台北市内の工房で弟子らと並ぶチャイナドレス職人のリン・チンテ(右)(2017年8月30日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】台北(Taipei)の静かな作業場で、何十年も伝統的なチャイナドレスを作り続けている師匠の監視のもと、3人の若い女性が注意深く、裁縫とアイロンをかける作業にいそしんでいた。

 74歳のリン・チンテ(Lin Chin-te)は、台湾の現役職人の1人。かつては多くの女性の日常着の一部であった、体にぴったりとした高襟の服を手作りすることを専門とする。彼の作業場には、精巧な刺繍を施したシルクの赤いロングドレスや、より着やすい素材でできた短い丈のものなど、あらゆるチャイナドレスがつり下げられている。出来あいのものよりずっと高価で非実用的と思われているテイラーメイドのチャイナドレスは、今やほとんどの場合、結婚式や特別なイベントで着用されるだけだ。

 リンは、ドレスメーカーたちが彼の技術を学ばず、徒弟に彼のノウハウが伝授されていかないことを心配している。37歳のホン・チュツ(Hung Chu-tsu)は、3人いるリンの弟子のうちの1人。「師匠はとても忍耐強い」と、自作だという膝丈の青い花柄のチャイナドレスをまとった彼女は言う。「我々は基礎から学び始め、一針ずつ学んでいった」

 チャイナドレスは美しいと語るホンは、子供を持った後、看護師としてのキャリアを捨ててドレスメーカーになる勉強を始めた。彼女は将来、自分の店を持ち、現代の生活に適したハンドメイドのチャイナドレスを販売することを計画している。しばしば微笑みながら、サスペンダーでつりさげたズボン姿のリンは、指抜きを中指にはめて、60年間の彼の経験が無駄にならないようにしたいと語った。「私は彼らが将来自立できるように、できるだけ多くを弟子に教えたい」

■SNSで人気を獲得する若手デザイナー

 チャイナドレスは、17世紀から1900年代初頭まで中国を支配した満族が着用した、長く、ゆるい衣装「チーパオ(qipao)」が発祥だ。この必需品は、ぴったりとしたシルエットに改造された1920年代の上海(Shanghai)で人気に火が付いた。女性らしさや洗練の象徴として、女優や知識階級に愛された。広東語では「チャンサン(cheongsam)」として知られている。共産軍が1949年に権力を掌握した後、内戦が続き、チャイナドレスは資本主義に関連付けられたものとなり人気は下落した。

 しかしチャイナドレスは、戦いに敗れ、中国本土から逃走した民族主義指導者の蒋介石(Chiang Kai-shek)が、別の政府を設立した台湾で崇拝者を得る。熱心なチャイナドレス愛好家でもあった蒋介石の魅惑的な妻、 宋美齢(Soong Mei-ling)は上海の上流社会に属しており、台湾の流行にも影響を与えた。これによって多くの女性が1970年代まで、チャイナドレスを日常着として着ることになった。 大量生産された安価な服は魅力を失い始めている。そして近年高まりつつある反中国感情は、本土の文化とチャイナドレスを関連付け、若者の気をそいでいると言うデザイナーたちもいる。しかしながら25歳のリ・ウェイファン(Lee Wei-fan)は、ファンはいまだ存在すると語る。彼はデザイン仲間とともに、自分たちが参入してみたいニッチ分野を切り開くことを決心し、高齢の師匠からチャイナドレスの作り方を5年間学んだ。リーは半年前に自身のビジネスを立ち上げ、「チャイナドレスの男(Qipao Hunk)」という名前のもと、ソーシャルメディア上でファンを得た。宣伝効果を狙ったものだと、彼は赤面しながら認めた。

 彼の顧客は花嫁からビジネスウーマンまで、チャイナドレスを優雅だと解釈する人たちだ。伝統的なアジアンスタイルへの興味は高まっており、それを利用することを望んでいるとリーは語る。そして「より珍しい技能を持っている職人の競争は、もっと激しくなるだろう」と付け加えた。リンとリーのどちらも価格を明かさなかったが、ドレスメーカーの職人は生地代を含めず、8,000台湾元(約3万円)以上を請求する。

■チャイナドレス姿でフラワーアレンジメントも

 台湾で最も有名なチャイナドレスの製作者は間違いなく、65歳のチェン・チュンシン(Chen Chung-hsin)だ。彼はチャイナドレス制作へ熱意を抱いてもらうため、ツアーグループや学校の遠足修学旅行のために、自身のこじんまりとした工房を公開している。台湾人監督、侯孝賢 (ホウ・シャエシェン、Hou Hsiao Hsien) 監督がカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した、アクション映画「黒衣の刺客(The Assassin)」の衣装を手掛けたことでも有名だ。チェンは父親からその技術を学び、店を継いだ。 彼は顧客たちのチャイナドレスを「幸せな気持ちを込めて」作っていると語る。「もっと多くの人たちに、既製品とは違う、伝統的なオーダーメイドのチャイナドレスを見てほしい。私のものは、彼らの体形をより良く見せる」。彼の上顧客の1人である台北のマーケティング・エグゼクティブ、ヨギ・マ(Yogi Ma)はこの伝統衣装を日常着にするためにチャイナドレス・クラブを設立した。チャイナドレスはどのような体形にも似合い、異なるカッティングや生地を使うことによって近代的にすることも可能だと彼女は言う。

 チャイナドレスを「中国人女性の美」を表すものと見ている42歳のマは、「チャイナドレスはとても優雅でかわいらしい。今、着用している女性が少ないことは残念だ」と語る。彼女のフェイスブック(Facebook)を拠点とするクラブは4,000人以上のフォロワーを持ち、ウィスキーの試飲からフラワーアレンジメントまで、メンバーたちがドレスを着用して参加できるイベントも主催している。

【翻訳編集】AFPBB News