、1000円の本の取り分は22%しかない。飲食店の粗利の半分以下です。高度成長期ならばいいけれど、今の時代には正直成り立たない。だから街の本屋で何ができるかと考えて、ブックス&ビアにしたんです。

内沼晋太郎君というブックコーディネーターと共同経営をしておりますが、この本屋のいちばんの特徴は、アホみたいに毎日文芸作家、ノンフィクション作家、編集者を呼んでイベントをしていることです。土日は2回やるので、365日に500回やっています。本屋でのトークショーは出版社持ち出しでやっているケースが多いですが、うちは自分たちの主催で、出てくれる方にわずかですがファイトマネーを支払っています。それが2万円で、10人以上のお客さんが来てくれてようやく回収できます。今、平均すると30〜40人は来てくれるので、なんとか黒字経営を6年続けられています。

成毛: さて、そもそも3人の関係は?という質問をいただいてます。

:成毛さんとの出会いは、編集工学研究所の松岡正剛さんに紹介してもらったのが初めです。楽屋で「マルチタスカーはすごい!」だなんて言ってましたね。

成毛:水代さんと嶋さんの関係は?


水代 優(みずしろ ゆう)/1978年愛媛県生まれ。IDÉEにてカフェの立ち上げ等の業務に携わる。2012年good morningsを設立。街の価値を高める場づくりをさまざまな場所で仕掛ける。2017年9月、日本橋浜町に複合型書店Hama Houseを開店したばかり

水代:今日が初めてです。成毛さんは硬派ジャーナリストの磯山友幸さんに紹介していただきました。日本経済新聞のチューリッヒやフランクフルトの支局長をされていた方で、僕が独立したと言ったら「ご褒美に偉い人に会わせてあげるよ」ということで、成毛さんの事務所に連れて行ってもらったのが最初です。

成毛:そうでしたか。話が戻るんですが、本屋の経営というのはどのように大変なのか。思いを語ってもらいましょう。本屋の先輩である嶋さんから。

:SPBS(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)という本屋を10年やっている福井盛太さんと、うちの周年イベントでお話ししました。彼曰(いわ)く「本屋の仕事のほとんど大半が地道な努力だと」。まさにその通りだと思います。ガウディの建築のようなものです。毎日、暫定1位の本棚を作る。いい本屋はどんどん本が売れて棚が空く。次の日には店にある在庫でいちばんいい状況の棚を作り直す。毎日この並びがいちばんいいなと暫定1位を作る作業の繰り返しです。植木の面倒を見るようなものですね。

本屋は元祖セレクトショップだ

成毛:今は、どこの書店も取次からパターン配本を受けて販売するのが多いですよね。

:築地の市場で魚屋さんは魚を仕入れて、そこからは魚屋さんの責任です。本は委託販売制度というものがあります。出版社があって、取次という卸が真ん中にあって、書店がある。売れなかった本は、取次経由で戻せます。出版社は戻ってきた本をまた別に回したりする。そのシステムだと取次は「売れないものは送りたくない」と思うようになる。ですからデータを見て売れ筋の本だけを全国に送ることになり、同じベストセラーが並ぶような金太郎あめ書店が増えるのです。B&Bは取次にプレゼンをして、パターン配本を断って、1冊ごとに対応してもらっています。

本屋というのは元祖セレクトショップであって、どこで買っても『BRUTUS』は一緒ですが、見せ方がそれぞれ違うのがいいところだと思っています。

成毛:補足すると、取次不要論というものがあります。大手(書店)にはベストセラーがずらっと並んで、どこの本屋も同じじゃないかと。本は年間8万点、1日に270冊出ていますから、新刊すべて見通すのは不可能に近い。書店数が減ったとはいえ1万4000軒です。出版社は3500社ある。それだけの組み合わせをどうするか? 現実に8万点の書籍をわかっている人はほとんどいませんから、コンピュータを使ってパターン配本にならざるをえません。水代さんのところもパターン配本ではないですよね。

水代:今回は1冊ずつ自分で選んでます。最初なんで、ジャンルも切り口も編集もせずに自分が読みたい本、好きな本だけ並べたらどうなるかなというところから始めました。変えていきたいとは思っていますが。

3つの扉がきれいな店ははやる

成毛:イベントはやるんですか?


会場には「本好き」がたくさん集まった(編集部撮影)

水代:はい。Hama-Houseさんという、店名と同姓同名のイラストレーターの方の個展をやります。そのほかにもイベントを連続的に行っていきます。

カフェ自体は本職で20年くらいやっていますが、昔は勝ったり負けたりの繰り返しでした。

あるとき、負けパターンは2つしかないと気づきました。メンテナンスとコミュニケーションの問題です。簡単にいうと、お店の3つの扉、つまり冷蔵庫・入り口・トイレがめちゃくちゃきれいで、早番遅番、キッチン、ホール、ギャルソンがみんな同じ方向を向いていることが大事です。この状態が続いていれば負けはないという実感があります。

僕も多いときには年間140本くらいの体験型のイベントをやりましたが、いちばん必要なのはハプニング。自分が想像しない角度からの出会いだと。そのときに、おカネがいらなくて、遊びに来る方法はないかなと? カフェだとコーヒーを頼まないでいたら感じ悪いですが、本屋ならばそうではない。ゆっくりごろごろできるので、より面白い出会いが起こるのではないかという仮説に基づいて本屋を立ち上げました。

(構成:高杉公秀)